表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/956

75.帳に煌めく燐光

 戦闘が始まってから既に十分以上、どんどんキラーホエールマンの数が増えている。


 これじゃあ、マスターの援護に入れない!


「メルシュ――雑魚共に俺の邪魔をさせるな」


 マスターの、冷たくも真の通った言葉が私の焦りを吹き飛ばしてくれる!


「分かった、こっちは任せて!!」


 ”万雷魔法”でキラーホエールマンを駆逐していく。


 そのうちの一体、デカい斧を持った奴を”万雷魔法”で仕留めきれなかった?


「“古生代の戦斧”か」


 装備しているだけで、古代属性を含まない攻撃によるダメージを五分の一にしてしまう“古代の力”。


 Sランク低位の武器で、攻撃性能よりも特殊効果重視の武具が古生代と名の付く武具の特徴。


 それに、離れた位置にいる個体が右腕に浮かせているのは深海の盾。Sランクの“深海の盾の指輪”で出現させられる物。


 他にも微妙に遊泳速度が違う個体が居ることから、なんらかの能力強化装備をしているであろう事が予測できる。


 かなり厄介なクエストだけれど、これを乗り越えれば、この先で遭遇するプレーヤー相手にも有利になれるかもしれない!


 考えようによっては、良いプレゼントを貰っていると言えちゃう。


「金剛の腕」


 右手に連動する形で、”金剛の腕の指輪”からダイヤモンドの腕を出現させる。


『キルウゥゥェエ!!』


 振り下ろされた黄土石の斧を巨腕で受け止め、左手の指輪から大猩々の鉄球を生み出し――“磁力”で反発させてキラーホエールマンのお腹に打ち込んだ。


 “古代の力”で五分の一に出来るのは、あくまでスキルか武具効果による攻撃のみ。


 だから、“磁力”で反発させただけの攻撃じゃダメージの減衰は発生しない!


 もしかしたらジュリーは、こういった戦術が必要だと知っていたから、私と同じく“磁力”と“大猩々の鉄球の指輪”を装備しているのかも。


「戻ってきなさい!」


 今度は“磁力”で鉄球を吸い寄せ、もう一度反発で打ち出す!


 今度は頭蓋に叩き込んだからか、キラーホエールマンの動きが止まり、落下し始めて間もなく光へと変わった。


「今回のクエストで役不足になるかもしれないけれど、”水流弾のスキルカード”は貰うわよ」



●●●



「”アクアスパーダ”……面倒な武器を」


 キラーホエールマンが振るうのは、本来は柄だけの水属性の剣。


 MPを使って刀身と刃を形成するため、準魔法攻撃扱いになる、戦士の予備武器としてはかなり優秀なBランク武器。


 厄介なのが、刀身の形や硬度を任意で自在に変えられるため、近接戦で武器の打ち合いにめっぽう強いってこと。


 今も、大刀で防ごうとした瞬間に刀身を柔らかくして通り過ぎ、すぐに高質化して斬り込んできた。


 そもそもが水だから金属製の武器よりも軽く、自然と剣速も速い!


「ウザったいね!」


 ”アクアスパーダ”を振り抜いた瞬間を狙って――その腕を切り裂く!


 “鯨骨の大刀”のおかげで、コイツらの身体はスパスパ切れる。


「マスターから貰ってて良かったよ」


 アタシが選んだのは銛だったからね。


 “帰還”の効果で、先程放った”鯨骨の銛”が手元に戻ってくる。


「ほら、アンタにもプレゼントだ! ――ハイパワージャベリン!!」


 ”投槍術”による一撃を放ち、腕を切り落とした奴と別の個体をまとめて貫き仕留めた。


「もっと掛かってきな、雑魚ども」



●●●



「――一刀両断!!」


 シャチさんを……”刀剣術”で上段から切り捨てた。


『キルウウエエ!』


 すぐに別のが接近してくる。


 それに……今度のは三つ叉の槍を構えていた。


「――撃打ち!」


 フェイントからの私の上段斬りをトライデントで防ぐも、シャチさんの動きが止まった。


 ”刀剣術”の撃打ちは、ガードされたときに激しい衝撃で敵の動きを封じる技。


「――介錯」


 三つ目の”刀剣術”により、すかさず首を切り落とす。


 ――チンという音と共に、”ムラマサ”を鞘に収めた。


 さっき、ハーレム王が気になることを言っていた。



「まともな人間が、本気で惚れた女以外とわざわざ性病になるような真似するかよ」



 それはつまり、“最高級の婚姻の指輪”を着けているトゥスカさん、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 私……てっきり、既に全員に手を出しているものだとばかり……。


 ハーレム王が、たった三人にしか手を出していなかったなんて!


 だけれど、本気で惚れた女以外には手を出さないというその姿勢は――むしろ好ましいです!


 今はまだ王と呼ぶには早いかもしれないけれど……コセさんと一緒なら、生ハーレムの真髄を知る日が訪れるかもしれない!


「いつか私に……もう一度ハーレム王と呼ばせてください、コセさん!」


「……マスターはなにを言っているんだい?」


 残りを片付け終えたシレイアさんがやってきた。


「私の……願望」


 シレイアさんが凄く変な顔で私を一瞥すると、深いため息を吐いた。


 ……なんで?



●●●



「”煉獄魔法”――インフェルノ!」

『“法喰い”』


 ユリカが放った紫の炎が、紅の槍に喰われる。


「アーマースティング!」


 ”針使い”のサブ職業を着け、”針術”による鎧の防御無視攻撃を行う。


『ち!』


 左腕の鉤爪で振り払われる。


 警戒しているという事は、通用すると言うこと。


 アレが、そんな演技が出来るような人間とは思えないしな。


『殺してやる! お前らだけは、どんな手を使ってでも!!』


「アンタにそんな事を言う権利なんて無いから! “紅蓮円輪”!」


『させるか!』

「俺のセリフだよ!」


 “武器隠しのマント”から“鯨骨の大刀“を抜き、ユリカに接近しようとした槍鎧を手数で攻める!


 “針術“を警戒し、俺を無視できない元槍の男。


『邪魔だぁぁッ! ――“逢魔の波動”ッ!!』

「“拒絶領域“!!」


 衝撃波同士がぶつかり合うも――勝ったのは俺!


 “逢魔の波動“の効果範囲は“拒絶領域“よりも広いため、ならばゲームバランス的に、Sランクのスキルでもある“拒絶領域“の方が勝ると予想していた!


 これも、メルシュ達が敵の情報を引き出してくれたおかげ!


「“紅蓮魔法“――クリムゾンブラスター!!」


 俺が頭を下げた瞬間、“拒絶領域“によって隙だらけになった所に――強化された紅蓮の熱線が直撃した!


『び、ビビらせやがって!』


 鎧の胸部分が……一部溶けただけだと!?


「く! アーマースティング!」

『うぜんだよ!』


 ――グレートソードが、槍で上に弾かれる!


「アーマースティング!」

『“塵壊爪(じんかいそう)“!』


 ――“鯨骨の大刀“が、三本の紅の鉤爪によって斬られた。


 しかも……砂のようになって消えてしまう!?


『“逢魔の波動”!!』


 黒の衝撃によって吹き飛ばされ、ユリカを巻き込んで転がってしまう。


「すまん……」

「だ、大丈夫よ……」

『ククククク!』


 すぐに立ち上がるも、槍甲冑は静かに笑いながら悠々と歩いていた。


 こっちの攻撃がほとんど通じないと分かって、余裕を見せているな。


 “滅剣ハルマゲドン“を使えば、あの防御を突破出来そうだけれど……。


『じっくり甚振(いたぶ)って、手脚を刎ねて、おっぱい女を犯して、目を抉って、舌を抜いて、そしたら――死ぬまで殴り続けてやるよ! その次はお前だぞ、大剣野郎ッ!!』


「……アンタ、幾らなんでも異常よ」

 

 ユリカが、槍甲冑を侮辱する。


『異常? 俺はな、こんなことお前ら日本人にしかしねーんだよ』


 前にも日本人がどうのとか言っていたな、コイツ。


「……どういう意味?」


『お前ら日本人になら、なにしたって許されるんだよーーッッ!! だって――パパがそう言ってたんだもんッ!!』


 コイツを歪めたのは親か。


『お前らは嘘つきで! 卑怯で! いつも後頭部を狙ってくる! だから許されるんだよ! 俺のやっていることは、普通の事なんだよ!! だからぁ……――ママと同じ事言うなよ!! 身体売ってる異常者のくせに!!』


「――普通の人間なんて居るもんか」


『……ああ?』


「さっき俺は、まともって言葉を使ったけれど……根底を間違えていたよ」


 言いたい事を分かりやすくしようとして、嫌いな言葉を使ってしまっていた。



「この世に、異常じゃない奴なんて居ない」



『俺は――違うって言ってんだろうがッ! 異常なのは、お前ら日本人だけなんだよッ!!』


 槍甲冑が突っ込んでくる。


「人種なんて関係ない。自分の異常性を無視する人間が、より堕ちていくだけなんだ! 今のお前のようにな!!」



 ――――意識が、グレートソードに吸われる!



 “強者のグレートソード“の刀身、柄に近い部分に……三つの文字が浮かび上がった?


「なんだこれ?」


 トロルと戦っていた時に似た、不思議な感覚。


『まずは脚だッ!』

「――ハイパワーブレイド」


『――……あ?』


 槍甲冑の左腕が、紅の鉤爪ごと宙を舞った。


 夕日が沈み、辺りが帳に包まれていく中、グレートソードから洩れる青い燐光が――俺の感覚を研ぎ澄ませていく。


「このくだらない戦いを、さっさと終わらせよう」


挿絵(By みてみん)


 これ以上俺とユリカの人生を、コイツに割きたくないから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ