709.上位者の力
「なるほど、メダライズシリーズか」
ジュリーちゃんの仲間を襲っていた奴等のリーダーらしき男が持っていた武器を見て、この状況に一応の納得がいく。
「対応する二つのサブ職業メダルを嵌め込む事で、最上位武術を使用できるようにする高火力Sランク武器」
瞬間火力だけなら、SランクはSSランクを上回る物も多い。
ダンジョン・ザ・チョイスは数多のスキルとアイテムの組み合わせによって、自分だけの強力なバトルスタイルを無限大に生み出せるのが売りのゲーム。
隔絶した武器一つで勝敗が決まるほど、生やさしい仕組みじゃない。
「一人一匹、手早く片付けるわよ」
シェーレ、ガブリエラ、キジナ、ウナにパーティーリーダーとして告げる。
「俺たちを家畜呼ばわりか? 舐めやがって」
「家畜は食べられるんだから、貴方達とは比べものにならないくらい価値があるわよ。貴方、とっても頭が悪いのね」
最大の作りニッコリで返す。
「――“悪魔大地剣術”、デビルグランドスラッシュ!!」
「装備セット2――“虐殺雷”」
“消せぬ穢れの拘泥り庖丁”と“虐殺の雷皇剣”の二刀流にしたのち、滾り包丁に十二文字刻みながら黒い雷を雷皇剣に纏わせ――“メダライズ・ソード”を受け止める。
「……は?」
“虐殺雷”で最上位武術を打ち消した現象が、目の前の男には理解できなかったらしい。
「“神代の大刀”」
間抜け面を鎧ごと両断し、仕留め終えた。
●●●
マスターが、さっそく一人仕留めたみたい。
「よくも――“灰燼魔法”、“闇属性付与”!」
“陣属性付与”持ちらしい、魔法使いの男。
「“影傀儡”――“魔斬り”」
影の触手で男を拘束すると同時に、“シャドースレイヤー”で魔法陣を切り裂く。
「アッシュバレッ――」
詠唱破棄魔法の構築完了間際に、“艶消しのヴェノムナイフ”を投げて喉を貫き……絶命させる。
「それなりに戦い慣れしていたみたいですが、一対一なら雑魚でしたね」
《龍意のケンシ》が追い詰められていたところを見るに、そこらに転がっている死体達の方がよっぽど強かったのか。
○○○
「来ぉい――炎竜王!!」
アジア人の男が、腕輪からフレイムキングドラゴンを呼び出す。
「黒人女なんざ死ねぇ! 俺達、日本人は黒人がぁ大嫌い!」
「中国人だろ、お前」
「――そんなわけねぇだろぉ! バカにしてんじゃぁねぇよぉ!」
中国人と指摘しただけで馬鹿にされたと思ってる時点で……ハァー。
「私はアメリカ出身だ。中国人の顔には見慣れている」
日本に留学するまで、中国人と日本人の区別はまったくつかなかったが。
「それに、日本語が少し下手だ。日本人かぶれなのがバレバレだよ」
日本人が世界的にマナーが良いという事で、日本人を優遇するサービスができた先で、日本人になりすまそうとする中国人や韓国人が激増した。わざわざ偽造カードまで作って。
あとは、外国で日本人の評判を落とすロビー活動にも同じ手を使っていたか。
「てぇんめぇー!!」
「見苦しい」
“毒撃矢のスティングシールド”先端から、矢を三本放つ。
「ヒ!?」
ビビって目をそらした隙に、“冬将軍のガンランス”を構えた。
「“可変”――“凍結大砲”」
ランスから大砲に変形させたのち、キングドラゴンを一瞬で凍結させる。
「“可変”――ハイパワーランス」
氷から抜け出される前に砕いて、フレイムキングドラゴンの首を砕き殺す。
「う、嘘だろ……」
「私が知る日本男児なら、この程度で怯えたりしないぞ」
アテルなら、私が口を開いている間に首を刎ねようとしただろう。
「だ、だまれぇぇ!!」
文句を言う暇があるなら、スキルの一つでも使えば良い物を。
「“黄泉がえ――」
ドラゴンを復活させられる前に、“冬将軍のガンランス”を喉に突き刺して終わらせる。
「もっと自分に、誇りを持てよ」
●●●
“銛撃ちの水神弓”に、“リバーサルアップハープン”をつがえる。
「“深淵弓術”――アビスブレイズ!!」
白人男に、白い銛を放つ!
「“氾濫螭”!!」
水の大蛇が壁となって、軌道をずらされたか。
「人魚は嫌いじゃない。むしろ、世界一美しい種族とすら思っている。どうだろう、私の妻にならないか? 君は美しい」
「口説いているつもりか? ――“念動力”」
「やれやれ、つれな――はぁ?」
“リバーサルアップハープン”は、軌道を逆転させる能力を持っている。その軌道を“念動力”でコントロールし、背後から貫かせた。
「何が幸せの……国……クソが」
「意味の解らんやつだ」
さて、まだ戦っているのはウナだけか。
「……スゥーシャには会えなかったか」
●●●
「……」
「起きた、ジュリーちゃん?」
「サキ……お姉さん」
助けに来て……くれたんだ。
「……あ」
離れた場所に、エルフ男の奴隷だった女達の死体が倒れている。
私があのエルフ男を殺したから、彼女たちも死んだんだ。
……今まで殺した奴等にも奴隷が居ただろうから……私が思っている以上に、私は間接的に人を殺しているんだろうな。
――まだ戦闘音がする!
「大丈夫。今戦っているのは新入りのウナだけれど、私のパーティーで一番強いだろうから」
サキ姉さんがそこまで言うなんて……。
「クソ! 俺だけでも絶対に生き残ってやる!」
鳥人の男が操っているのは、“守護神/建御雷神”!
「六十ステージ越えの守護神に、七十ステージ越えのメダライズシリーズ」
けれど、格上集団の割にサキ姉さん達が手こずっていた様子は無い。
「“影魔法”――シャドーレイン!!」
戦士のくせに、魔法を牽制に!
「邪魔さ」
顔合わせで見覚えのある女が不気味なハンマーを盾にすると――黒い雨槍が消えた?
「まさか、“饕餮・巨食鎚”!?」
四凶系統のSランクシリーズ。
どれも強力な分、四凶系統はどれもデメリットによって扱いづらい事で有名。
“饕餮・巨食鎚”はスキル攻撃全てを吸収して無効化してしまうが、その代わり自分もスキルを発動できなくなるというピーキーさを持つ。
「“渾沌の翼”」
血のように赤黒い上半身鎧、“渾沌・帝翼鎧”は、ダメージ減衰効果を無効化されない力を秘めている。
「クソ! 叩っ切れ、建御雷神!!」
更に白い下半身鎧、“檮杌・傲狠脚”は、最大で“瞬足”並みの歩行速度を与える。
よって、雷の直刀は彼女を捉えられない。
「守護神は数少ない四凶の天敵って聞いていたけれど――大したことないね」
「黙れ! この力を持つ俺こそが最強だ!!」
七十ステージまで辿り着いているなら、まず出ないであろう世迷い言を。
「くたばれ――“悪喰滅”」
最後の四凶シリーズ、左腕の頭甲である“窮奇・悪喰滅”は、むしろ守護神の天敵。
虎のような金属頭が“悪喰滅”により巨大化――守護神の喉を食い千切り、一撃で消し去る。
「バカな! この程度のダメージで消えるはずが!?」
「神如きで粋がんな、鳥頭」
神代文字を刻んだ右腕の拳で首をへし折り、決着がつく。
「この駅は多くのルートの合流地点になってる。敢えて遠回りになるルートに移動しましょう」
サキ姉さんの提案は、他プレーヤーから身を隠すための物だろう。
最短ルートと比べれば、罠やモンスターの出現数も少ないかもしれない。
「はい、お願いします」
傷付いた私のパーティーメンバーの最低限の回復を済ませたのち、最下層に一番遠回りになるルートへと進む。




