721.得た力と奪われた力
『よくも――よくも俺のルーカスをぉぉぉぉッッ!!!!』
ウォルターさんの叫びが、目の前で起きた事実を……私に嫌でも理解させ……。
「……ルーカス」
ここまで、私達を導いてくれた人。
「あ、私もダメみたい。じゃあねぇ~、カナデ」
ルーカスの小柄な使用人NPC、ナイアが消えてしまう。
「本当に……死んだんだ」
あのルーカスが……私にとって物語の主人公みたいだったあの人が。
「――取り戻してあげようか、アンタの思い人」
――不気味な魔女のような女が、いつの間にか私とナイアが見張っていた通路から!!
「……取り戻せるの? 私のルーカスを?」
「ええ、アンタに上げても良いよ。おまけに、なんでもアンタの言うことを聞くようにしてあげる」
「貴女……いったい」
「最近、下僕が殺されちゃってさ。仲間が欲しいと思ってたのよね~」
ヤバい女なのは、直感で判ってた――けれど。
「なんでもする! 私、なんでもするから! 私のルーカスを取り戻して!!」
「契約成立だね――“死体支配”」
女の周囲の床から、生気の無い集団が!!
「私の名前はイズミ。復讐ついでに、アンタの最愛の彼氏の死体、回収してあげるよ」
――この時、私は魔女に魂を売ったんだ。
●●●
『――許さん、赦さん赦さん赦さん赦さん赦さんッッ!!』
トゥスカを狙ったウォルターの前に出て、両手の剣を打ち合わせる!!
「……コイツ」
咄嗟に十五文字刻んだのに、パワー負けしている。
“竜化”状態で十五文字。やっぱり、神代文字と模造神代文字の性質は似て非なる物なんだ。
「――“拒絶領域”!!」
ウォルターを弾き飛ばす!
これで、今日はもう“拒絶領域”が使えない。
『殺してやる……殺してやる殺してやる殺してやるbふ4-ch!!』
コイツ、あの時のアルファ・ドラコニアンみたいにおかしくなっている!
……とっとと終わらせないと。
「“可変”――“二重魔法”、“大地魔法”――グランドバースト!!」
猛撃剣を竜の顎にしたのち、地面から大地の隆起と――“大地支配”の岩針を全方位から撃ち出す!!
『殺……す。殺しc4っjp』
「――“神代の激竜砲線”!!」
身体がボロボロで動けないところに、青白い砲光を放つ!!
『……が……ぎfj4…………」
左腕が吹っ飛んだからなのか、赤い文字を刻んでいた大剣が目の前に落ちてきた。
「ハアハア、ハアハア――スティール」
猛撃剣を手放して、厄介な武器の所有権を奪っておく。
「……アイツ」
MPが尽きたのか、人間形態に戻るも、中途半端な再生で止まり……死んだようだ。
「無事か、トゥスカ」
「はい、大した怪我はありません」
さすが。
「メルシュ達は……」
同じ装備の男達と、ナターシャの“鋼の騎士団”がぶつかり合っているのが見える。
「マスター、トゥスカ!!」
メルシュの叫び――何かが、こっちに殺到して来た!?
「あの生気の無い感じ、イズミの仕業か!!」
トゥスカの言うとおりなら、ここに来て三人目のSSランク使いが現れたってことに!
「ク!!」
精錬剣も神代文字も、維持している余裕が無い。
「“竜化”!」
“偉大なる英雄竜の猛撃剣”と“堕ちた英雄の魔剣”で、死体の群れと激突する!!
「援護します! “獣化”!!」
なんとか優勢なものの、凄まじい物量にいつまで持つか!
『――なに?』
ルーカスとウォルターの死体が、白ローブの女が居た方へと運ばれていく?
『――まさか!!』
死体が消えないこのクエスト中なら、あの状態でも“死印契約”の対象にできるのか!?
『クソ!!』
悪魔系のモンスターや見覚えのある豚の人獣に阻まれて、追うどころじゃない!
『――どけぇぇ!!』
剣を振り抜いた瞬間、凄まじい力が右腕から……――剣に、“堕ちた英雄の魔剣”に、模造神代文字が三文字刻まれている?
この力、俺でも使えるのか!?
複雑な気分だけれど、今は利用させて貰う!!
『――“飛王剣”!!』
死体の壁が薄くなったところから模造神代文字の力を纏った赤い斬撃を放ち――死体を運ぶ屍へと――
「――“逢魔の波動”」
黒い衝撃波で防ぎきったのは――魔女と呼ぶにふさわしい出で立ちの不気味な女……肉食獣のごとく笑ってやがる。
『“鋼鉄爆炎鎚術”、スチールバーニングクラッシュ』
男の死体が――
『ハイパワーブレイクッ!!』
相殺しきれなかった分の衝撃波に、全身がズタズタに引き裂かれた感覚に襲われるッッ!!
『ぐぅ……く」
『ご主人様!!』
まず……このままじゃ。
「――“超神竜化”」
金色の棍棒を持った黄金の竜人が……死体の群れを薙ぎ払った?
『待たせたな。お待ちかねの美少女、参上だぞ!!』
……一発で誰か解った。
●●●
「どうして逃げるの? あのまま畳み掛ければ……」
「アイツらは奥の手を持ってる。私には、まだまだ戦力が足りないのよ」
カナデを宥める。
生きた手足が欲しくて誘ったけれど、失敗したかな、コイツ。
直感で、この女とは仲良くなれる気がしたんだけれど。
まあぶっちゃけ、さっきまでならあの犬女とその男も殺せる! って思ってたんだけれど、援軍が来た段階で風向きが変わった。
転がっている死体とは契約し放題だから、偽エイリアンやら上位プレーヤーの死体やら大量に手に入れたけれど、犬女の瞬間移動能力とか、たった一手で私の優位は覆りかねない。
やっぱり、優秀で強い下僕が私には必要不可欠!
「で、アンタ、なに?」
あの場を離れた私達を追ってきた、和甲冑の黒人男に声を掛ける。
「エイリムさん!」
「やあ、カナデちゃん。お互い、生き残れてラッキーだな」
爽やかな笑顔……ああ、コイツ――私と同類だわ。
「で、カナデちゃんは彼女と組むの?」
「……はい、たぶん」
「じゃあ、俺も入れてくんね? レギオンリーダーが死んじまったし、クエストが終わったあとの生き残りをまとめ上げて、君の傘下に入っても良いからさ」
「私の? へー」
コイツの仲間の誰かが、このクエストでSSランクを手に入れる可能性はあるか。
「良いわよ。その時は、アンタを私の右腕にしてあげる」
「有り難き幸せ。なんちゃって」
ふざけた黒人だな。
「取り敢えず、ここから少しでも離れるわよ」
ないとは思うけど、アイツらが追って来るのが一番嫌だからね。
「ククク!」
SSランク使いの死体が二つ。私の死体コレクションの中でも五本の指に入る強さのはず……でも、あの犬女と犬女の仲間を全員殺してやるためには――まだまだ手に入れなきゃね!!




