695.地下遺跡の変性ゴーレム
「コイツ……しつこすぎ」
「いくらなんでも硬すぎでしょ!」
双子のアオイとアヤナがぼやく。
「“溶解液”をぶっ掛けてもほとんど意味ないし」
「魔法浴びせても、ほとんど削れない」
「おい、まだか! 俺にSSランクがあるとはいえ、ちょっとキツいぞ!」
一本道の地下遺跡を進んだ最奥に鎮座していたゴーレムとの戦闘から数十分、ザッカルとアルーシャは後方から押し寄せるスタンピードラットの相手をし続けてくれていた。
「限界なら、“魔除けの浮遊鏡”を出すぞ」
低ランクモンスターが近付かなくなるという鏡は、各パーティーの隠れNPCに預けられている。
「ハッ!! 少しでも経験値を稼いでやるよ――この“ゲイボルグ・ディープシー”でな!」
突発クエスト・魔族の陰謀を阻止せよで、“レギオン・カウンターフィット”と共に手に入れたSSランク。
水属性の銛ということで候補にスゥーシャも挙がっていたが、彼女がパーティーを組みたいタマが専用のSSランクを持っているため辞退。結果、次に相性が良いザッカルの手に渡った。
隠れNPCがSSランクを装備出来るなら、サカナが一番相性が良いとフェルナンダが言ってたな。
「“深海支配”」
大量の海水を操り、スタンピードラットを壁に押しつけて圧殺していくザッカル。
「フェルナンダ、あのゴーレムは何故あんなに硬いんだ? 有効な属性は無いのか?」
「アイツは“古生代ヴァリアブルゴーレム”。全ての耐性が高いうえ、一度受けた攻撃属性ダメージを永久に半減。更に、あらゆる攻撃ダメージを半減させる能力も持っている」
アヤナとアオイにばかり攻撃させていたのはそのためか。
「その防御能力の高さ故か、戦闘能力は著しく低いんだが」
「そのためのスタンピードラットの大群か」
あのゴーレムを倒さないと奥の部屋に進めないから、ネズミ共から逃れる術が無い。
「いずれ、スタンピードラットの次はゴーレム系の大群が押し寄せてくる。とにかく全力の一撃を与えなければ!」
こっちにはSSランクだってあるのに、少し難易度が高すぎる気がするな。
「仕方ない――武器交換、“ヴェリタライズ”」
《カトリック》の誰かが持っていたらしい、質実剛健にして華麗な矛盾の剣をこの手に。
「ルイーサ……その剣なら、確かにダメージ減衰能力を無効化できるが、既にアヤナの光線魔法で光属性のダメージは……」
フェルナンダの懸念は、この“ヴェリタライズ”が聖剣でないため、“聖剣万象”の対象外だと知っているからだろう。
「問題ない」
この剣には、“聖魔剣のグリップ”が装着されているからな!
「――“抜剣”!」
“ヴリルの聖骸盾”に収めた“ヴェリタライズ”に、“聖剣万象”と神代文字十二文字分の力を乗せる!
狙うは、アヤナとアオイが罅入れた左胸!!
「“古代剣術”――オールドブレイク!!」
胸を中心に、ゴーレムの全身に罅が広がっていく!
「“破邪十字”!!」
ひび割れの中心に光の十字架を潜り込ませ、内側から崩壊させていく!!
「アオイ、ダイナマイトだ!」
チトセから、アオイが薬液と一緒に受け取っていたのは知っている!
「ほいよ!」
「サラマンダー!!」
アオイがゴーレムのヒビに投げ込んだ複数のダイナマイトを、即座に引火させるフェルナンダ。
『ボォォーッ!!』
コイツ、右腕と頭だけになってもまだ!
「――私の出番を、残してくれてありがとう」
“ヘビーバスターソード”を握らせた“水星のアームロッド”を振り下ろし、神代の力を持ってゴーレムを粉砕してくれるアヤナ。
「よし、奥へ進むぞ! ザッカル、私と交代だ!」
「おう!」
「“守護武術”――ガーディアンランパート!!」
部屋一面に障壁を張り、殺到するネズミを圧殺自殺させつつ、ゴーレム共を足止め。
その隙に、ゴーレムを倒した後に出た宝箱から、フェルナンダ達がアイテムを回収。
私達はなんとか、鏡が安置された安全エリアの小部屋へと逃げ込めた。
「ハアハア。まさか、こんなに手こずるなんて」
「ちょっと……舐めてた」
アヤナとアオイの消耗が激しい。
「“ヴァリアブルゴーレム”でも厄介なのに、まさか“古生代ヴァリアブルゴーレム”を配置してくるとは。本当に嫌な奴等だ」
「どういう事だ、フェルナンダ?」
「ヴァリアブルゴーレムに“古生代の力”なんて、反則も良いところだ。おそらく、私達に対する嫌がらせ目的で、急遽用意したんだろうよ」
まあ、似たようなケースは、これまでにも度々あったか。
「予定通り、今日の攻略はこれまでだ。後はゆっくり休もう」
○“古生代のヴァリアブルシールド”を手に入れました。
●●●
「ハアハア。ゴブリンだからって……ちょっと舐めてたかしらね」
サトミの弱音。
数頼みの止まぬ襲撃を迎撃しながらの探索は、予想以上に私達の消耗を促しまぁした。
「預かってて正解だったな、この鏡」
バルバザードが浮かべた“魔除けの浮遊鏡”のおかげで、ゴブリン達は一定の距離を保って近付いてこない。
「上位種のホブゴブリンとか含め、もう数千匹は倒してる。これは無限湧きで間違いないな」
まだ余裕そうなメグミ……さすがでぇす。
それにしてもぉ、ゲームが現実になるとぉ、こんなにもクソゲー……。
「ウララ様、今のうちに“ソーマ”を」
「ありがとう、カプア」
四方八方から襲われるからぁ、TP無限のメグミにだけ頼るわけにもいきませぇん。
「しまった! サトミ様!」
鏡が、矢で射貫かれて消えてしまう!
「魔除けは、壊れやすいのが難点だな!」
ゴブリン達が、一斉に殺到してくる!
「先に行け! 後ろは私が片付ける!」
メグミが“竜光砲”を乱発して、ゴブリンを大量に消し去っていく!
「私が前に出る。お前らはペース配分に気を付けろよ!」
バルバザードが前に出て、ゴブリンより数回り大きくて太っちょなホブゴブリンを――盾と大刀で仕留めていく!
『ギギ! “紅蓮魔法”、クリムゾンブラスターッ!!』
「ゴブリンシャーマンか――武器交換、“魔断のソニックブレイド”」
バルバが“魔断斬”で炎を切り裂き、魔法を辿る斬撃が術者の首を刎ねた。
「いた、ゴブリンアーチャー!」
私達の鏡を壊した奴を、リンピョンが見付けてくれる!
「くたばれ!! “施条銃化”」
銃の武具にライフリングを施し、一時的に射程と命中率を強化!
銃状態の二丁の銃剣で、ゴブリンアーチャーを蜂の巣にする!
「カプア、ゴブリンアサシンが来る!」
黒ずくめの忍者みたいなのが来た!
「お任せを! “獣化”」
三メートルはある方天画戟で容易くゴブリンアサシン二体を薙ぎ払い、三体目の顔面に膝蹴りを叩き込んで始末する……屈強な狸。
「“六重詠唱”、“雷雲魔法”――“魔法生物術式”」
ウララが作り出した魔法陣が歪んで、雷雲の獅子や鳥になった!
雷雲の獣達が、雷を纏いながらゴブリンブレイダーやゴブリンファイター、上位種を狙って倒していく。
『上位種の割合が増えてきました』
「たぶん、鏡がある場所が近い証拠だと思う」
オリジナル経験者のウララは、この中で一番ダンジョン・ザ・チョイスに詳しい。
「――へ?」
足元に、急に穴が!?
落ちて――地面に叩き付けられる!!
「ハアハア」
足が痺れる……。
「他の皆は……」
随分暗い……さっきまでいた場所よりも。
「どこにも、誰も居ない?」
ここの黒い壁、光を吸収しているのか、遠近感が判らない。
「奥……何か居る?」
闇から、気配が近付いてくる。
『――ギャアアォォォォォォ!!』
バカみたいに巨大なゴブリンが、闇のように黒い一角から顔を覗かせた。




