703.地下エリアへの入り口②
「……うーん、見渡す限りの大自然」
自然公園の出入り口らしき場所から数十分も歩いて来たけれど、出入り口らしき建物は全然見当たらない。
「ヨシノ、本当にこっちで良いの?」
「はい、マスター。もう少しですよ」
木々や崖しか無いけれど?
「……嫌な感じだな」
「あれ、レリーフェって、こういう場所が好きなイメージがあったけれど?」
「まあ、確かに緑の多い場所は好みだが……なんだか、ここらは汚染されているような気がしてならないんだ。こんなにも自然で溢れているのに」
ハイエルフになってから、レリーフェは直感的というか、主観での発言が増えてきた気がする。
「うお、風つよ!」
風切り音が凄い。
「ユリカさん、こっちですよ!」
タマの声――て、いつの間にかかなり引き離されてる!
どんどん入り組んだ地形となり、崖の奥深くへと誘われていく。
「着きましたよ、皆さん」
「ここが入り口?」
ヨシノの前にあったのは、崖にできた巨大な裂け目。
「天然の洞窟の中に、基地を作ったってこと?」
SSランクが動力源とか言ってたし、中はそれなりに機械化されている……はず?
「アメリカ自然公園の中に、巨大な地下基地」
なんでわざわざ、こんな舞台設定にしたんだか。
○○○
「ここだ」
「リューナさん、これ……バーゼル大聖堂では?」
ノゾミが焦っている。
「どうして、スイスのバーゼル大聖堂が地下への入り口に?」
「……スイスは世界中の資産家のマネーロンダリングや人身売買で有名な国の一つだ」
その影に隠れる形で、ウクライナはスイスと似たような役目をDS内で担っている。周辺国家のポーランドなんかにも人身売買組織があり、ウクライナへと子供を送って金を稼いでいる始末。
戦争被災地であることないこと語って家族から子供や女を引き剥がし、攫うのは奴等の常套手段。
武器を売って戦争を起こさせれば、戦争犯罪者にとって一石二鳥という図式。
中に入る。
「凄ーい。どうしてこういった建築物って、天井が湾曲してるんでしょうね♪」
ノゾミは、こういう場所が好きなのか?
「バーゼル大聖堂は確か、元々カトリック教徒が使っていたが、現代はプロテスタントが管理しているんだったか」
「カトリックって、ルーカスっていうキモい奴のレギオンのこと?」
サンヤが、珍しくこの手の話に入ってきた。
「レギオン名の元ネタだろうな。キリスト教の二つの宗派で、どちらかというと悪名高いのがカトリック。例の魔女狩りを主導したのもカトリック派だ」
「ああ、あのバカ宗教」
「あの、サンヤさん。そういう発言は、下手をすると宗教戦争やテロに繋がるので……」
「じゃあ、ますます野蛮なバカじゃん。その……なんちゃら宗教って」
「プロテスタントからすると、元々のキリストの教えを曲解したのがカトリックと言われている」
免罪符という仕組みを作って、金集めをしていたのも奴等だったか。
「サカナ」
「ネレイスと呼べと言ってるでしょ! ……使われていない地下への入り口を見つけましたですの」
崩れた煉瓦の先に、小さな煉瓦造りの階段。
「……もしかして、ネレイスさんが壊したんですか?」
「そうよ。そんなことより、ノゾミは私の名前を間違えなくて偉いですの♪」
「そんなことよりって……歴史的な建造物なのに」
「良いから行くぞ」
○○○
「ここって……なんか見覚えあんな」
煌びやかな通りにバカでかいモニターや電灯? がバカみたいに……目のやり場に困る。
「ニューヨークのマンハッタン……確か、ミッドタウンのタイムズスクエアでしたか」
イチカが教えてくれる。
「映画とかでたまにでるよな?」
「マンハッタンは、洋画の舞台になることも珍しくないですからね」
「にしても詳しいな、イチカ」
「ニューヨークは、家族旅行でよく行っていた場所の一つです」
「よく行ってた?」
「年に四回の海外旅行のうち、一番多かったのはハワイですね。レンさんは?」
「…………海外旅行なんて、一回も行ったことねぇよ」
そういえばコイツ、上級国民とか呼ばれる家の人間だったな――一発殴るか。
「こういう、ロゴが多い場所苦手……人が居ないからまだ良いけれど」
フミノも、電車の中のうざったい広告とか苦手なタイプか。
「おーい、さっさと行くぞ」
ヴァンパイアロードのエルザが呼びに来た。
チトセとヘラーシャと合流後、街中を歩いていく。
「ここがアメリカだと思うと、急に私らのコスプレ感が凄いな」
たとえ歩いているのがNPCでも、居たら恥ずかしかったろうな。
「ここって、地下鉄か?」
映画でよく見た雰囲気!
まあ、実際に体験すると……こんなもんかって気もしてしまうな。解ってたけれど。
「地下鉄に出入り口があんのか?」
「ああ、こっちだ」
エルザが、線路内に飛び降りた!?
「下りて大丈夫なの?」
チトセがエルザに尋ねる。
「うん? ああ、地下鉄なら走っていないから安心しろ。ここまで誰も居なかったろ?」
エルザって、現代社会の乗り物とか普通に知ってそうだよな?
「フミノ、さっきから振り返ってどうした?」
線路に下りて歩き始めてから、たびたび後ろを確認しているフミノ。
「電車か何か来たら怖いなって」
「ここだ」
光なんてまったく届かない場所で、エルザに止まるよう合図される。
「ここに扉がある」
夜目が利くのか、エルザがテキパキと動いて……なんか音がした?
「よし、開いたぞ」
うん、この音は?
「――まずい、列車が来てるぞ!」
急いで扉の向こうに飛び込んで、なんを逃れる。
「……死ぬかと思った」
それにしても、イチカのやつ……。
「危なかったですね」
コイツ、自分から最後になるように扉から一歩離れやがった。
「……まったく」
お前が死んだら、私もフミノも死ぬって言ったのによ。
○○○
「暗いですね……」
「だね……」
ユイさんと並んで、灯りのない古いトンネルを歩く。
「……なんでそんなに後ろを歩いてるんですか?」
何故かハユタタさんとネロさん、セリーヌさんが仲良く手を繋いでいる。
「だ、だって……ね」
「た、たまにわね」
ハユタタさんとネロさんが、何を言わんとしているのか解らない。
「情けないね、あんたら。出口から明かりが見えてるってのに」
「でもシレイア、なんか出そうじゃん……」
セリーヌさんまで、いつもの悪口モードが解けている。
「大丈夫ですよ、所詮は見かけ倒しです」
「そうそう。本物のこういうトンネルの時に感じる悪寒とか無いし」
「あ、ユイさんもそういうの解るんですか?」
「なんとなくだけれどね。カオリお姉ちゃんは私より敏感だったよ。たまに視えるって言ってたし」
「凄いですね♪ 私は感じるだけなので!」
そうこうしているうちに、長いトンネルを抜ける。
「……なに、ここ?」
私達の目の前に広がっていたのは、元ラブホ? っぽい廃虚。
「入り口は、あのラブホテルの地下にあるみたいだね」
「「「嘘でしょ、あの中に入るの!?」」」
ハモる仲良しさん達。
それにしても、シレイアさんてラブホ解るんだ。




