76.槍男の最後
『なんで……さっきまで効いてなかっただろうが!?』
「さあな」
狼狽える槍甲冑に追撃を掛ける!
「ハイパワースラッシュ!」
紅の槍で止めたか。
――膂力に任せて、距離を取らされる。
『ふざけるな、日本人!』
「まだ人種がどうのとか言っているのか? 会話が成り立たない奴だな」
『黙れよッ! “瞬間再生“!』
左腕があっという間に生えていく。
ただし、あの紅の鉤爪は無い。
『“咎の転剣“!』
闇が収束し、X字のブーメランに。
『“逢魔転剣術“、オミナススラッシャー!!』
更に闇を纏った禍々しいブーメランが、俺へと迫る。
「“暗黒爪術“、ダークネスディバイド!」
手にしていた大杖で、X字のブーメランを切り裂いてくれるユリカ。
「行って、コセ!!」
「ああっ!」
頼もしい仲間に背を預け、槍甲冑に向かって駆ける!
『逢魔の剣!』
槍を左手に持ち替えると、黒暗い巨剣が奴の右腕付近に浮き上がる。
指輪で生み出した武器か!
『“狂血剣術“――ブラッドストライク!!』
「“拒絶領域“!」
血がランスのように巨剣に纏わり付きながら体当たり突きしてきたが、円柱状の衝撃波で弾き逸らす!
『俺は最優秀民族だぞぉぉぉぉッッ!! “逢魔槍術”――オミナスランスッ!!』
「”瞬足”――ハイパワープリック」
黒の暴威を放つ穂先を紙一重で回避し、左手をグレートソードの柄頭に添え――喉に突き込んだ。
『ゴブオゥッ……ゲザ……マ』
「自分の異常性を認識できないお前がなにかを語った所で、誰の心も動かせはしない――ハイパワーブレイク」
槍甲冑の喉が爆ぜ、亀裂だらけの頭が宙を舞い……地面を転がっていく。
「“古代竜魔法“――ドラゴノヴァ!」
首無しとなった身体を、全てのMPと引き換えに跡形も無く吹き飛ばす。
『ボベバ、ほぼビバガビジョウゼ……ビンジョグジャゾー!』
「さっさと消えろ、盛大なブーメラン野郎」
首だけとなってもなにかを喚いていたが、ユリカが“煉獄のネイルステッキ“の下の杭で……醜い頭蓋を砕いた。
途端に、辺りの空を泳いでいたキラーホエールマンが、次々と光となって消えていく。
『と、突発クエスト……クリアだ。クソ!』
仕掛けた奴、私怨をまったく隠す気が無いな。
「終わったみたいね」
「ああ」
不思議だな。今隣に居るのはあのユリカなのに……悪くない。
魔神・四本腕と一緒に戦った時には、抱かなかった感覚だ。
「あ、あのさ……コセ――」
ユリカがなにかを言い掛けたとき、チョイスプレートが俺達の間を遮るように出現した。
○突発クエストクリア、おめでとうございます。4440000Gを受け取ってください。
なんだろう、この悪意を感じる数字。
○突発クエストの報酬です。どれか一つを選択してください。
★”逢魔槍使い”のサブ職業
★”不意打ち無効のスキルカード”
★“逢魔の波動のスキルカード“
★”逢魔爪使い“のサブ職業
★“逢魔の剣の指輪“
★“咎槍のスキルカード“
★“逢魔転剣使い“のサブ職業
★“狂血剣使い“のサブ職業
★“瞬間再生“のスキルカード
★“咎の転剣“のスキルカード
★”A級武具ランダム袋”
「まったく、空気読まないプレートね!」
「選ぶのは、全員の無事を確認してからにしよう」
メルシュやジュリーの意見を聞いてからにしたいし。
「ご主人様!」
トゥスカ達が駆け寄ってくるのが見える。
「良かった……皆が無事で」
”強者のグレートソード”から青白い光が消えると、一気に力が抜けていった。
★
「じゃじゃーん!」
食堂の巨大テーブルに、今回の戦利品が並べられている。
最後に、満を持して置いたのがユリカ。
それは紅の槍、紅の爪を持つ黒の甲手、赤黒い指輪、禍々しい黒い鎧だった。
つまり、あの槍甲冑のドロップアイテム。
……トドメを刺したの、俺じゃないんだ。
「クエスト報酬は、手に入れた物を精査してから選んだ方が良いと思う」
「なら、この“避雷針の魔光剣“は私にくれないか? 雷と光特化にしようと考えているから、非常に相性が良いんだ」
メルシュが提案すると、早速ジュリーがお願いしてきた。
すると、二人の視線が俺に向けられる。
「俺は良いよ」
俺のグレートソードより幾分か小さいから、取り回しが違いそうだし、別に良いか。
「ありがとう、コセ」
両刃の剣を使うのは俺だけだし、俺が断れば実質OKを出したようなもの。
ただ、一応聞いておこうか。
「他に、その剣が欲しい人は居ないか?」
不満そうにしている者は……誰も居ないな。
「このトライデントは私で良いですか?」
タマが訊いたのは、鋭い三つ叉の銀の槍。
「”人魚のトライデント”か。残念だけれど、トライデントは人魚かギルマンしか装備出来ないよ」
「そ、そうなんですか……」
メルシュの発言に、落ち込むタマ。
「タマなら、この槍で良いのでは?」
「い、良いんですか!?」
トゥスカが紅の槍を手に取って提案してきた。
「Sランクの“魔術師殺しの槍“。魔法使いにとって、厄介な能力がかなり多い武器だね」
「そ、そんな凄い物なら、他の人が使った方が……」
「この面子で槍を使うのはタマだけなんだから、タマが持っているのが一番さ」
俺も後押しする。
シレイアは大抵の武器を使いこなせるらしいけれど、別に良いか。
「ありがとうございます!」
「“法喰いのメタルクラブ“か。コイツはアタシが貰っても良いかい?」
シレイアが選んだのは、以前俺が手に入れたことがある武器。
「魔法に対しての防御手段が、あまり無くてね」
「そうだね、良いと思うよ」
メルシュが賛成し、他に欲しがっている者も居ない。
ジュリー達は盗賊のアジトを通ったはずだから一つは所持しているだろうし、別に良いだろう。
「良いぞ」
「あんがとさん」
早速装備するシレイア。
「“古生代の戦斧“は、勿体ないけれどトゥスカの予備武器に良いかも」
「この石斧ですね」
黄土色の石で出来た、使いづらそうな両手斧。
柄の長さ的に片手で振り回せなくもないだろうけれど、かなり重そう。
「メルシュ、この鉤爪は?」
尋ねたのはユリカ。
「”塵壊の鉤爪”。Aランクの強力な武具だけれど、甲手扱いだから戦士職の人が使うべきだろうね」
魔法使いが甲手を装備すると、魔法使いの強みである指輪装備可能数の多さを捨てることになる。
「鎧によっては、甲手を装備出来ないけれどね」
「俺のは?」
メルシュに尋ねる。
「可能だけれど、マスターは大剣使いだから合わないんじゃないかな?」
あの鉤爪、爪部分が一メートルくらいありそうだから、両手で振るいたいときに邪魔になるだろうな。
「私は……遠慮する」
「アタシも、好みじゃ無いね」
ユイとシレイアは辞退。
「俺もやめとく」
「私の戦闘スタイルにも合わないですね」
「だったら、私が貰うわ!」
最後に残っていたトゥスカが断ると、意気揚々とユリカが手にした。
「……メルシュ、この鎧はどうかな?」
あの槍甲冑からドロップした防具。
禍々しいデザインに、ちょっと心惹かれる物があった。
「“デスメイル“だね。マスターが装備している“偉大なる英雄の鎧“より防御面は上だよ。試してみたら?」
「そうだな!」
チョイスプレートを操作。
「……重い」
重いし、“偉大なる英雄の鎧“と違ってブカブカ感があって……動きづらい!
「やめておこう」
装備を戻した。
「あ、この“深海の盾の指輪“は私が使わせて貰うね」
何気に有無を言わせず取ったな、メルシュ。
「大剣は……無いか」
立て続けに予備武器が完全破壊されたから、代わりになるのが欲しいんだけれど。
「コセさん……コレをどうぞ」
ユイがチョイスプレートを操作して出したのは、グレートソードによく似た意匠の片刃の剣。
「おお! “偉大なる英雄の短剣“!」
メルシュのテンションが上がった?
「これは?」
「英知の街で……殺した男が持っていた剣」
そうなんだ。
「なんで急に?」
「さっき鎧の名前を聞いて……関連があるのかなって」
「あるよ! 同じ系統の物を装備すればするほど、ちょっとずつだけれど能力が強化されるからね!」
セット効果みたいな物か。
「私が知らないシステム。どうりで、コセの装備に見覚えが無いと思った」
ジュリーも知らない武具をメインで使っていたのか、俺は。
「ありがとう、ユイ。大切にするよ」
「…………」
「ユイ?」
「ああ……すみません」
どうしたんだろう?
「マスター、大剣が欲しいなら私に考えがあるよ」
「うん?」
メルシュが、イヤラシい顔を浮かべていた。