679.第三回大規模突発クエストの概要
19:11直前、バーベキューの片づけも終えて食堂に全員が集まる。
『第三回大規模突発クエストの概要を説明させて頂きます』
全員の目の前に、チョイスプレートが展開される。
「この声は……」
オッペンハイマーじゃない。けれど、聞き覚えがあるような。
『今回のクエストは、十二の地下エリアを舞台に開催されます』
チョイスプレートから、何かの模型が浮き出た。
『それはほんの一例ですが、十二の地下エリアの基本モデルとお考えください』
一番上が地上だと考えると、出入口がかなりの数用意されているように見える……ていうか、超巨大施設に見えるんだけれど? こんなのが十二も?
『今回のクエスト目標は、エリア最深部にて動力源を回収し、地下施設の機能を停止させること。それを、七十二時間以内に成功させればクエスト達成。失敗した場合、元がAランク以下のアイテムを全て没収させて頂きます』
この前の魔族の陰謀を阻止せよと、似て非なるデメリットか。
『道中には様々なアイテムが配置されていますが、最大のクエスト報酬は、施設の動力源として使われている――SSランクの武具』
やっぱり、今回はSSランクで吊ってきたか。
『十二のエリア全てにSSランク武具が配置されており、基本的には転送されたエリアのSSランクのみ回収可能です』
例外もありそうな言い方。
『ただし、各エリアにSSランクは一つしかありませんので、早い者勝ちとなります』
プレーヤー同士で争う要素も、しっかり入れてきたな。
『これ以上の詳しいルールは、参加を申し込んだ方々にのみ開示いたします。ただ、参加申し込みはパーティーごとでお願いいたしますね。レギオン所属の方は、レギオンリーダーに参加の是非が与えられます。その際、後から参加パーティーの追加はできません。一括で願います。それと、現在レギオンに所属している方々は、第三回大規模突発クエスト終了まで脱退できません。加入は可能ですが』
レギオンから一パーティーだけ参加申し込みをして、情報を手に入れてから追加するという手段をとれなくされたか。
『なにがあっても参加は取り下げられませんので、あしからず』
てことは、第二回みたいに、パーティーごとに転送されるパターンだろうな。
『参加申し込み受付は、今から一週間後の19:11まで。開催日は、受付終了から数日以内の予定となっております』
エリアの立体映像が消えたあと、チョイスプレートには参加申し込み用の画面が表示されていた。
「さて、どうしたもんか」
俺が声を発した事で、空気が弛緩する。
「報酬はSSランク。参加しなければ、誰かの手に十二ものSSランク武具が渡る可能性が大きいと」
ルイーサの悩み顔。
「参加を申し込まないと詳細が判らず、申し込むと参加パーティーがおそらく固定されてしまい、クエスト用に調整もできない……悩ましいな」
ジュリーも悩んでいるらしい。
「どうすんの、コセ?」
ユリカに尋ねられる。
「……メルシュ。今回のクエストは、これまでと違って、ステージによるエリア分けはされないのか?」
第一回も第二回の時も、参加プレーヤーに格差が出ないよう、ある程度制限が設けられていた。
「今はまだ、私の“英知の引き出し”にもクエストの情報が入って来てないみたい」
これは、判断材料に困るな。
「参加する場合、例の三大レギオンを始めとした格上集団を相手にする……そう思っていた方が良いだろうな」
今回のクエストの危険性がこれまでの比ではない可能性に気付いたのか、空気が少し重くなる。
「なら、SSランク使いを含め、格上達と戦闘になると仮定し、私達はどうするべきだと思う?」
リューナが皆に問う。
「私からの提案だけれど、残り一週間で出来るだけステージを攻略しない?」
ジュリーの言葉。
「理由は?」
「格差を少しでも埋めるために、新しいスキルやアイテムを一つでも多く手に入れておきたい。できれば五十ステージまで進みたいと思ってる」
「なぜ五十ステージ?」
「五十ステージには、“竜化”のスキルを手に入れられる場所があるんだ」
モモカやレプティリアンだけが持つアレか。
「“竜化”。異世界人だけが手に入れられる、“獣化”の竜バージョン。持っていて損はないし、敵に回すと厄介なスキルだね」
メルシュの補足。
「“獣化”が無いとヤバかった事いっぱいあるし、生存率は上がりそうだよね」
そういえばクレーレは、急所への攻撃を受けるときに、“獣化”で生き残るって方法を使ってたな。
「他にも、強力な能力を手に入れられる算段があるよ」
自信ありげなジュリーの顔、頭を撫でてあげたい。
「よし、一週間以内に五十ステージまで進む。参加するかは、五十ステージに着いてから改めて決めよう」
まあ、参加しないという選択肢は、事実上無いんだけれど。
叶うなら、この一週間以内に別のSSランクを手に入れたい。
一つのパーティーに、最低でも一つ以上SSランクを持たせられるように。
「というわけで、明日から攻略再開で大丈夫か?」
「それは良いけれど、午前は多様学区の最後の依頼に当てて欲しい」
ジュリーからすると、一つでも多くの依頼をこなして欲しいんだろうな。
「全員、依頼を三つ達成はこなしているから、四十七ステージは実質ボス戦をやるだけ。攻略は午後からでも良いと思うよ」
なら、五十ステージには三、四日以内にたどり着けそうだな。
「他に異論が無ければ、午後からボス戦に挑もう」
★
○コセのパーティー:トゥスカ、メルシュ▲、ナターシャ△、シューラ。
○ジュリーのパーティー:サキ▲、エリーシャ△、モモカ、バニラ、クレーレ。
○ユリカのパーティー:ヨシノ▲、レリーフェ、タマ、スゥーシャ、バルンバルン▲。
○ルイーサのパーティー:フェルナンダ▲、アヤナ、アオイ◇、ザッカル、アルーシャ。
○サトミのパーティー:クリス▼、リンピョン、メグミ、ウララ、バルバザード▲、カプア。
○クマムのパーティー:ナノカ▲、ナオ、ミキコ◇、ノーザン、エレジー、リエリア◇。
○コトリのパーティー:エトラ、マリナ、ケルフェ、タマモ▲、カナ。
○エリューナのパーティー:サカナ▲、サンヤ、ヒビキ、クオリア、レミーシャ△、ノゾミ。
○イチカのパーティー:フミノ◇、レン▼、チトセ、エルザ▲、ヘラーシャ△。
○ツグミのパーティー:ハユタタ、ネロ▼、セリーヌ◇、ユイ、シレイア▲。
早めの朝食前、メルシュが新しいパーティー一覧を発表。
▲は隠れNPC、△は使用人NPC、▼は元人間の隠れNPCで、◇は“隷属の印”持ちか。
「聞いていた通り、パーティーを増やさない方向で変えたんだな」
「サトミのパーティーに生粋のNPCが居なかったから、ユイのパーティーを無くしてみたよ」
「セリーヌが、まさかツグミのパーティーに入りたいなんて言い出すとは」
心の底から意外だった。
「一つのパーティーの人数を増やすようにしたのは、次の大規模突発クエスト対策か?」
「うん。おそらくだけれど、同じレギオン同士のパーティーは、別エリアに転送するだろうからね」
アイツらならやりかねないという信頼がある。
「七十二時間。それだけ時間の掛かるクエストだと、役割分担が重要そうだな」
戦闘スタイルもそうだけれど、休憩と見張りを分担したりとか。
「……第三回大規模突発クエストか」
少し、胸騒ぎがするな。




