717.レギオン・カウンターフィットの正しい使い方
『“ベータ・ドラコニアン”一体では、さすがに難なく対処されてしまうか』
アルバート君が眠ってから少々、勝手をさせて貰った。
『それにしても、アルファ・ドラコニアンが勝手に持ち場を離れたあげく、早々に倒されたのは痛いね』
彼等が自由に動く事が許された範囲を超えた個体が、早くも《龍意のケンシ》達と接触し、おまけに一対二で敗れてしまった。
『今回のクエスト、アルファ・ドラコニアンを投入しすぎだと怒られたくらいだったのに』
まあ、どうせ廃棄予定だった奴等だ。これまで以上に自由に使わせて貰えるだろう。
『ベータ・ドラコニアン量産の件、さっさと進めなくてはね』
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「うーん、急に洞窟になっちゃった」
駅を超えてかなり進んだ先、金属の壁だったのが急にゴツゴツとした岩肌に。
「めちゃくちゃ天井がたっかいね」
「地下空間の巨大な亀裂を、そのまま利用しているみたいだな」
エトラも関心気味。
「ていうか、水の音が聞こえない? 軽く波打つような」
「はい、私にも聞こえます」
マリナとケルフェの会話。
「少し先に、たぶん湖が見えるわ」
“闇隠れ”で、ちょちょいと岩を登って確認してくれるエロカナさん。
「どうする、この辺で今日は野宿しちゃう?」
もう夕方近いし、朝早くから動いてるから、そろそろ切り上げ時かなってね。
「こう広いと、いつの間にか囲まれているなんて可能性もあるからな」
「うち一人でここら一帯を見張るのは、さすがに堪忍してくれやす」
エトラとタマモは反対と。
「私としても、もう少し距離を稼いでおきたいです」
「まあ、あと二時間くらいで、ここより良さげな場所を見付けたいわね」
ケルフェとマリナも反対。
「私も、まだ大丈夫よ」
エロカナさんも進む気満々か。
まあ、私もそのつもりだったんだけれどね。
「じゃあ、休むのに適した場所を見付けるってことで! 行くぞー!」
「「「「「オー!」」」」」
起伏の激しい洞窟を進むこと暫く、途中から下り坂が続き、とうとうカナさんが言っていたデカい湖に到着。
「このまま暫く湖岸を伝っていくのが最短ルートやけど、道中でこの空間に幾つかのルートが通じ取るね」
「じゃあやっぱり、この洞窟は早めに抜けた方が良さそうですね」
「マスターの言うとおりなんやけど、道が無い湖岸部分、ちょうど向かい側の位置に行き止まりの空洞があるみたいや……どないする?」
「行こう! レアな宝箱があるかも!」
「コトリ……アンタが道中の宝箱を開けるから、カウントシステムのポイント、三千も無いんだけれど?」
マリナに笑顔で睨まれる!
「でもさ、結構良いの手に入ったじゃん」
“免許皆伝”とか、“シュメルの指輪”とか、“黄金白銀障壁の腕輪”とか、他にも色々。
「マリナにちょうど良い物もあったし!」
「それは……そうだけど」
「まあ、私達くらいはカウントシステムでのSSランク入手に固執しなくても良いんじゃない? いかにも何かありそうな空間だし」
カナさんが庇ってくれる!
「行き止まりの空洞か。湖よりかなり高い位置にあるみたいだし、野宿するのにちょうど良いんじゃないか?」
おお、エトラからも援護が!
「まあ、いかにも何か起きそうだけれど、確認だけしとくのもありか。まだ余裕があるうちに」
「そういえば、ルールの中に別の突発クエストの景品が配置されてるってありましたよね? SSランクじゃないにしても、ユニークスキルが手に入るかも」
マリナとケルフェも、乗り気になってきたじゃーん♪
「それじゃあ、行こうか! “戦乙女の天馬”!」
「“黒灰の竜翼”!」
「“硝子の光翼”!」
呼び出した有翼の白馬に私とタマモが、エトラとマリナは翼の装備、ケルフェは脚甲の“天翔け”の効果で空を駆け、カナさんは“シュバルツバルトブルーム”に乗って湖の上へと飛び立つ。
「そういえば、“湖の主”とか居ないよね?」
マリナの発言。
「コセさんが初めてSSランクを使って倒したっていう?」
「そうそう。アレ、SSランクの化け物だったみたいなのよね」
「アンラ・マンユと同格を、実質一人で倒したって、やっぱギルマ……コセ様は凄いですね」
ケルフェは、まだ名前呼びに馴染めないか。
「さっそくコウモリ共が来たぞ!」
“ビックバット”と“ダークバット”の大群が、上から突っ込んでくる!
「皆は真っ直ぐ進んで! 装備セット3」
“マキシマム・ガンマレイレーザ”に変化させた“レギオン・カウンターフィット”を構え、発射!! 途中から“光線支配”でバラバラ追尾させて、ほぼ始末し終えた。
ていうか、派手な光のせいか生き残りの動きがおかしい?
「コトリはん、湖から来ますえ」
湖面が膨れ上がり――虫みたいな人型の巨大化け物が出て来た!?
「何あれ?」
「Sランクの“偽エイリアン”やね」
「アレもなの!?」
ここまでに何度も遭遇したけれど、ちょっといい加減にして欲しい。
「コトリ、上からも来るぞ!」
エトラの警戒先、また上から――今度は超巨大コウモリ!?
「怪獣映画か! “大音響”!!」
指輪から放った音で、巨大コウモリの強襲を止める!
「さすがやね。“ハンドレッドイヤーバット”は目がないから、聴覚を封じれば暫くはまともに動けん」
いや、偶然なんだけれど。
「コトリ、コウモリは私達がなんとかするわ!」
「下は頼んだ!」
マリナとエトラが、方向感覚バグったデカコウモリを追っていく。
「じゃあ、とっとと終わらせるよ!」
巨大偽エイリアンの腕の振り上げを避けると、触手が大量に迫ってきた!
「“神秘魔法”――ミスティックダウンバースト!!」
触手に、まとめて重風圧をぶつけてくれるタマモ。
「あんがとさん――消えろ!!」
最大までチャージした“マキシマム・ガンマレイレーザ”の一撃をぶっ放す!! ――あのタイミングと距離で、腕一本犠牲に避けた!?
しかも、湖の中に潜っていく!!
水で屈折してしまうレーザーは、水中では効果が落ちちゃうのに。
「クソ!」
触手が何本も迫ってく――水中から赤い光まで撃ってきた!?
「どないします?」
「こうする――オールセット3!」
サブ職業と、“レギオン・カウンターフィット”の適用対象をあらかじめ設定しておいた別の物――“ゲイボルグ・ディープシー”に変える!!
「“深淵投槍術”――アビスジャベリン!!」
無数の海水の槍を随行させながら、触手の中心点に向けて青い銛を投げ放つ!!
「……ハハ、さすがSSランク」
巨大な水柱と共に、巨大偽エイリアンの死骸が辺りに散らばった。




