722.ラブコメ・アンジュレーション
「“二重魔法”、“溶岩魔法”――マグマイラプション!!」
「マジックガイド――ハイパワーカウンター!!」
魔法を吸い寄せるマジックガイドでタイミングを調整しやくすし、タイミングがシビアなカウンター能力を成功させ――術者を溶かし殺す。
「く、クソ!」
逃げ出した仲間達も、カプアとリンピョンによって簡単に始末された。
「装備や戦術からして、三十より低いステージの奴等だな」
後衛であるサトミとウララに付いていた、バルバの意見。
「そっか。格上ばかり気にしてたけれど、今回は全ステージから挑戦できるんだものね」
Lvによる差は埋まっているが、その他の要因による差があまりにも大きい。
「もう少しでシェルターでしたね。ようやく休めます」
バルバがマップから気付いた、休息に最適な場所。
「先約が居なければ良いがな」
私達のように、目を付けた連中が居てもおかしくない。
金属の通路を進み、階段を発見。
「この先は一方通行の行き止まりだ。気を付けろよ、メグミ」
「ああ、バルバは後ろを頼む」
盾使いである私を先頭に、長い階段を何度も折れ下り……戦闘音が聞こえてきた。
「あれは……」
広い空間で戦っていたのは、黒い靄を纏った――キクル達!?
○○○
「シェルターというところに、本当に良い寝床があるのか?」
階段を下りている最中、人魚のグダラが尋ねてきた。
「拡大しまくったら、それっぽい物が見えたからね」
バロンの隠れNPC、ミレオが答える。
『シェルターなら、食料なんかもあるだろうか?』
持ち込んでいる分でなんの問題もないが、入り口がバチカン市国のバチカン宮殿の地下だったから、珍しい保存食があるかもしれない。
『できれば、ガルムとかの調味料が欲しいな』
「ガルムとはなんですか、キクル様?」
ヒョウカに尋ねられる。
『魚で作る、ローマの伝統的な魚醤らしい』
ある日知って興味が湧いたけれど、その辺のスーパーに売ってなくて未体験なんだ。
「キクル様、奥から声が」
ホーン・メイドのディアが、階段の終わり手前で教えてくれた。
『さてと』
階段の先、広いドーム状の空間へと足を踏み入れる。
『グルルルル』
『熊?』
「“グラップラーベアー”です。対人戦闘に秀でています」
ディアからの情報。
『人の声は、奥の建物か』
天井までくっついた、黒いビルみたいな六メートル程の建物……地下基地内に建物?
「指輪モンスターの見張りだろうね」
ミレオの断定。
「キクル様、私がやります」
『いや、ヒョウカは建物から出て来る奴等を頼む。グダラ、派手にやってくれ』
おびき出してもらわないと、シェルター内が使えなくなるからな。
「行くぞ――“回遊魚雷”!!」
『グル?』
全ての魚雷が命中……グラップラーベアーは、なんの抵抗もせずに爆散した。
「対人戦に優れてはいますが、人間離れした攻撃には弱いんですよ、あの熊」
『……そうか』
知らないモンスターだったから、動きとか見たかったのに。
ビルの重厚な扉がスライドし、中からプレーヤーが出て来る。
「――紫電」
“抜刀術”による連続切りで“不意打ち無効”の守りを突破。そのまま人魚の男を始末するヒョウカ。
「容赦ないな、ヒョウカは」
『同盟相手なら殺せないからな』
「いや、そういう事じゃなくて……まあ、良いけど」
グダラが呆れている?
「――行きな」
「やめ――」
半裸の男が突き飛ばされてきて――ヒョウカに斬り殺された。
「――“呪縛の悪手”」
ヒョウカの腰に手を回し、間一髪で引き寄せに成功。
一歩遅ければ危なかった。
「ありがとうございます、キクル様」
抑揚のない声で礼を言う雪女……無表情なのに、本当に綺麗だな。
「“竜化”しなさいよ、使えない奴ね!」
ヒョウカを襲ったのは人魚の女……得物は斧か。
「へー、珍しいね。男一人に女四人のパーティーとは」
出て来たのは男が四人で、種族はバラバラ。
あんな扱いを見せられた後なのに、男達に不満の色が無い……どころか、俺だけに敵意を向けている?
「ボアドラ様、アイツを新しいハーレムに加えるのですか?」
……ハーレム?
「落ち着きなさい。一人減ったから、面しだいでは加入させたいところだけれど、クエストが終わったらどうせ離ればなれだもの――今夜くらいしか相手しないわ」
あの女が喋るほど――鳥肌がヤバい!
「ねー、仮面を外して見せてくれない?」
『……良いだろう」
「キクル?」
仮面を外し、火傷跡を晒してやる。
「……――あら、良いじゃない! その顔の怪我、男の勲章って感じで素敵よ♡!!」
なんなんだ、この色ぼけ人魚!? 気持ち悪い。
「あの人魚、少しは男を見る目があるようだな!」
何を言ってるんだ、グダラ?
「ですね」
「確かに」
「業腹ですが」
ディアにミレオにヒョウカも、なんなんだこのノリ?
「良いね、明日にはお別れなのが残念だよ――“恋愛波動”!!」
「まずい、あれは!!」
なんだ? デカいピンクのハート型の何かが、女人魚の頭上に出現して――
『――なにが!?』
思考が、グチャグチャになっていく!!
「さあ、私の虜になりなさい。キクル」
「どうしたの、キクル!」
グダラの声が……変に聞こえる。
「SSランク、“ラブコメ・アンジュレーション”。装備者の異性を虜にする、“恋愛支配”の力を持っている!」
恋愛……支配? ……なんだよ、それは。
「さあ、来なさい。私の――恋の下僕ちゃ~ん♡」
女人魚の姿が歪んで、別の女の姿に見え――
「――ぅおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「な、なに!?」
腰の“悪運のクリス”を掴み――左太股に深々と突き刺す!!
「――あんな女の幻影で、俺を惑わそうなんてッ!!」
こんなに憎悪が滾ったのは、いったいいつぶりか!!
「キクル、何をして!」
「グダラ――お前らは手を出すな」
この女だけは、俺が絶対に殺す。
何度も殺してやりたいと思った女の幻影――母親の幻影を貼り付けたクソ人魚は!!
「――オールセット3」
右腕に、俺のSSランク――“カース・オブ・オーガントレット”を装備する。
「た、たまに居るのよねー! 効くのが遅い男ってさー!」
取り巻きの男達が、前に出てくる。
「こんなクソみたいな精神支配に屈したこと――あの世で後悔しろ!! ――“呪縛支配”」
黒い靄を、右腕の濃紫のガントレットから俺の全身に――武器にまで纏わせていく。
「“魔炎”!!」
紫炎の玉、連なる浮遊する蛇を生み出し――“呪縛支配”の靄を纏わせる。
「こんなもんで! ハイパワーアックス!!」
斬られた“魔炎”の炎と呪縛の靄が、男に纏わり付く。
「た、助け!」
“呪縛支配”の応用で、混ぜた炎もある程度は操作できる。
「“毒玉発射”」
呪いを混ぜた毒玉を、四人の男達に数発ずつ当てる。
「この程度の毒なんて、耐性が高けりゃ!」
“呪縛支配”の靄は、風で簡単に散らされる。だから混ぜて使う。
この弱点のおかげで、前の持ち主を倒すことができたんだけれどな。
「身体が……重い」
“呪縛支配”の呪いは、浴びれば浴びるほどステータスを下げるデバフ能力。靄そのものに殺傷能力は無い。
「“猛毒魔法”――ヴェノムウェーブ!!」
呪いを混ぜた毒液の波を放つ!
「――“魔断障壁”!!」
さすがに良いスキルを持っているな、あの女!
だが、取り巻き連中はこれで動けないはず。
――また思考が! 身体が足の痛みに慣れてきたか……――どうせ見えないんだ。
「――キクル!!!?」
左眼を短剣で突き刺し、脳髄に怒りと憎悪を刻み込む!!
「な!? ……い、逝かれてるわよ、アンタ!」
「男に依存するような女なんかに」
「はあ? 私は依存なんて!!」
頭が、ボーッとしていく――憎しみ以外の感情が希薄になっていく。
――“紫幻の悪夢を食らい尽くせ”に、十五文字が刻まれる。
「こ、来ないで!! “猛毒の薔薇”!!」
黒に近い紫の薔薇が生まれ、踊り迫ってきた。
「――“神代の斧”」
瞬時に切り刻む。
「に、逃げ……逃げなきゃ」
女が背を向けた瞬間――肩から脇腹まで、一気に切り裂いた。
「…………」
薔薇……そういえば、この女とユウコのやってたことは、大して変わらないのか……。




