747.獣の歓喜を滾らせろ
「ハアーッ、ハアーッ」
キッツい、今にも精錬剣が消えそうな程に。
《――“瞬間再生”!!》
やっぱり、使ってきやがったか。
「――クッ!!」
共鳴精錬剣の維持で、シューラが辛そうだ。
そりゃそうか。ついさっき十二文字刻めるようになったばかりなのに、維持するだけでも大変な初めての共鳴精錬。
《使っちまった……“瞬間再生”。これじゃ、負けを認めたような物じゃねぇかッ!!》
アルファ・ドラコニアンが、勝手に盛り上がっている。
コイツの念能力も無限じゃないはずだけれど、まだ限界には遠いか。
――後方から光が駆け抜け、アルファ・ドラコニアンにぶつか……念能力で防ぎつつ、回避行動。
「今の、ラウラか」
デカい機械銃で援護してくれたらしい。
「――“射出”!! “狂血回転術”、ブラッドブレイズ!!」
ユイリィの大型トンファーから複数のチャクラムが発射され、神代の暴威も纏った状態で蜥蜴野郎に迫る。
《“狂血悪魔剣術”、ブラッドデビル――ブレイドサークル!!》
念能力で強化した剣で、迫るチャクラムを迎撃している!
「……悪い、コセ。もう……」
シューラが限界を迎え、精錬剣が解除されてしまう。
「大丈夫。助かったよ、シューラ」
笑顔で応えてくれる彼女が、愛らしくて堪らない。
「……」
左手に持ち替えるも、精錬剣を作り出せる感覚が無い……それだけ、俺にももう余力が無いんだ。
「“六重武術”――“衝撃棒術”、インパクトスイング!!」
《邪魔だ、雑魚が!!》
トキコが、もろに衝撃波を浴びてしまう!
《いい加減――鬱陶しいわ!!》
「“神代の鎧”!!」
全力の衝撃波が部屋を埋め尽くし、俺とシューラ以外が入り口近くまで吹き飛ばされた!
「シューラ、みんなを頼む」
俺に残された手札で、ほぼ万全のドラコニアンと渡り合う方法は……いや、アレはダメだ。メルシュからも釘を刺されてるし。
「装備セット2」
“サムシンググレートソード”と、“偉大なる英雄竜の猛撃剣”の二刀流へ。
「――“神代の剣”!!」
両方に十二文字刻み、青白い刀身を伸ばして畳み掛ける!
《ククク! 必死だな、奴隷種! 貴様の焦りが、俺には手に取るように解るぞ!!》
俺の必死の連撃も、剣一本で防がれるか!
「“二刀流”――“大地剣術”、グランドブレイク!!」
――変態的な動きで、左右から迫る剣を躱した!?
《そろそろ限界らしいな!!》
――高速移動からの膝蹴りが、鳩尾に入るッッ!!!!
「ガ……ガハッ!!」
呼吸が荒過ぎて……一言も発せられない。
《無様な貴様を甚振ってやりたいところだが、俺は間抜けじゃないんでな》
「――ぅ“竜化”ッ!!」
上から背に凶刃が突き刺さる瞬間、“竜化”したことで九死に一生を得るッッ!!
《な、なんという浅ましさよ!! 潔く死ねば良い物を!!》
突き刺された剣を乱暴に動かされる程に、MPが減っていくのが解るッ!! 幾ら“世間師”のサブ職業でMPの総量が増えているとはいえ、このままじゃ!!
「――“神代の放線”!!」
アルファ・ドラコニアンが奔流に飲まれ、奥の銀の壁に激突……した?
「ご主人様!!」
トゥスカが駆け寄って来て、背中から剣を抜いてくれる。
「スティール……スティール!」
所有権を奪ったのか。
『ハアハア、ハアハア」
“竜化”を解き、息を整える。
《よ……くも――よくもやってくれたなぁぁ!!》
左腕がかろうじて残っている程度にはダメージを負ってくれたらしい、血だらけのドラコニアン。
「“超神竜化”!!」
この強烈な気配――マサコか!
『“超竜猛進”!!』
雄々しき人竜が、ドラコニアンに仕掛ける!
《神代文字を刻めぬ者などに!! ――なに!?》
不可視の力がマサコを襲おうとした瞬間、彼女に注がれた三つの神代の光が、彼女を守った!
『“超神竜棒術”――シェンロンブレイーーク!!』
金色のオーラを纏ったハートロッドが、ドラコニアンの肩を陥没させる!
『超神竜連けぇぇん!! ――オララララララララララララ!! デリャぁぁぁ!!』
黄金のオーラを纏わせた拳を繰り出し、アルファ・ドラコニアンを滅多打ちに!
《がぁぁッ!! ――いい加減にしろぉぉ!!》
衝撃波で後退させられるマサコ。
派手に攻撃が決まっているように見える物の、神代文字を操れないマサコでは、念の防御を効率的に破る事が出来ていない。
――ドラコニアンの拳がマサコの顔面に入り、そのまま攻守が逆転してしまう!!
「……覚悟、決めないとな」
「諦めるんですか、ご主人様……」
「まさか。俺が決めたのは、メルシュとの約束を破る覚悟だ」
シューラ達の援護虚しく、マサコとの距離を詰めるドラコニアン!
『“獅子王撃”ッ!!』
《囀るなッ!!》
カウンターが決まり、派手に床を転がっていくマサコ……“超神竜化”も解け、ピクリとも動かない。
《雑魚のくせに、手こずらせやがって》
「おい」
マサコに近付こうとしたドラコニアンを、呼び止めた。
「俺と、最後のゲームをしようじゃないか――装備セット3」
右手に“サムシンググレートソード”、左手に――“堕ちた英雄の魔剣”を手に。
……赤い文字を刻む感覚は、もう解ってる。
“グレートソード”を奪い、グレートオーガの首を刎ねた時のような――獣の歓喜が滾るようなあの感覚!!
同時に、“サムシンググレートソード”にも神代文字を刻む!!
「ハアハア、ハアハア」
模造神代文字と神代文字、それぞれを九つ刻んでみせる!!
《……なんだ、それは?》
「さあな」
思っていた通り、模造神代文字は神代文字と根本から異なる。故に、神代文字を刻む集中力を消耗していても、模造神代文字なら問題ない。
ただ、この獣のような感覚に身を任せると、破滅を引き寄せそうな予感がするな。
「行くぞ!!」
《図に乗るな、死に損ないが!!》
左腕に念能力による捻れを覚えるも、模造神代文字の力を炸裂させて弾き飛ばす!!
「“二刀流”――“飛王剣”!!」
赤と青の斬撃を飛ばす!!
《クソッタレが!!》
再度アクロバティックな動きで回避したところに、“超噴射”で即座に迫る。
「――クロスブレイク!!」
赤と青の光が互いを打ち消し合う刹那に生まれた暴威が――瞬間的に交差する衝撃波の威力を増大させた!?
《が……ガフッ……ぐぁ……ぁ》
胸の血肉を大きく爆ぜさせ、瀕死の重症を負わせる事に成功。
《俺が……負け……るなど…………》
アルファ・ドラコニアンが頽れ……息を引き取る。
最後の力を振り絞り、銀の壁を破壊……剣から文字が消える。
「ハアッ、ハアッ」
「――ご主人様ッ!!」
俺の背後から、くたばったはずのドラコニアンが――
「“混沌剣術”――カオスブレイク」
巨剣が、死に損ないを薙ぎ払った?
「……これ、没収ね。スティール」
堂々と歩いてきて、“堕ちた英雄の魔剣”の所有権まで奪っていくメルシュ。
「シューラ、とっとと回収してきて!」
「お、おう……」
壊れた壁の向こう、浮かぶ白い輪っかを回収しに行ってくれるシューラ。
「メルシュが行けば良いんじゃ……」
「あれ、NPCが回収できないようになってるから。それより――私、模造神代文字は使うなって言ったよね?」
今までで一番、メルシュの圧が強い!!
『5番エリアのSSランクが回収されたのを確認しました。よって、現在5番エリアに居る皆様は、第三回大規模突発クエストをクリア。依頼達成です』
「よ、ようやく休めるな!」
なんとか、死者を出さずに済んだ……はず。
「……後日、改めて説教するから」
「……はい」
こうして、俺達の第三回大規模突発クエストは、幕を閉じた。
他エリアの皆は、無事に戻ってきているだろうか……。