743．吉兆と凶兆の双翼と玉座
「“冥雷魔法”――サンダラスヘル!!」
黒紫の爪が生えた黒雷に神代文字を込めて、アルファ・ドラコニアン・アバターに放つ！
『ノルディックが!!』
回避行動を取りつつ、回避しきれない分は念能力で弾いたってわけね！
「“鞭化”――“絡め取り”!!」
白銀の杖、“吉兆片翼の銀鳳凰”を鞭にして、拘束してしまうアオイ。
「姉ちゃん！」
「任せなさい！」
鞭杖に刻まれた九文字分のアオイの力、簡単には抜け出せないでしょう！
「“水銀剣術”――マーキュリースラッシュ!!」
五十ステージに進むまでに作ったサブ職業、“水銀の卓越者”の力を“ヘビーバスターソード”に行使!!
――刀身の横から衝撃波をぶつけられて、軌道を外された！
「――水銀脚!!」
少しでもダメージをと、顔面に蹴りを見舞う！
アオイとの文字の共振で、あの子の戦い方が手に取るようにわかんのよ!!
「“投槍化”――“水銀投槍術”、マーキュリージャベリン!!」
九文字刻んだ“凶兆片翼の銀鳳凰”を、投げつける！
『舐めるなよ！』
跳躍からの一回転で回避された挙げ句、念の重圧を叩き付け――まず、神代文字の力を自分から手放し――!!
「“水銀投槍術”――マーキュリーセブンジャベリン!!」
“トリプル薬液スピアー”を投げながら、拘束に使っていた鞭杖で私の凶兆の杖を回収してくれるアオイ。
七つに分裂した槍は一発が直撃し、左肩を僅かに腐食させていた。
『“重力砲”!!』
アオイの薬液槍が、ドラコニアン・アバターの腕の大砲からの攻撃で破壊されてしまう！
「私の槍……」
「――ルイーサ!?」
旋回するように飛び回っているルイーサが、アルファ・ドラコニアンに良いように攻撃され続けている!?
「アイツ、神代文字を使ってな……まずいわよ、アオイ！」
「うん、コイツをさっさと片付ける！」
共振する神代文字を、無理矢理引き上げていく！
「アオイ……あんた」
強く共振した事で、アオイの気持ちが深く伝わってくる。
「二人には、色々背負わせちゃったなって……だから、生き返らせてくれたコセ達には……感謝してる」
「……私もよ」
アオイの死に、私は気持ちが突き抜けた。ある意味、割り切れたと言って良い。
たぶん、一番引き摺っていたのはルイーサだ。
自分の援護に来てくれたのに、目の前で死なせてしまい、私が傷付くのを見て……アイツが悲しみに沈む機会を、気持ちを整理する権利を……私が奪ってしまったんだ。
「やるわよ、アオイ！」
「うん……アヤナ！」
私の“凶兆片翼の銀鳳凰”とアオイの“吉兆片翼の銀鳳凰”に込められた想いが溶け合い――一つとなっていく。
私達の手の杖が、四翼の絢爛なる鳥を戴く杭のような純銀の大杖――“吉兆と凶兆の双銀鳳凰”へと生まれ変わる!!
「「“神代の剣”!!」」
杖の飾りの上に、青白い刀身を形成。
『インターバルは……クソが！』
大砲を見て愚痴るロボット野郎。
“重力砲”、暫くは使えないみたいね。
「“座標指定”――“六重詠唱”、“神代の魔法陣”」
六つの魔法陣を、奴を囲う形で出現させる。
『こんな包囲！』
「――マーキュリーバイパー」
神代文字で強化されたアオイの水銀大蛇が、ドラコニアンに纏わり付いて脱出を封じる。
「――アトミックレイ!!」
六方向より、滅却の光芒を浴びさせた。
「姉ちゃん！」
「ええ、決めるわ！」
アオイと共に、ショートしている不良品に向かって駆ける！
『ジュ、“重力――』
「「“水銀剣術”――マーキュリースラッシュ!!」」
罰字に切り裂いて、邪魔者を黙らせた。
○○○
止むことのない衝撃波に、嬲られ続ける。
これ以上は、耐えられない！
「“白骨火葬”!!」
衝撃波の縫い目に灼熱の灰を放ち、意表を突く！
「“極光剣術”――オーロラスラッシュ!!」
――頭を捉えていた剣筋が不自然にズレて、肩に!?
《ぐぁぁああああ!!》
念で、致命傷を逃れたのか！
《“武具封じ”ッ!!》
“ヴェリタライズ”が私の手から離れていった瞬間――尻尾の薙ぎ払いによって盾まで手放してしまう!!
《もういい――死ねッ!!》
身体に、逃れられぬ力が作用し始めて……捻じ切られ――迫ってきた神代の力の奔流に、不可視の力が掻き消された？
《チ！》
「ハアハア……アヤナ、アオイ」
いつの間にか形を変えた二人の杖に、十二文字が刻まれている。
「“絡め取り”――ルイーサ!!」
知ってか知らずか、“武具封じ”対象外の“ヴリルの祈りの聖剣”を回収してくれるアオイ。
「随分手こずってるじゃない、アンタが」
「偉そうに飛び出したのにね」
「ハハ……まったく」
もう長いこと支え合っていた双子だが……こんなにも頼もしく感じるなんて。
「――ヴリル！」
聖剣に、十二文字を刻む。
続いて、もう長いこと使っていなかった思い出深い装備、“パラディンストーンの剣盾”と“不知火の直刀”を実体化し、床へ静かに置く。
「「ルイーサ？」」
《武器を捨てた？ ――やはり、高周波の奴等は不気味だな。突拍子のない意味の解らぬ行動を取る！》
「お前に理解できないだけで――私には理由がある!!」
これまでに私を支え、助け、救ってくれた武具との思い出を胸に――更なる姿へと昇華!!
盾は一つあれば良いから、“古生代のヴァリアブルシールド”も“パラディンストーンの剣盾”も要らない。“不知火の直刀”は役不足。数多の聖剣の力を生かすためにも、もっと剣を収めるための鞘が――――この身に欲しい!!
「ルイーサの鎧が……二つの盾と熔け合っていく？」
「剣も……いっぱい吸い込まれてった？」
二人の声が、どこか遠くへと赴いていた私の思考を引き戻してくれた。
《……高周波存在が手繰り寄せる……奇蹟の現象》
右肩に“古生代のヴァリアブルシールド”、左肩に“パラディンストーンの剣盾”の原形を留めた小さな盾が付き、“聖遺物の鞘”まで統合された“高位騎士の聖鎧”改め――“ヴリルの偉大なる聖剣玉座”となる。
右手の“ヴリルの祈りの聖剣”を左腰の鞘に収め、左肩の盾鞘より、“パラディンストーンの剣盾”の剣と“ザ・ディープシ－・カリバーン”、“大天使の黄金聖剣”を統合せし――“天海炎上の騎士聖剣”を“抜剣”!!。
「――“天海炎上”」
白い水と炎を剣に纏わせ、次にこの剣で繰り出す攻撃に水と火の属性を付与すると同時に、威力も倍加させる“天海炎上”。
“天海炎上”は相手の火耐性、水耐性が高いほど威力を上げるうえ、“聖剣万象”の効果と重複する。
「一撃で決めてやろう、アルファ・ドラコニアン」
“天海炎上の騎士聖剣”に、十五文字を刻む。
《ふ、ふざけるな――この俺が、貴様ら雑種共の礎だとでも言うのかぁぁぁッッ!!!!》
「“極光剣術”――オーロラスラッシュ」
不可視の力の邪魔など意にも介さず、憐れな蜥蜴の身体を一刀両断した。
《……ふざけ……るな…………》
息絶えるアルファ・ドラコニアン。
「もう一つの剣……出番は無かったな」
『２番エリアのSSランクが回収されたのを確認しました。よって、現在２番エリアに居る皆様は第三回大規模突発クエストをクリア。依頼達成です』
順当に敵を全滅させ、オーロラ色の透け透けマントを回収し、私達はクエストをあとにした。
おまけ
