716.天邪鬼のアキラ
「これで、邪魔は入らない」
“無量空処”による、黒と紫のマーブル空間。アタシのためにアテルがヤグルマに渡してくれた、隔離用のユニークスキル。
『……テメー』
「ほら、一対一だ。アタシを倒さないと、ここからは出られないぞ?」
本当は、術者が内部に居ない状態だと五分しか持たないけど。
『く、クソッタレが!! 俺は元《聖王騎士団》だぞ!!』
「知るかよ」
磁力で飛んでくる刃物の群れを、Fランクの“粗雑な斧”で叩き砕いていく。
『ゴブリンが使う最底辺武器で、なんでこんな……』
「お前のパーティーにNPCが居れば、すぐに絡繰りに気付けただろうにな」
『うるせー!! アイツらが勝手に、俺の使用人NPCで遊んでダメにしやがったんだ!! クソッタレが!!』
嫌な想像をかき立てるワードを。
「胸糞わりー。とっとと終わらせてやる」
これで、アタシが無理に攻め立てても、この空間に時間制限があるとはバレねぇだろ。
「ほら、パワートマホーク!!
“粗雑な斧”を投げ、武器でガードした瞬間――“アイテム起爆の指輪”の効果、“装備起爆”を使用!
『ぐ……なんだよ、この威力は。“装備起爆”は、ランクが低いほど威力が低いはずだろ……』
「それくらいは知ってるのか」
“天邪鬼”。アタシが第一ステージで偶然手に入れた、使い勝手が悪いユニークスキル。
アタシの一定範囲内に存在するアイテム、スキルのランクや効果の一部が反転する。それがこのユニークスキルの長所であり最大の短所。
だから、SSランクは実質Fランク、FランクはSSランクとしてダメージ計算がされている。
『――“守護神/ペンドラゴン”!!』
あ、まずい。
藍色甲冑纏う竜騎士の長剣が、アタシに向かって振り下ろされる!!
「……クソ」
余波だけで、皮膚が裂ける威力。
守護神や古代兵装にはランクが無いから、“天邪鬼”の効果の対象外。
サキから、アタシの天敵とは聞いてたが。
『……よく判らないが、どうやらペンドラゴンには弱いみたいだな!』
「調子に乗りやがって」
装備しているだけでHPが減るっていう“陰惨のナイフ”の能力が反転しているおかげで、擦り傷くらいならあっという間に塞がる。
反転する対象になる物とならないもの、反転した結果どのような能力になるかなど、アタシのユニークスキルは本当に使いづらくて癖が強い。
だからこそ、アタシと組んでくれているヒフミには……ちょっとだけ感謝してるんだけれどね。
「“粗雑な大剣”」
“F倉庫の指輪”から、粗雑シリーズでは貴重な大剣を取り出す。
『やれ、ペンドラゴン!!』
「“圧政搾取”」
黒いタワーシールドタイプの“圧政搾取のディストピア”、元Sランクの盾を分解し、アタシを起点に青白い円柱状の障壁を展開。その障壁の周りを、盾のパーツがグルグルと周回しだす。
『守護神でもダメなのかよ!』
剣とカイトシールドを叩き付けてくる守護神だが、ビクともしない。
さすが消費TP・MPが激しい上に、一秒ごとに100Gを奪っていく能力だぜ。
まあ、何故か“天邪鬼”の能力で、100Gを消費するんじゃなく、増えていく能力になってんだが。
「シールドバッシュ」
障壁全体から“盾術”を発動し、守護神を弾き飛ばす。
「“猪突猛進”」
“圧政搾取”を解いて、背を向けた状態で勝手に突撃――クソ野郎にショルダータックルを食らわせて吹っ飛ばし、すぐに距離を詰める!
『なんだ……急に力が入らな……』
大剣と鍔迫り合いしているこの距離は、“天邪鬼”の効果範囲内。
よって、“竜化”含め、全てのバフ効果がデバフに変わる。
逆に、アタシはデバフ効果たっぷりのFランク装備で固めているから、アタシのステータスは目の前の男とは比べものにならないくらいまで強化されてるだろう!
更に、鎧に付属させている青い宝石、《龍意のケンシ》から貰ったっつう宝石、“禍々しき青き希望”で鎧に神代文字を刻めるようになったから――九文字を刻む!
神代文字は“天邪鬼”の対象外だから、純粋に強化に使えて便利!
『がぁ……やめ……やめろ』
少しずつ、“粗雑な大剣”の刃が男の鎧を切り裂き――身体にまで達していく!
『――ぁああああああッッ!!!!』
“竜化”の回復能力も、逆にダメージを激増させる効果に変わる。
『――なんで――なんで――なんで!!』
恐怖で考える事を放棄したな、見苦しい。
「“竜化”を解けば、すぐに楽になれるさ」
大剣の刃は、既に心の臓にまで達しているからな。
『……ぁ…………」
自分から、本当に解きやがった。
「フー……“天邪鬼”か。アタシの最大の強みのせいで、アテルと結婚していられないのがなー」
外す事ができない婚姻の指輪は、アタシにとってマイナスにしかならない。
式は挙げたけれど、その日のうちに破棄せざるおえなかった。
「婚姻の指輪が無いから、アタシはアレを使えないし」
“無量空処”の効果が切れるまで、つい黄昏気分になっちまった。
○○○
アキラちゃんが“無量空処”に閉じこもって間もなく現れた敵モンスターに、“実弾拳銃ゴッデスガバメント”を撃ち込む。
「あんまり意味ないか~」
当たる前に止められて、銃弾が床に転がるばかり。
「食らってください!!」
リエリアちゃんの“マキシマム・ガンマレイレーザ”の一撃が敵モンスターを捉えるも、見えない何かに妨げられて届いていない。
「コイツ、アルファ・ドラコニアンなのか?」
ナオちゃんの呟き。
「でもアレ、青いわよね? ヤグルマ」
私の隠れNPCに尋ねる。
「アレはモンスターではないな。アルファ・ドラコニアン同様、ライブラリに記載されていない」
『グルルルル』
アルファ・ドラコニアンとは接触した事あるけれど、目の前のよりはもう少し知的な感じがあった気がする。
『ハイパワーネイル』
爪で武術を発動し、リエリアちゃんに向かって突っ込んだ!?
「――“暴乱惨禍”!!」
黒い風渦を纏わせた緑のハルバードで、青いドラコニアンとぶつかり合う鹿獣人のエレジーちゃん。
神代文字九文字分でも、互角のパワーなのか。
「ビビン、全力を出して!」
「は、はい! ――“銀月の女神達”」
私達の新メンバーの、引っ込み思案なフェアリー族、ビビン。
露出が多めのビビンが右手を掲げ――鋭利な銀月をモチーフにしたようなSSランク、“アルテミス・プレイアデス”を顕現させる。
「誰か、エレジーちゃんから青トカゲを引き剥がして!」
「任せろ! ――“神猿化”!!」
「“獣化”!!」
赤い巨猿のハヌマーちゃんと青鎧の牛人間となったノーザンちゃんが、エレジーちゃんの援護に入る。
『“超竜撃”!!』
『“咎の拳”!!』
ノーザンちゃんの斧で左肩を切断され、ハヌマーちゃんの黒い拳によって壁に叩きつけられる青い爬虫類。
……弱い。エレジーちゃんとの攻防に例の念力を使用していたから、二人の攻撃に対して念能力を使用できなかったとでも?
「“溶岩魔法”、マグマイラプション!!」
白い杖、“妍溢なる世界を瞻望す”に十二文字刻んだ状態で、強化した魔法を発動。
大量のマグマの噴出……は、念能力で防いでいる様子。
「でも無駄よ~」
私のユニークスキル、“真の魔法使い”は、自分の魔法形態を自由に変化可能。
マグマイラプションを操り、念で生み出されたドームを覆うように流動させ続けることで、念能力のリソースと行動の自由を奪う。
「今よ、ビビン!」
「はい!!」
彼女の杖、“堅実な臆病者の闘い”から六文字分の力を受け取った“アルテミス・プレイアデス”より、収束された星属性の光線が照射。
青いドラコニアンのバリアを貫い――まだギリギリで耐えるか。
「――“鬼の神力”」
ヤグルマのスキルが青ドラコニアンの頭を打ち付けたようで、弱まったバリアをビビンの力が貫き――青い爬虫類人は蒸発した。
「スキルを使ってくる、アルファ・ドラコニアンの下位互換……」
いったいなんだったのかしら、アレは。




