735.北天の雄の真価
「ご主人様、どうやら先客が居るようです」
クフェリスが教えてくれる。
「人数は?」
「一人。ただ、何かに向かって攻撃し続けているようで」
最後の部屋に辿り着けば、SSランクを手に入れられるわけじゃないのか。
おかげで、先を越されずに済んだんだろうけど。
「行こう」
狩猟豹獣人のクフェリス、タイタンの隠れNPCのアシェリー、使用人NPCのルシャーナと共に中へ。
「……チ! あんだけ飛ばして来たってのに」
柄の悪そうな女性が振り返り、軽く睨んでくる。
……この人、強いな。
「目の隈が酷いね」
彼女が攻撃していたのは、銀色の硬そうな壁。
「一人で参加してるからな。もう三日は寝てないんだよ」
「アテル様、SSランクはあの壁の向こうにあるようです」
マップを確認したルシャーナが教えてくれる。
「じゃあ、僕の仲間に見張らせるから、存分に眠ると良いよ」
「寝言は寝て言え、小僧」
バカでかい、変わった形状の斧を構える美女。
「ダメか」
“アマテルの太陽剣”を構える。
「僕一人でやる。後ろは任せたよ――“竜化”」
金色の竜人となって、突撃する。
『“太陽剣術”――ソーラーブレイク!!』
「――“超竜撃”!!」
――正面から押し負けた?
「時間なんざ掛けてられるか――」
柄頭まで覆う斧に、青い文字が九文字が刻まれる!?
『まずいね」
神代文字を刻める人間を、敵に回す事になるなんて。
「九文字が貴女の限界?」
「だったら?」
“アマテルの太陽剣”に、十二文字刻んで見せる。
「……へえ――だからなんなんだよ!!」
今度は向こうから突っ込んできたか!
「“可変”」
斧の刃が一回転しながら柄の上に移動――巨剣と化した!?
「“火山溶岩剣術”――ボルケーノマグマブレイク!!」
「“神代の盾”――シールドブロック!!」
なんとか身を守るも、大きく後退させられた。
「……十五……十八文字だと!?」
「貴女が、まさか十二文字刻めるとは」
お互い、限界の文字数を偽っていたか。
「……私は、どうしてもSSランクが必要なんだ――強い奴は引っ込んでろよ!!」
文字の色が、紫に染まりかけている?
「――“守護神/画竜点睛”!!」
巨大な竜人が現れたと思ったら、彼女が守護神に吸い込まれていった?
「アテル! アレは同化するタイプの守護神だ!!」
アシェリーが少し焦っている……それだけ、あの守護神は厄介って事か。
「なるほど」
彼女が手にしていた巨剣が巨大化し、守護神の手に。
「プレーヤーが、守護神その物になるってわけだ」
『文字の差くらい覆してやるよ――装備セット2!! “可変”、“神代の斧”!!』
わざわざ装備を変えた? 見た目では変わったように見えないけれど。
『“爆雷雷岩斧術”――ファイアロックボルトスラッシュ!!』
部屋の幅を覆う程の横振り!!
――ここでSSランクを使うのは、格好悪いよね。
「“アラハバキ”」
僕のユニークスキルで、灰色のオーラを纏う。
「――“神代の滅剣”!!」
オーラと神代文字で強化された滅光をぶつけ、彼女の武術を霧散し――押し返す!!
「“神代の剣”――ハイパワースラッシュ!!」
“守護神/画竜点睛”を、袈裟斬りにする。
『ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ』
守護神が消えるも、彼女は荒い息を吐きながら斧を構え続けていた。
その腕も足も震え、冷や汗すらかいているのが解るほど疲労困憊の様子。
「私は……私はSSランクを……」
「僕と一緒に、世界を滅ぼさないか?」
剣を下ろし、手を差しのべる。
「………………もう……知らね」
あぐらをかき、戦う意思を放棄したと伝えてくれる美女。
「迎えに行くよ。どのステージ?」
「仲間になるなんて言ってないだろ……疲れた。さっさとクエストを終わらせてくれ」
《勝手に終わらせるな、ボケが》
入り口から、赤い蜥蜴人間が入って来る。
「アルファ・ドラコニアン……」
右腕に、黒い機械のガントレットか。
「ご主人様」
「僕がやるよ、クフェリス――“五葉手の九鬼の黒翼”」
“五葉手の九鬼の黒翼”が……出ない?
「まさか……」
この部屋の中では、SSランクを使用できないのか?
「……仕方ないな。クフェリス達は、SSランクの回収を」
「ご主人様は?」
「とっとと終わらせるさ」
剣を構える。
《雑種の分際で、俺達を舐めすぎ――そこの獣人、あの時の!!》
クフェリスに敵意を向けている?
《俺に敗北を与えてくれた猫女が!》
十二文字刻み、突き出された手から放たれる不可視の力を弾く!
《邪魔をしないで貰おうか、ノルディックのガキ》
「僕の奴隷に挨拶したいなら、主人に許可を貰うのが道理だろ?」
《……そういえば、この世界の奴隷制は、主人が死ねば奴隷も死ぬんだったな》
ようやく、注意を僕だけに向けたか。
《良いだろう。お前ごと、あの猫女を殺してやる!》
「――無理だよ》
《…………は?》
《……ハアー、ハアー」
瞬間的な《簡易アセンション》で、アルファ・ドラコニアンの左腕を切り飛ばす。
ほんの一瞬なのに、とてつもない疲労感。
ここ数日ろくに休めてないのもあって、意識が軽く飛びそうだ。
《バカな……彩藍色の光……インディゴチルドレンだと!?》
「まだ、意識的に使えるのは一瞬だけだけれどね」
胴体も切り飛ばしてやるつもりだったのに、念能力で僅かにずらされた。
《“瞬間再生”ッ!!》
コイツも一瞬で……アルファ・ドラコニアンはどいつもこいつも、一回は完全再生できるらしい。
「ハアー、ハアー」
《お前は――ここで殺すッ!!》
一瞬で左から――
「“アラハバキ”!!」
灰色のオーラを手の形状に形成――アルファ・ドラコニアンの右拳を受け止める!
《“黒濁衝”!!》
黒い衝撃波で、“アラハバキ”の拳が――霧散させられた!?
「“太陽光の絶視神”」
太陽の化身を呼び出し、アルファ・ドラコニアンに組み付かせる!
《こんな物でッ!!》
絶視の化身が不可視の衝撃波で掻き消されたが、これで充分な隙ができた。
「――《簡易アセンション》」
前――と見せ掛けてからの後ろ。
自身を分解し、背後で剣を振りかぶった状態で瞬時に再構築。
《――ガ……バカ……な……》
ゆっくりとズレて、派手な血飛沫と共に首が転げ落ちていった。
「ハァーッ!! ハァーッ!!」
短時間に連続《簡易アセンション》……もう、意識が。
「ハァーッ、ハァーッ」
誰かが、僕を支えてくれる?
「お疲れ様です、ご主人様……」
「ハアハア、ハアハア……ありがとう、クフェリス」
初めて簡易アセンションを使った時より、意識して使う方が辛いとはね。
意識を手放してしまうよりはマシだろうけど。
『11番エリアのSSランクが回収されたのを確認しました。よって、現在11番エリアに居る皆様は第三回大規模突発クエストをクリア。依頼達成です』




