712.突然の死線
「“紅蓮煉獄斧術”――クリムゾンインフェルノスラーッシュ!!」
遭遇した背の低いおっさんが、鈍色のバトルアックスを振るって襲ってきた!!
「“メダライズ・アックス”。最上位武術を放つためのSランク武器です」
火の使い手である以上、ヨシノは特に危険。
せっかく、駅から植物が多いエリアを引き当てられたのに。
「ユリカ、アイツはドワーフだ。パワーと耐久力だけなら凄まじい連中だぞ」
レリーフェの評価。
「女ばかりだからって容赦しねー。レギオンを裏切った以上、SSランクがなけりゃ俺は生き残れねぇーんだよ!!」
「知るか! “煉獄鳥”!!」
「“魔力障壁”!」
簡単に防がれる!
「“星屑魔法”――スターダストシューティング!!」
「“早駆け”!!」
「“風光弓術”――シーニックブレイズ!!」
障壁を迂回するヨシノの魔法を必死に避けるドワーフだったけれど、レリーフェの一矢が障壁を破壊し――ドワーフの脇腹の肉をゴッソリと消し飛ばした。
「ぐ……クソ」
「殺す気で襲ってきた以上、殺されたって文句は言えないわよね?」
「……チ! とっとと楽にしてくれ」
潔いな。
「できるだけ苦しまないように――!?」
「おい、とっととやって……」
「――来る!!」
遭遇する度に感じていた、圧倒的な存在に対する悪寒が――猛スピードで近付いて来ている!
《見付けたぜぇ――神代文字を使うノルディックどもぉ!!》
「……さいあく」
まだ半分ちょっとしか進んでない状況で、もうアルファ・ドラコニアンと遭遇するなんて!!
「なんだ、あのリザードマンは?」
《礼儀が分かっていない奴が居るな》
「――全員、神代文字を刻んで!!」
神代文字を刻めないヨシノとバルンバルンが下がる。
「――ぁぁああああッッッ!!!?」
ドワーフ男の左腕が……ねじ切られた!?
「タマ、頼んで良い?」
「勿論です!」
SSランクを持つタマを中心に戦術を展開する。それが、アルファ・ドラコニアン相手にもっとも有効な戦術のはず。
《来い、モンスター共!》
トカゲ野郎が掲げた腕に嵌められた腕輪が、妖しく光っている?
「この気配は……かなりの数だぞ」
あっという間に、多種多様なモンスターに囲まれてしまった!
「……計画変更。タマ、スゥーシャ、ヨシノ、バルンバルンでモンスターの大群を片付けてくれる?」
「ユリカさんはどうするんですか!?」
私の言葉に驚いている様子のタマ。
「私とレリーフェで――アルファ・ドラコニアンを討つ!! 装備セット3」
この手で、“レギオン・カウンターフィット”のコピーを掴む。
「良いのか、ユリカ? それはもしもの時の……」
「出し惜しみしていられる状況じゃないでしょ」
同盟相手と合流できなかった事が、幸か不幸か。
「焼き祓え――“雄偉なる煉獄は罪過を兆滅せしめん”」
黒紫の大剣に、十二文字を刻む!
「……一緒に地獄に飛び込んで貰うわよ、レリーフェ」
「言っておくが、私は生還する気満々だからな」
ハイエルフになった辺りから、随分頼もしくなったじゃない!
●●●
ユリカさんとレリーフェさんが、たった二人でアルファ・ドラコニアンに仕掛けた。
私達は、今のうちにこの包囲網を崩さないと。
「“幻影の銛群”――ハイパワーハープン!!」
集まっていた“偽エイリアン”や“バーバリアン”数体を始末!
「バラバラに別れましょう」
ヨシノさんからの提案に従い、四方に散らばる私達。
「“六重詠唱”、“聖水魔法”――セイントバイパー!!」
出し惜しみ無しで、数を減らすことを優先!
「“聖水王銛”! “深海猛進”!!」
必死に戦って、死体の山を積み上げていく。
「ハアハア、ハアハア」
この辺のは大体片付けた。一回、誰かと合流し――左腕ごと、お腹を大きく切り裂かれた?
「死体に……隠れて」
神代文字を解いた瞬間……鋭利な爪を持つ偽エイリアンに、不意を突かれてしまった。
「“岩石魔法”――ロックブラスト!!」
岩の本流が、偽エイリアンを圧殺してくれる。
「マスター!」
「バルン……バル……」
息が……できな。
「ちょっと待ってて――ハイヒール」
腕を拾ってきてから、“上位回復魔法”を掛けてくれるスライムのバルンバルン。
「もうちょっとで塞がるからね――へ?」
――バルンバルンの核が……何かに砕かれた?
「バルン……バルン?」
「欲しかった隠れNPC、ゲットだぜ!」
鈍い金色のハルパーを持った……男?
「行くぞ、ハルキ。あっちの化け物とは戦いたくねぇ」
「解ってるよ。俺達の目的は、あくまでクエスト報酬のSSランクだ」
バルンバルンを殺したパーティー集団が……行ってしまう。
「……こんな、アッサリ」
大規模突発クエストの時に他者から奪った形で一緒にいたバルンバルンが居なくなってしまった……私のせいで。
モンスター達が、こっちに近付いてくる。
「――“色硝子支配”」
様々な色の硝子欠片が舞って――それぞれに対応した色の光線を放ち……モンスターを殲滅……した。
「エル……フ?」
爆風でフードが外れた女性は、レリーフェさん達と同じ色の長髪を靡かせた美少女。
その隣に居るのは……ユイさんのお姉さんと、水牛の獣人さん?
「《龍意のケンシ》の援護に入るよ!」
「「「おう!!」」」
カオリさん率いるパーティーが、助けに来てくれた……。
○○○
「“随伴の煉獄”」
四方八方から、アルファ・ドラコニアンに紫炎の波をぶつける!
《もっと恐れろよ、ゴミみたいな奴隷種族なんだからよぉ!》
不可視のドームバリアで防いだか。
「トカゲ風情が、どいつもこいつも似たような事しか言えないわけ?」
本当、バカの一つ覚えみたいに、奴隷だなんだと。
「“煉獄鳥”――[炎上投下]!!」
“随伴の煉獄”を“煉獄鳥”に取り込ませ――威力を増強!!
ジュリーの[万雷華]みたいな必殺技、ひそかに開発してたのよね!
《な!?》
そこに神代文字の力、九文字分を注ぎ込んで更に強化!! ――不可視のバリアを突き破る!!
《そんな、バカな!》
「ランクをあげて置いてよかったわね」
メルシュから貰った時はEランクだったけれど、私とヨシノ、レリーフェのランクアップジュエルを使って、“ディグレイド・リップオフ”をAまでは上げておいた。
「“ニタイカムイ”――“風光弓術”、シーニックブレイズ!!」
“森は木漏れ日に染められて”に十二文字刻んだレリーフェの矢が、アルファ・ドラコニアンの左胸を貫く。
《ありえ……な》
「“煉獄大地剣術”――インフェルノグランドスラッシュ!!」
動きが止まった瞬間に、袈裟斬りにしてやった。
神代文字と精錬剣があれば、二人でもアルファ・ドラコニアンに対抗できる!
《――“瞬間再生”ッ!!》
「チ!」
やっぱ使ってきたか!
「――がッ!?」
腕の振り払いに連動して、衝撃波を叩き付けられたッ!!
《もう、油断はせんぞ!!》
また腕を掲げて、モンスターをけしかけて来る!?
「“裂光爪”――“煉獄爪術”、インフェルノスラッシュ!!」
精錬剣に爪を宿し、爪術を適用させて切り払う!
「――ガぁッッ!!?」
モンスターごと衝撃波を叩き付けられて……剣を手放し――
《あの剣が無ければ、貴様らなど雑魚よ!》
首を絞められ――グッ!!
「……フフ! それ、本気で言ってんの?」
《あのエルフなら、モンスター相手に手一杯だぁ。このまま、ゆっくりと身体をねじ切ってやるよぉ》
身体が……ミシミシと色んな方向に圧迫されて……いく。
《恐怖に染まりきれぇ、ノルディックぅ! それが、俺達が求める最大の愉悦ぅ――》
「吹き染めよ――――“雄偉なる木漏れ日の風光明媚”」
凛々しい美声が響いた直後――私の首を絞めるアルファ・ドラコニアンの右腕が、両断された。




