74.今よりも好きな自分
「居た」
チョイスプレートに表示されたのと同じ、禍々しい骸骨顔の黒騎士!
まだこちらには気付いていない。
後ろのユリカに合図し、前を走るシレイア達から離れ、挟み打ちを狙う。
『ああ、面倒くせぇ』
今の、デスアーマーが喋ったのか?
急に、嫌な感じが込み上げてきた。
「“鞭剣術”、パワーウィップブレイド!」
シレイアの先制攻撃が、紅の槍によって弾かれる。
『随分エロい女だな……お、早速見付かったか』
禍々しい甲冑が見付かったと言ったのは、ユイに対してらしい。どういう事だ?
「私を……知ってるの?」
『ムカつくクライアントによ、アンタを潰せって言われたのよ』
今回の突発クエストは、ユイ個人を狙った物なのか!
「私を? なんで?」
『さあな。前に仕掛けた突発クエストがどうのとか言っていたが、そんなことはどうでも良い! 俺はお前を殺して、元の身体を取り戻す!!』
アイツも、あの一つ目女や盗賊の頭領のような元人間か!
「“隕石魔法”――コメット」
メルシュが物影から、こっそりと魔法を発動。
完全な不意打ちにより、デスアーマーに隕石が衝突――強烈な衝撃波が巻き起こり、地と空気をビリビリと震わせた。
「おい! 危ないだろうが、メルシュ!!」
「警戒を解かないで!!」
隕石を空からぶつけたメルシュが、文句を言ってきたシレイアを無視して切迫した声を上げる。
『……なんだよ、今のは。ビックリしたじゃねぇか』
クレーターの中から、何事も無かったかのように声を発するデスアーマー。
無傷……なんでだ?
制約が多い分、“隕石魔法”は現状最高威力の魔法のはずなのに。
「“不意打ち無効”。レアスキルを追加していたか」
メルシュが、隠れている俺やユリカにも聞こえるように教えてくれている。
”不意打ち無効”って事は、不意打ちによる攻撃が全て無効化されるって事なのか?
『お前、空飛べんのかよ。スゲーな。お前を殺せば、そのスキルはもらえんのか?』
「モンスターにそんな特典、あるわけないでしょ」
『……うるせーよ』
デスアーマーの声音が、急に低いものに。
「一度発動してしまった以上、今日はもう不意打ちを防ぐことは出来ない!」
なるほど、一日一度だけの限定能力か。
「“紅蓮円輪”」
メルシュが、魔神・火喰い鳥から得たスキルで炎の輪を作り出す。
“紅蓮魔法”の専用強化スキル。
「“紅蓮魔法”――クリムゾンバレット!!」
輪を潜らせることで強化された紅蓮の散弾が、次々とデスアーマーに直撃。
「そいつに生半可な攻撃は通じない! シレイア! ユイ!」
俺とユリカの存在を隠すため、シレイア達の存在を強調しているのが分かる。
「あいよ! “瞬足”――ハイパワーブレイド!」
「“抜刀術”――紫電!」
『ああ、うざってーーッ!!』
シレイアとユイの攻撃を、紅の槍と鉤爪で止めてしまうデスアーマー。
完全に膂力だけで二人の攻撃を……筋力が違いすぎる。
「“光線魔法”――アトミックレイ!」
“時空魔法”のムーブメントで移動してからの、メルシュによる不意打ち!
『“法喰い”!』
盗賊のアジトで見たのと同じ能力!
「あの槍を持っている限り、魔法は通じないって事か」
「“魔術師殺しの槍”だね」
『へー、知ってんだ』
アイツには実質、魔法が通じないわけか。
「ハイパワースラッシュ!」
『“逢魔爪術”、オミナスネイル!!』
シレイアの大刀と紅の鉤爪が打ち合い――シレイアが吹き飛ばされる!
『邪魔なんだよ!』
シレイアを狙ったデスアーマーの槍を、刀一本で受け止めるユイ。
「く!」
「うっ……マスター」
そろそろ加勢に入らないと!
「ユリカ、隙を見て援護してくれ」
「分かったわ」
“強者のグレートソード”を手に、デスアーマーに向かって駆ける!
「“影魔法”、シャドーバインド!」
メルシュにより、自身の影から這い出た影の触手に絡まれるデスアーマー。
『動けねー!』
悪いけれど、背後から攻撃させて貰う!
「――ハイパワーブレイク!」
俺の攻撃は、デスアーマーの背に直撃した。
『い……ぃぃってーーッ!!』
――身体の一部が、僅かにヘコんだだけだと!?
『“逢魔の波動”ッ!!』
黒い衝撃波が巻き起こり、俺とユイ、シレイアがまともに受けてしまう!
『この俺に痛みをくれたのは――どこのどいつだ!!』
立ち上がって剣を構えた俺を見て、動きが止まるデスアーマー。
『お前……は』
なんだ? 今度はわなわなと震え出した?
『テメーは、俺をぶっ殺してくれやがったクソ野郎じゃねぇかよーーーーーッッッ!!!』
ビリビリとした怒気に当てられ、身体が萎縮してしまう!
『忘れられねーぜ……テメーに股を貫かれて、脳天をかち割られたときの事はなーーッ!!』
「お前……まさか」
『そうだよ。俺は、始まりの村でテメーに殺された男だよ!』
まるで罪を突き付けられたかのように……心が罪悪感で浸食されていくのが分かった。
『俺の眼鏡ちゃんはどこだよ? あの時の獣耳女はどこだよ!? テメーの目の前で、あの二人を犯してやる! この身体のきたねーモノをぶち込んでヒイヒイ言わせた後、内臓を引きズリ出してやるよーーーーッッッ!!』
コイツのおかげと言って良いのかは疑問だけれど――罪悪感が吹き飛んだ。
代わりに、あの時以上の憎悪が湧き上がってくる。
「もう一度、俺が冥土に送ってやるよ」
●●●
「アイツが……槍の男?」
――急に手足が冷たくなって……下顎がガタガタ震えるッ!
クソ……クソクソクソクソクソクソクソクソクソ!!
脳内で、惨劇が何度も繰り返しリプレイされてしまう!!
いきなり頭を槍で貫かれたパーティーメンバー、斧で喉を切り裂かれたパーティーリーダー!
もう……立っていられない。
「おおおおおおッッ!!」
『熱くなんなよ、ウザってー!』
激しい剣と槍の応酬。
コセが必死に戦っているのに……どうして私は……。
「ハーレム王!」
「マスター!」
『お前らは、そいつらと遊んでろよ!』
援護に入ろうとしたメルシュ達を邪魔するように、手脚の生えた青いシャチが立ちはだかる。
『これで助けは来ねーぞ!』
「だからどうした!」
膂力が違いすぎて、コセが押され始めていた。
『つーかよ、犯し甲斐のある可愛い子ばっか連れやがって!! 何人とヤッたんだよ! おら、言えよ!!』
槍の男の蹴りがお腹に入って、コセが地面を転がる!
「ガハッ!! ハアハア、お前と……一緒にするな!」
『俺様のマントを使っているくせによ!』
再び激突する二人。
『良い子ちゃんぶってんじゃねぇよ! 女だってそっちの方に興味津々なんだよ! しつこく誘えば、どんな女だって股を開きやがるアバズレだぜ!』
なんで私は……――あんなクズに怯えなきゃいけないんだッ!
「フッ――ハハハハハハ!!」
槍男の動きが止まった……コセが突然笑い出したために。
『な、なにが可笑しい!』
「しつこくすれば、どんな女だって股を開く? ――要らねーよ、そんな安っぽい女」
コセの纏う空気が変わる。
「そもそも、責任取るつもりもない発情魔が、なに得意げに女を語っていやがる。気持ち悪いしダセーんだよ、お前」
『な、なんだと!』
「まともな人間が、本気で惚れた女以外とわざわざ性病になるような真似するかよ」
……それって、トゥスカ以外には手を出さないって事よね?
言ってる事は格好いいんだけれど……アンタを狙っている身としては複雑なんですけど……。
『真面目ぶりやがって、童貞野郎が!』
「お前みたいな異常者、まともな女が相手にするはずがないもんな」
『……テメー、もう黙れッ!!』
「お前は、自分に見合った安っぽい女だけ相手にしていれば良いんだよ」
『…………ぶっ殺す』
……こんな所で足を止めているような女が、良い女な分けないか。
でも――コセを諦める気にはならないから!
「“煉獄魔法”――インフェルノカノン!」
不意を突いて、元槍の男の頭に一発ぶち込んでやった。
『お……前は……眼鏡女!』
震えは止まっていた。手脚に熱が戻っていく!
「私、今はもう、そこの彼の妻だから――アンタみたいな安っぽい男の相手なんてしてられないのよ!!」
コセのためなら私は、今よりも好きな自分になれる! なっていられる!
第三だろうが、第四だろうが構わない。
もしコセが私を愛してくれるなら――それは本物だって、断言出来るから!
「とっとと消えろ、カス野郎ッ!!」
“煉獄のネイルステッキ”を、因縁の敵へと向けた。