683.災禍と恩寵
『『コォォー!』』
「“桜火砲”――“連射”」
早朝、レリーフェさんがハイエルフとなった丘で、“ピリカカムイ”二体を消し炭にする。
「ナイス、ツグミ!」
ハユタタさんが、後ろから私に抱きついてきた!
「今ので“ピリカカムイ”のサブ職業を一つ。計三つになったよん♪」
ネロさんが教えてくれる。
「“人工知能”って、敵の居場所も教えてくれるんだ……便利」
無表情でそう言ってくれるユイさん。
「モンスターは、接触した事のある種類に対してだけですけれどね」
「“人工知能”はメルシュの“英知の引き出し”に似てるが、敵の補足は“人工知能”にしか無い強味の一つさね」
シレイアさんが、アイちゃんを褒めてくれる。
「おかげで、出現割合の低いピリカカムイをあっという間に見付けられたね」
最初の一体目との遭遇は、運が良かっただけですけれどね。
「どうする? 頼まれてたノルマは達成したけれど、他のカムイも狩っとく?」
ネロさんからの提案。
「ですね。私達合流組は、コセさん達にLv10くらい差をつけられてますし」
昨日の魔神戦でミキコさんとノゾミさんはLv70になったみたいですし、メルシュさんから、大規模突発クエストまでに私達も70は超えて欲しいって言われてますからね!
「コセ達も迷いの丘の方でレベリングしているはずだし、アタシも頑張るかね」
シレイアさんがやる気をだしたっぽい。
「それにしても、あんた達って皆あの男が好きなのね。ツグミも、アイツのどこがそんなに良いわけ?」
呆れ声のハユタタさん。
「そういえば、ツグミはコセさん♡ のこと……好きなの?」
セリーヌさんからの質問。
「はい。将来を添い遂げようと、頑張って追い掛けてきたんです♪」
学生の時は、こんなこと正直には言えなかったな。
「切っ掛けとか……ある?」
「切っ掛けといいますか……コセさんは、人として信用できます」
ユイさんに向かって自信満々に答える!
「ツグミ、それって答えになってんの? ていうか根拠は?」
「あれ? この前、ミキコさんも居るときに話しませんでしたっけ? コセさんは、魂の格が違うんです」
質の善し悪しはあれど、コセさんくらい明らかに格が高い人はまずいない。
「なんで……そう思うの?」
「私、霊感? みたいなのが一応ありまして、なんとなくそういうのが解るんです。霊とかは視えないんですけれど、なんとなくあの辺にどんな感じの霊がいるかくらいなら」
だから、この異世界はとても不思議だ。
あまりにも、霊的な気配が少なすぎる。
むしろ、残滓くらいしか感じとれない。
「格が高いから、信用できる?」
「はい。格が高い人は、良い嘘も悪い嘘もつきません。コセさんの格は、特に神仏に近いので。だから私、コセさんには絶対に嫌われたくないんですよ。恐ろしすぎて」
「なんで、コセさん♡ が恐ろしいんだ?」
「彼、物腰柔らかで全然恐そうに見えないのにね~」
ユイさんの次は、セリーヌさんとネロさんからの疑問。
「良いですか、二人とも。神仏に嫌われるのはとても恐ろしい事です。どんな天罰や災いが降りかかるか判らないんですよ!」
正真正銘の祟り神なら、名前や噂話などで縁を持つだけでも少なからず危険なんですから!
だから私は、お隣には絶対に行きたくない。ヨーロッパとかにも。
「天罰や災いって……なんか実例でもあんの?」
ハユタタさんが、怯えつつ訊いてきた。
「コセさんにちょっかい掛けてた男子生徒が、次々と退学という名の転校をしたり、女子生徒数名がパパ活や同級生との不純異性交遊で妊娠し、学校に居られなくなりました」
たぶん、その流れにコセさんは気付いていない。
「……偶然じゃなくて?」
ネロさんが、珍しく笑顔の裏で怯えている。
「コセさんの学年だけで、三年の間に転校、不登校になった生徒が最低でも十八名。コセさんへの嫌がらせを見て見ぬ振りをした教師三人が担任を外されたり、交通事故を起こしたりしています。ちなみに、車は大破したけれど無傷だったそうで」
女子生徒の間では、にわかに噂されていた事実。
そんな事が続いたからなのか、コセさんには天候を操る力があるとか、心の声が聞こえてるとか、妙な認識まで広まっていた。しかも、割と本気で疑っている人が大半。
そういう類の話って男子はあまり信じないのに、いつの間にか不良っぽい人達はコセさんから距離を置くようになってたし。
「なんか……現人神みたい」
ユイさんの発言は、言い得て妙。
「ツグミのいうとおりなら、なんでツグミはコセさん♡ と添い遂げようと思ったんだよ。それを信じてるなら、むしろおっかないだろ」
セリーヌさんの乱暴口調と猫なで声の変遷、ちょっと面白い。
「簡単ですよ――人を好きになるのは理屈じゃないって奴です」
まあ、コセさんと話すようになってから、過呼吸の頻度が減ったのが切っ掛けだった気もするんですけれど。
同時に、同級生や家族からの嫌がらせも少しづつ減ってったし。
「まあ、人を嫌いになるのも理屈じゃないので、コセさんに媚び売ったりしても意味ないんですけれどね」
むしろ、コセさんみたいなタイプに下心で近付くのは、完全に逆効果だと思うし。
「だから、皆さんはあんまりコセさんに変なことしちゃダメですよ。ネロさんは特に」
「ちょ、なんでそこで私?」
「だってネロさん、たびたびコセさんに憎悪とか向けてたじゃないですか」
そういう感情、気の流れみたいなのはなんとなく解る。
「……相変わらず鋭いわね、アンタは」
「ネロさん……コセさんに恨みでもあるの?」
ユイさんの空気が、シンと張り詰めていく。
「別に、彼個人には無いけれど……私は男が嫌いなのよ」
「へー、アンタのそういう本音っぽい話、初めて聞いたかも」
私も、ハユタタさんと同意見。
「そうだっけ? ……まあ、話はこのくらいにして、そろそろレベリングを始めましょ」
ネロさんのごまかしがこんなに下手なのも、初めて見たかもしれません。
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「アテルからメッセージが来てた?」
モンスターとの戦闘訓練から朝食を食べに戻ってくると、メルシュからそう告げられた。
「今夜の七時、大規模突発クエストの件で話がしたいんだって。クエストの詳細なルールも明かしてくれるらしいよ」
「てことは、《日高見のケンシ》はもう参加手続きを済ませたのか」
参加手続きしないとクエストの詳細なルールは明かされないから、アテル側からの申し出はありがたい。
「クエストに参加する気なら、参加メンバーはできるだけ連れて来て欲しいって」
「同盟同士で協力しようってところか……メルシュ、他のメンバーにも伝えてくれ。キクル達《白面のケンシ》にも」
「分かった。ただ《白面のケンシ》には、もう《日高見のケンシ》から話が行ってるみたい」
「へ?」
キクル達がレギオンを結成した後、アテル達と交流ってあったっけ?




