700.高潔神竜の激昂
「――“竜光砲”」
竜王の御霊山の廃虚にて、パーティーが四方八方に散った状態でドラゴン狩り。
「狙いのスキルは手に入ったか、クリス?」
「メグミぃ、今のは“ワイバーン”でぇす」
「なんだ、外れか」
私達が狙っている“竜腕”、“竜脚”、“竜尾”、“竜翼”、“竜気”のスキルカードはドラゴン系のモンスターが落とすらしいが、ワイバーンは何故か対象外らしい。
「というか、競馬村の突発クエストで、結構な数を手に入れたと聞きましたが?」
カプアの言葉。
「一応、異世界人分は揃えるつもりで集めるんだとさ。他に欲しいのもあるみたいだけれど」
「なんとかの竜核っていうのと、“王竜”のサブ職業ね。稀に竜王っていうモンスターが、“竜魔法”と“竜技”のスキルカードを落とすそうよ~」
リンピョンとサトミの会話。
「ウララ、竜王って見た目で判るか?」
「ええ。竜王はフレイムドラゴン、ウォータードラゴン、ウィンドドラゴン、サンダードラゴン、アイスドラゴン、メタルドラゴン、ライトドラゴン、ダークドラゴンの上位種の総称で、司る属性によって○○キングドラゴンと呼ばれます」
オリジナル経験者のウララに尋ねたら、凄い饒舌に語り出した。
「竜王は先に挙げたドラゴンより数回り大きく、見た目も筋肉質になります。ただ、出現数はあまり多くなくて。私も苦労しました♪」
「楽しそうだな、ウララ」
私は、さほどゲームはやったこと無いからか、ウララの感覚はよく分からない。
「……おい、アレは結構デカそうだぞ?」
バルバの視線の先から――巨大な顎で捕食する気満々で突っ込んでくる巨竜の姿が!!
「“竜光砲”!!」
――掠っただけで避けられた!
「せっかくの獲物、逃がしてたまるか! 装備セット3――“超噴射”!!」
“クリムゾンバーニアスラスター”を装着し、その効果で急上昇!! 竜王を追う!
「速いな――」
それにしても、色からしてフレイムキングドラゴンなんだろうが……身体の左右の形が、けっこう違って見える気が?
『――ガアアアッfbh!!』
急反転して、炎を吐いてきた!?
「――“高潔の仁王立ち”!!」
翠の鎧、“泰然なる高潔の仁王立ち”の能力で翠のオーラを纏い、ダメージを半減――炎を突っ切って頭上を取る!
「“竜光砲”――“連射”!!」
いきつかせぬ程の砲撃を放つも、ほとんど避けられてしまう!
「コイツ、速い上に硬い!」
ドラゴンだからか、“竜光砲”があまり有効打になっていないのか?
一発で、ウィンドドラゴンやワイバーンを仕留めれる威力があるはずなのに。
「――“高潔竜の雄叫び”!!」
発動中、竜属性の威力をランダムに数倍にする効果を発動!
この能力は強力な分、燃費が悪い――一気に仕留めさせて貰うぞ!!
「“猪突猛進”!!」
パワーアップした“竜光砲”によるダメージで動きが鈍った瞬間、直線状に急加速――腹部に直撃させる!!
「“竜武術”――ドラゴンブレイズ!!」
右腕の“泰然なる高潔竜の雄叫び”を力の限りぶつけ、紅の爪を抉り込ませた!!
「――ガふッ!!?」
紅の触手が……私の腹部を背後から貫いている……だと?
「――“竜王剣”ッ!!」
青緑の剣を呼び出し、刺さった触手を背後で切り裂かせる!
『ググギギギュギギけycgh5ッ!!』
コイツ……私を嘲笑っているのか?
「なめるなよ――“竜光砲”――――“連射”ッ!!」
“高潔竜の雄叫び”で一から四倍の威力となる“竜光砲”の連続砲撃を、左腕の“ドラゴンの顎”から腹の傷口へと――何十発も叩き込むッ!!
新たな触手数本を掻い潜りながら、必死に攻撃を浴びせていく!!
……朦朧としながらも神代文字の力を六文字分込めているっていうのに、まだ倒しきれないのか……。
血が、口から垂れ始め……これは、もうダメか――――ふざけるな。
「ま……だ――私は死ねないッッッ!! ――力を貸せぇぇぇッ!!」
このまま死ぬくらいなら、この怒りのままに貴様も地獄へと連れて行くッ!!
右腕の“泰然なる高潔竜の雄叫び”に十二文字が刻まれ――――“泰然なる高潔神竜の激昂”へと昇華!!
「――“神代の激昂”」
竜の爪盾から放たれた巨大衝撃波により、フレイムキングドラゴンが吹き飛んで派手に落下。
「くたばれ」
十二文字分の力を集約した“竜光砲”を“連射”し、今度こそ……タフな赤竜を滅ぼし尽くした。
「――ハアハア、ハアハア」
神代文字を解除した途端、止まっていた呼吸が急速に働き出す!
「ハアハア、ハアハア……あれ?」
私を貫いていたはずの触手も、貫かれたはずの傷もなくなっている?
「私の身体に……何が起きたんだ?」
●●●
「ここか」
午前でスキルカードを集め終わった俺は、俺とジュリー、メグミの三人で空洞の地下四階と五階の間にある……赤味の強い朱色の社のような場所へとやって来た。
「それにしても……“竜化”に、皆がここまで興味無いなんて」
ジュリーが嘆いている。
今のところ、俺とメグミくらいしか“竜化”を修得する気が無いらしい。
獣人組は、当たり前のように“獣化”を修得していたのに。
「来るよ」
社に祀られた青い宝玉が輝き、俺達三人の前に光が飛んでくる。
○“竜の秘奥の印”を手に入れました。
「これが、異世界人だけが手に入れられるアイテムか」
「このアイテムを所持するだけで、“竜化”のスキルカードを作製可能になった。あの強力なサブ職業も」
ジュリーの本命は、おそらく後者。
「サカナが使っている、“霙王竜”と同格のサブ職業が作れるんだっけ?」
メグミがジュリーに尋ねる。
「“王竜”のサブ職業に竜核を用いると、属性付きの竜技と竜魔法を使えるサブ職業になる。けれど、この印があれば、二つの竜核を同時に合成し、“霙王竜”のような三属性サブ職業を生み出せるんだよ」
偶然手に入れた“霙王竜”は、水と氷と竜の三属性。
《日高見のケンシ》のミキコが持つ“焱王竜”は、火と土と竜属性らしい。
《白面のケンシ》のレイナさんは、光と星と竜の“晄王竜”だっけ。
「カナが使っている“暗澹竜”は、三十三ステージのボス戦で手に入れた“暗黒の竜核”と“王竜”の合成で作られた物」
「そう言えば、あの時手に入れたアイテムは、よく分からなくてメルシュに丸投げしてたな」
あの頃は離ればなれになっていたのもあって、あんまり詳しく教えられなかったし。
「“蝕まれし竜核”は星、“狂気の竜核”は霊、“色褪せた竜核”は古代、“爆炎の竜核”は火、“瀑布の竜核”は水、“大嵐の竜核”は風、“雷走の竜核”は雷、“氷雪の竜核”は氷、“鉄塊の竜核”は鉄、“光輝の竜核”は光、“暗黒の竜核”は闇属性を付与する」
ジュリーがチョイスプレートを操作しだした?
「はい、メグミ」
彼女が差し出したのは、カードと青いメダル。
「これは?」
「“竜化のスキルカード”と、雷と風を司る“凰王竜”だよ」
「ありがとう、ジュリー。じゃあさっそく」
スキルカードを使用するメグ――ミが苦しみだした!?
「が……ぁあ」
脇腹を押さえている!!
「大丈夫か、メグミ!」
「……ああ、大丈夫だ。昼の傷が疼いたのかな」
メグミが強がっているように見えて仕方ない。
「そろそろ戻ろう」
メグミに肩を貸し、“神秘の館”へと帰還した。




