738.縹渺なる悪夢の実態
『オールセット3――“呪縛支配”』
全身の武具に、“カース・オブ・オーガントレット”で身体能力低下のデバフ効果を付与。
右手の剣斧、“紫幻の悪夢を食らい尽くせ”に十二文字刻む。
《ククク!! お前のような戦士、相対するのは久しい――さあ、お前に俺が殺せるか!!》
紅い槍を持つアルファ・ドラコニアンが、仕掛けてくる。
『――ハイパワーアックス!!』
念の能力が込められた刺突を、上級武術と神代の力で弾く!
前回、アルファ・ドラコニアンと戦った時は実質、三対一だった。まだ一対一で勝った事は無い。
《“爆流炎”!!》
槍から炎が渦を巻いて出現――
『“縹渺虚空”』
何事もなく、炎が俺をすり抜ける。
『――“三原色破壊”』
左手の斧、“カラーズ・ブレイカー”で“爆流炎の穿槍”を叩き折る!!
赤、青、黄色がメインカラーの武具を問答無用で破壊する、原色の破壊斧。それが“カラーズ・ブレイカー”の力。
ただし、二次色に対しては全くの無力となる。
『“神代の斧”――ハイパワースラッシュ』
槍が破壊された際の動揺を突き、胴を薙いだ。
『“猛毒斧術”――ヴェノムブレイズ!!』
《――フン!!》
気合いを吹き出したかのように、奴から溢れた衝撃波で後退させられた!
《――“瞬間再生”》
一度距離を取る。
奴に纏わり付いていたデバフの靄が消えている。“瞬間再生”の副次効果か。
《やはりいかんな、武器頼りの戦いなど》
『“蠱毒”――“劇毒弾”』
デバフの靄で逃げ場を封じ、毒耐性を無視する“劇毒弾”に、毒を強化する“蠱毒”のエキスを混ぜて発射!
《つまらん小細工だ!》
靄も毒も、まとめて弾き飛ばされる!
『――クソ!!』
一瞬で背後に回り込まれ、拳を斧の上から受けてしまい、“カラーズ・ブレイカー”が俺の手を離れてしまう!!
『やっぱり厄介だな、アルファ・ドラコニアン』
シンプルに高い身体能力に、万能な念能力。
特に念能力のせいで、俺の持つ手札のほぼ全てが通用しない。
あとできるのは、神代文字を最大まで引き出した状態での泥臭いぶつかり合いのみ!!
『――ぅおおおお!!』
“紫幻の悪夢を食らい尽くせ”を全力で振るい、アルファ・ドラコニアンとしのぎを削る!!
拳を回避と同時にカウンター! いきなりの重圧が解ける瞬間に顔面へのひざ蹴りを回避! つかず離れずの攻防を繰り返す!
剣斧の刃が腕や脚を何度も浅く裂くも、決定打を与えられない!
だが、“呪縛支配”により、奴の身体能力は少しずつ下がってきている。
《ここだ!!》
掌底から放たれた不可視の力を剣斧で受けるも、距離を稼がせてしまう!
攻撃が明確に止まった事でアルファ・ドラコニアンからの防戦一方となり、一気に劣勢へ!
《勝負あったな、仮面の男!!》
爪や蹴りに乗せられた衝撃波をまともに連続で受け、地面に這いつくばっている――俺。
何をやっているんだ、俺は。一人で戦うと言っておいて……。
《地球人類は脆いな。お前達ほど脆い生物もそうはいまい。生まれてすぐに立てない赤子など、お前達くらいのものではないのか?》
――込み上げた怒りに任せて立ち上がり、割れ落ちた仮面を無視して睨みつける!
「なぜ、わざわざ子供を攫わせる! 日本の子供を親から取り上げて、お前達は何がしたいんだ!!」
あの紙が、この地下施設のシェルターにあった事は無関係じゃないはずだ。
《知らんな。一国一国の細かな些事など、戦士たる我等の知ったことか》
「……本当に知らないのか?」
《勘違いするな。どのような方法でガキを集めるかなど知らんというだけだ。だが、集める理由の一つくらいは知っている》
「なんだと?」
《俺達の餌として貢ぐためだ。悪魔崇拝の儀式やら何やらに用いる奴等も居るらしいが、俺達レプティリアンにとって、人間の子供は上等な食材に過ぎない》
「…………食う……だと?」
《何を驚いている? お前達とて動物を狩り、飼育し、食らう。時には愛玩動物として玩んでいるではないか》
コイツは、本気で同じだと思っているのか?
《我等上位種にとって、お前達地球人類は家畜なのだ! 時には肉を食うため、時には使い潰して搾取し、憎悪と悔恨、悲哀と絶望という負の餌を量産して我々低周波存在に提供する。それがお前達、地球人類たる奴隷どもの数少ない存在価値。そんなことも理解できない社会不適合者共が、このゲームに送り込まれるのだ》
「――バカバカしい」
《なに?》
児童相談所に身を寄せていたとき、微かに聞こえてきた大人たちの会話。
俺を養子縁組しようとした職員に、大きな火傷の跡があるから無理だと言っていた別の職員。
まるで今晩のおかずを話し合うかのような気安い感覚で、人の一生を左右する言葉を交わしていたために、いつの間にか気のせいだと記憶に蓋をしていた。
「結局――何もかも、なんの価値も無いゴミなんだろ? 地球人類も――お前らも!!」
《思い上がるなよ、地球人類。貴様らが我等に口答えするなど――赦されんのだぞ!!》
「思い上がってるのはお前らだッ!!」
“紫幻の悪夢を食らい尽くせ”で切り掛かる!!
「“紫幻の悪夢”!!」
斧剣から紫幻の悪魔を呼び出し、神代文字の力を込め――蜥蜴野郎に繰り出す!!
《ああ、つまんねぇ空気にしやがって!!》
紫幻が簡単に掻き消され――左腕を、爪で抉り千切られ……た?
「――キクル!!」
今の、グダラの声か?
他の奴等の声も聞こえるけれど……アイツの声だけは、よく届く。
でも、俺はここまでみたいだ。
「――立て、キクル!!」
グダラ……お前は、まだ俺が勝てると思っているのか?
もう俺は……。
《しらけるな。次はアイツらを殺すか》
――ふざけるな。
そうだ、俺が負けたら、次に誰が狙われるかなんて――分かりきっていた事だろうが!!
《……ほう、まだ立て――貴様!?》
彩藍色の光が、俺を包んでいる。
《殺して欲しいんだろ、お前――だったら来いよ、宇宙最強の劣等種》
《貴様……腕が》
ただ千切れた腕を分解して、再構築しただけ。
《これくらい、誰にだってできるだろう》
《――愚弄するなと言ったぞ、奴隷種族ッ!!》
《“神代の幻夢”――》
彩藍色の権化が、愚かな劣等種に襲いかかる。
《ああッ!! ――ぁああああああああッッッッ!!!?》
変幻自在の悪夢の牙が、爪が、刃が、奴の鱗を剥ぎ、肉を裂き、目を穿ち、腕を飛ばし、腸をぶちまけさせる。
《ぐ……がぁ……》
《頑丈なものだ。だから、長く苦しむことになる》
《きさ……貴様……きざ……ま》
《何が社会不適合。お前達、低周波存在が生きられる低次元を維持するために、地球人類を蔑み、貶め、侮辱し、必死に奴隷に仕立てあげているだけの劣等種じゃないか。勘違いも甚だしい》
どれだけ取り繕おうと、真の劣等種はコイツらだ。
《居ね、まともに何かを生みだすこともできない劣等種など目障りだ》
《――――ぎざまあぁぁぁぁッあぁぁっぁッッ!!!!》
宇宙最強の劣等種の首を刎ね、くだらない戦いを終わらせる。
『7番エリアのSSランクが回収されたのを確認しました。よって、現在7番エリアに居る皆様は第三回大規模突発クエストをクリア。依頼達成です』
その声を最後に、俺は意識を手放した。




