おまけ 顔合わせ後の昼食
「モグモグ――あー、美味い飯だねー!」
ダークエルフのシューラが、昼食にがっついていた。
「……シューラ。エルフなのに、肉をそんなガツガツと」
「アタシはダークエルフだからね。ていうか、動物性の食物は一切食べないなんて、エルフでもフォルカスカナの民くらいさ。ていうか、アンタくらいじゃないのかい、レリーフェ?」
「……確かに、魚や動物性の油まで避けるのは私くらいだが……」
レリーフェとシューラは、元から知り合いらしい。
「食べたきゃ食べれば良いし、食べたくなきゃ食べなければ良い。主義主張は自由だが、押しつけるなと教えたはずだよ、レリーフェ」
「……解っている! いつまでも子供扱いするな、シューラ」
ふてくされたように、サトミ特製の豆乳の野菜汁を口にするレリーフェ。
「シューラさんて、やっぱり結構……年上なんですか?」
珍しく、トゥスカから向かいのシューラに尋ねた。
「女の年は内緒だよ♪」
「シューラは八十四歳のババアよ」
人魚のハユタタからの暴露……美味しそうにホタテの味噌マヨ串焼きを食べている。
「おい、ハユタタ! 勝手にバラすんじゃないよ!」
「どうせすぐにバレるんだから、隠したってしょうがないでしょうが。それにしても、このホタテの串焼き美味しいじゃない! やるわね、サトミ♪」
「それ、作ったのはコセさんよ♪」
「ゲ!?」
なんでそんな嫌そうな顔をされなきゃいけないんだ?
「……本当にアンタが作ったの?」
「それ、スゥーシャが好きなんだ」
人魚は貝が好きな傾向があるようだ。
「最高ですよね、コセさんのホタテ料理♡」
スゥーシャのテンションが、何故か急上昇。
「ク! さすが、ツグミが認めているだけの事はあるわね」
「どういう納得の仕方なんだ?」
などと会話しながら、バニラの口にスープを運ぶ。
「……アンタ、子供の面倒みる才能ありそうね」
「そうかな?」
ちぎったパンに肉の汁を染みこませながら、切り分けておいた豆腐ハンバーグをバニラに食べさせる。
「キャウ♪」
「サトミ、バニラのお気に召したみたいだぞ」
「フフフ、良かったわ♪ 野菜を避けるバニラちゃんが、喜んで食べてくれて」
肉っぽい野菜料理を試行錯誤してたもんな。
「これ、本当に肉は入ってないのか? それにしては美味しいな」
ヴィーガンのレリーフェも気に入ったらしい。
「バニラちゃんの分には動物性の油も入ってるけれど、レリーフェちゃんのはあっさりヘルシー仕立てよ♪」
本当、食事面ではサトミに頭が上がらないな。
「コセ、セリーヌが甘いのばっか食べてるー!」
モモカからの報告。
「ちゃ、ちゃんと食べたし! 食べ終わったから、一足先におやつを食べてるだけだし!」
開き直ったセリーヌが、黙々とゼリーを食べていく。
「それ、美味しいのか? 私も一つ……」
「レリーフェ、ゼリーには動物性の材料が入っているから、お前は食べられないぞ?」
「そ、そんな……あんなプルプルしてて美味しそうなのに」
メグミの言葉に撃沈するレリーフェ……只でさえ食べられる料理が限られてるから、可哀想だな。
「そのゼリーという物のどこに、動物性の材料が?」
「ゼリーを固めるのに使ってるのがね。でも安心して。そんなレリーフェちゃんのために、アレを用意しておいたから!」
「な、まさか!?」
サトミがレリーフェに差し出したのは……羊羹。
「こっちは寒天で固めてあるから、オール植物性よ♪」
オール植物性って初めて聞いたな。
「ありがとう、サトミ! お前のおかげで、毎日のように甘い物が食べられる!」
お菓子といえば、卵か乳製品がほぼ確実に入ってるからな。ハチミツが入っているだけでアウトな徹底ぶりだし、レリーフェが食べられるデザートは本当に少ない。
サトミが和菓子作りが得意なおかげで、レリーフェも多種多様なお菓子を口にできていた。
「本当に美味しいですね、サトミさんの料理! ……あれ、ネロが居ない」
ツグミさんと契約しているピエロの隠れNPCが、いつの間にか食堂から居なくなっていた。
「アイツ、いっつもフラーッて居なくなっちゃうのよね」
「でも、いっつも良いタイミングで戻ってくるんですよ、ネロさんて♪」
ハユタタと違い、ツグミさんはネロを信用しているらしい。
昼食から暫く、ユリカ達のパーティーメンバーがツグミ達を案内すると言い、“多様学区”へと繰り出していった。
「まさか、セリーヌまでツグミさん達に付いていくとは」
セリーヌは、俺以外とはちょっと距離を置いていたのに。
「……今日の午後は、久しぶりに昼寝でもするかな」
「モモカも一緒に寝る!」
「アウ♪」
「それでは、私も」
「……私もよろしいでしょうか?」
トゥスカとナターシャまで、お昼寝希望とは。
「うん、一緒に寝よう」
今日は、珍しいことばかり起きる日だな。




