736.慟哭なる鬱憤
『“猛毒斧術”――ヴェノムスラッシュ』
最後の隠れNPCシャドウを、キクルが切り裂いて終わらせる。
『……』
鬼気迫る物があったな、アイツの戦い方。
「行きましょう、メグミちゃん」
「ああ」
サトミの言葉に、思考を切り替えようとした時だった。
《来ちゃった》
なに言ってんだ、このアルファ・ドラコニアン?
「出るかもとは思ってたが」
SSランク持ちがキクルしか居ない状況で。
《おい、そこの仮面の男。俺と一対一で戦うなら、他の奴等を見逃してやっても良いぞ? ここを通るなりなんなり、好きにするが良い》
いったい、コイツになんのメリットが。
『俺を指名する理由は?』
《SSランク持ちっていうのと戦ってみたいんだよ。邪魔なしでな》
アルファ・ドラコニアンのこの執着……らしいとも言えるが不可解でもある。
『断ったら?』
《奥に引っ込んで、他の奴等と一緒に戦うだけだ。だが、最後の部屋の中ではSSランクの装備が強制解除される仕組みがあるらしい。だから出向いたんだよ、俺は》
SSランク無しでアルファ・ドラコニアンを交えた集団戦……あまり考えたくないな。
『コイツは俺が一人で相手をする。全員、先に行ってくれ』
「待て。そいつが一対一を守るという保証がどこにある」
口を挟んだのはグダラ。
「お前一人を残していったら、背後の出入り口から奇襲される可能性だってあるだろう」
グダラの言い分はありえる。
《そんなつもりはねぇよ》
アルファ・ドラコニアンは、その強さ故に傲慢だ。嘘を付いてまで別働隊を自ら用意するような真似をするとは思えないが……。
「キクルのパーティーメンバーは、手出しせずに背後の通路を見張れば良い。私達のパーティーは奥へ進む」
《構わんぞ。好きにしろ》
『分かった、それで良い』
男達の同意は得られた。
「行くぞ、お前達」
私達だけで奥へと進む。
「……アイツ、本当に何もしてこない」
リンピョンが背後を警戒していた。
「キクルが負けない限りは、追っては来ないだろう」
「……ドラコニアンてさ、全然死を恐れないよね」
あのリンピョンから鋭い指摘が。
「奴等は兵器だ。死を恐れて逃げ出すような兵器なんて要らないだろう?」
「そういう風に育てられたってこと?」
リンピョン達の認識では、そうなるか。
「それ以前の問題さ。遺伝子レベルでまともに恐怖を感じないどころか、レプティリアン以外の種を見下すよう、傲慢さが増長されているはず」
シーカー達が、そういう風に作った。
「……哀れだね」
「ああ……」
長い通路から階段を下り、白い巨大な部屋へ。
「“マッスルハート”が……」
SSランクが使えなくなるというのは、本当だったらしい。
「なんだ、アイツら?」
奥にいるのは、機械のレプティリアン? いや、アルファ・ドラコニアンか?
「アレは……大規模突発クエストの」
「知ってるのか、ウララ?」
「アルファ・ドラコニアン・アバター。アルファ・ドラコニアンと同じ能力を使ってくる奴です!」
そんな奴が、三体も居るのか。
「真ん中の奴だけ、見た目が随分違うな」
「ハイパー・ドラコニアン・アバター。色んな機能が追加されたタイプみたいだ」
バルバからの情報。
「カプアちゃん、メグミちゃんにアレを」
「分かりました!」
カプアから、Cランクまで上げた“レギオン・カウンターフィット”の偽物を預かる。
「良いのか?」
「その代わり、一番強いのをメグミちゃんとクリスちゃんの二人で相手してちょうだい」
そう来たか。
SSランクが使えないらしいこの場所でも、偽物で生みだす精錬剣は振るえるだろう。
「ああ、任せろ!」
「了解でぇす!」
「ウララちゃん三人組でアバターを一体。私とリンピョンちゃんでもう一体を相手するわ」
良い判断だ、サトミ。
「哮り吼えろ――――“雄偉なる高潔神竜の激昂”!!」
この手に、コセとの絆の剣を生みだす!
「さあて、やるか!」
●●●
『俺の相手は三人か。チ! こんなクソみたいなボディーじゃなくて、本物で戦いたかったぜ!』
長い棒の先に鉄球が付いた武器を手に、仕掛けてくるアルファ・ドラコニアン・アバター。
かつて、ウララ様を襲った奴等!
「“ニタイカムイ”!」
“慟哭よ・その胸を貫きたまえ”に九文字刻み、鉄球の一撃を逸らす!
『生意気な獣共が』
「爬虫類如きに!」
銀戟を振るい、手数で攻める!
『――ハッ!!』
鉄球部分で突きを繰り出してきた瞬間――不可視の力を叩き付けられた!!
回避しようとしていたために、まともに衝撃を浴びてしまったか!
「“飛竜剣”!!」
バルバの斬撃も、不可視の力に簡単に弾かれる。
『そんな離れた位置からどうした、NPC?』
「チ! 安い挑発を」
隠れNPCであるバルバには、あの不可視の力に抗う術が無い。
「“溶解投擲術”――アシッドフリング!!」
“拡散の手矢”を投げ、瞬時に二十本に分散――溶解液を帯びた矢の雨とする!
『だからどうしたぁぁ!!』
鉄球を振るうと同時に不可視の力を炸裂させ、二十本全てを弾き飛ばして見せた?
「“六重詠唱”、“六重魔法”、“神代の魔法陣”」
ウララ様が、十二の魔法陣を展開した!
『させるかよ!』
「“千狐焔”!!」
「“八百八狸”!!」
炎の狐と化け狸の大群で、アルファ・ドラコニアン・アバターを足止め!!
「“雷雲魔法”――サンダークラウズハンド!!」
神代文字の光纏う十二の雷雲の腕が、機械のドラコニアンに一斉に迫る!
『――おのれぇぇぇッ!!』
あれほどの魔法の直撃……さすがに仕留めきれたか。
「――ウララ様!!」
「“雷雲王盾”!!」
煙の中から鉄球が飛び出し、受けた盾ごと――ウララ様が壁に激突した!?
『この俺が、家畜ごときを一匹も殺せないなど――ありえねぇぇッ!!』
火花散らすそのボディーから衝撃波が放たれ、私達が吹き飛ばされる!
「壊れ損ないが!! “逆三暗黒宮”!!」
闇の紋から、黒の槍を連続で放つバルバ。
『雑魚がぁぁ!!』
手の平から、不可視の力を飛ばした!?
「“陽炎”!!」
バルバの姿が揺らめいて、不可視の力を避けたか!
「“火山剣術”――ヴォルケーノブレイク!! “溶岩鎚術”――マグマクラッシュ!!」
“ダイナビックブレイド”の上段からの一撃――からの、横一回転しながら迫った尻尾、“ダイナテイルハンマ”が炸裂した!
「しま――」
『近付き過ぎたな、NPC!!』
バルバが私に向かって武器を構え――突っ込んで来る!
「逃げろ、カプア!」
念能力で操っているのか!
「――“衝脚”!!」
盾の上から蹴りを入れ、神代の力で念の呪縛を弾き解く!
「さ、さすが」
「バルバ、ウララ様をお願い」
バルバが生きてるなら、ウララ様もまだ無事なはず。
『獣が、俺に一人で挑むつもりか?』
「壊れかけのお前くらい、私一人で充分だ」
コセだって、一人で蹴散らしていたのだから!!
「ハイパワースピア――“慟哭”」
“慟哭よ・その胸を貫きたまえ”の力で、全てのTPをハイパワースピアに注ぎ込む。
「くたばれ!!」
全速力で駆け、アルファ・ドラコニアン・アバターと近接戦を繰り広げる!
『こ、この俺が!』
強化した武術の暴威で徐々に身体は削っていくも、決定打を与えさせてくれない!
――ハイパワースピアのエネルギーが、銀戟から消える。
『――死ね!!』
「――“激情の一撃”!!」
カウンターで、銀戟から強大な暴威をぶつけた!!
「ハアハア、ハアハア」
『キ……貴様……きざ……ま』
四肢が吹き飛んでも、まだ……。
『全員コロす……殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すッッ!!』
その言われ無き無作為な悪意に――感情がぶち壊れた。
「――――ぁぁぁあああああああああああああッッッッ!!!!」
“慟哭よ・その胸を貫きたまえ”に十二文字が刻まれ――“慟哭なる鬱憤の行き着く先は”に。
「お前らは、どいつもこいつも!!」
ラキ様を傷付けて殺し、ウララ様を追い詰め、コセさん達を苦しめる奴等は、みんな同じだ。
自分の事しか考えず、その事に欠片も疑問を持たないクソみたいな甘ちゃんども。
「来いよ、坊ちゃん。遠隔操作でしか戦えない腰抜けが」
『今回は……エラばれなかった……ダケ――なんダよぉォォ!!』
「“神代の戟”――」
切り上げ、打ち据え、連続で突き刺し――穴だらけにする。
「ハアハア、ハアハア」
『ヨ……グモ…………』
アルファ・ドラコニアン・アバターは、完全に機能を停止した。




