677.思い出話
何故か、食堂の外へと閉め出されてしまったユウダイさん。
「それで、中学の頃のユウダイって、どんな感じだったの?」
青い髪の綺麗な人、マリナさんに食い入るように尋ねられる。
「どう……えっと、一人称が僕でした」
「「「へ!?」」」
《龍意のケンシ》の皆さん、全員が驚いている?
「コセと最初に遭ってるのって、確かユリカだよね?」
金髪の女神みたいな白人の女性が、眼鏡を掛けたオッパイの大きい人に尋ねた?
「私が遭ったときには俺になってたわよ、アイツ。てっきり、元の世界では俺様系だと思ってたのに」
「俺様系? ユウダイさんがですか?」
むしろ、俺様系からは縁遠い人でしたけれど?
「それで、コセは……向こうでもモテてたの?」
赤くて綺麗な髪の、凛々しそうな女性騎士さんから尋ねられる。
この人の方が女の子にモテそう。
「モテ……てたんですかね?」
「なんで疑問形なのよ」
青い髪の、赤と青の服を着た綺麗な女性に突っ込まれた。
「なんというか……女子からは一目置かれていたというか、一種の高嶺の花扱いだったといいますか」
黄色い声援を向けられるような事はないけれど、女子の大半は自然に、ユウダイさんに敬意を払っているような感じだった。
例外な女子もいたけれど、そういう人は性悪だったり男受けねらいとか、同性から嫌われるタイプばかりだったかな。
「高嶺の花……ですか?」
ユウダイさんをご主人様呼びしている、獣人の女性からの疑問。
「なんというか、女子って基本的に男子を見下してるんですけれど、ユウダイさんにだけはそうじゃないっていうか……少女漫画や乙女ゲーのキラキラ男子みたいな感じっていうか」
「少女漫画?」
「乙女ゲー?」
ダメだ、異世界の人達には全然伝わっていない!
「コセがキラキラ男子……分かるような、分からないような」
「姉ちゃん好きだもんね、少女漫画」
黒髪の魔法使いさんと緑髪のサイドテールさん、姉妹なんですね。よく見ると顔が瓜二つ。
「私はちょっと分かります。コセさんには、影のある王子、貴公子みたいなイメージがあるので」
「貴公子……」
「王子?」
「もっとぉ、泥くさいイメージありますけどねぇ」
ノゾミさんの言葉に、疑問が浮かんでいる様子の人がチラホラ。
「それと、みんな口を揃えて優しいって言います!」
「それは……良い人だとは思われてたんだな、うん」
なんでそこで、ユウダイさんに気を遣ってる風に!?
「逆に、男子からはどうだったのよ?」
ユリカさんの質問。
「男子には見下されがちでしたね。ユウダイさんに集団で嫌がらせして、それで女子グループと男子グループが諍いに発展しかけた事が何度か」
「……アイツが男と居るより女と居る方が気が楽って言っていた理由、解ったかもしれない」
さっきの赤髪の凛々しい人が、何故か苦笑い。
「他には? もっと色々聞かせなさい!」
《龍意のケンシ》の皆さん、国籍も世界も種族もバラバラそうなのに、食い入るようにユウダイさんの事を訊いてくる。
メルシュさんから色々聞いてたけれど……みんな、ユウダイさんが本当に大好きなんですね!
●●●
「……フー」
庭先で手持ちの剣を振って、癖を確認し終える。
「話は終わったのか?」
「そんなわけないでしょ。アンタの昔話になんて興味ないから、コッソリ出て来たのよ」
ミキコが近付いてくる。俺が一段落するの待っててくれてたのかな?
「……女体化してたの、隠してて悪かったな」
「……フン! まあ、今回は多めに見てあげるわ」
意外に懐が深い。
「一応の報告。タマコ様は、貴方たちが旅立って二日後に自殺したわ」
「……悪い」
「なんでアンタが謝るのよ」
「俺達と同じステージに居なければ、アルファ・ドラコニアンに遭遇する事はなかったと思う」
「《ザ・フェミニスターズ》の内輪揉めもね」
「内輪揉め……」
仲間割れが起きたとは聞いたな。
「タマコ様の、《龍意のケンシ》と組むって方針に反旗を翻したメンバーが結構いてね……まあ、アンタが悪いわけじゃないわ。いずれ、なんらかの形で表面化してただろうし」
気を遣ってるのかな、一応。
「その後、《ザ・フェミニスターズ》の面々は?」
「レギオンが解散してしまったのもあって、自然消滅って感じよ。もう、どこで誰が何をしているかも分からないわ。そんな時にツグミ達と出会って、付いていく事にしたんだけれど」
遠くの空を見上げるミキコ。
「……今後は、《龍意のケンシ》に参加で本当に良いのか?」
「色々考えたけれど――私は、前に進みたいと思ったから。だから、アンタと一緒に行ってあげるわ」
決意のある眼差し……今まで、俺を見ようとなんてしなかったミキコが、俺を一人の人間として認識している。
「そっか、ならよろしく」
握手を求める。
「……メイさんと代わって」
コイツ!
「無茶言うな」
「聞いたわよ? 転移の時に老化した人は“老化”、幼体化した人は“幼児化”、男になった人間は“男体化”できるようになったって」
誰だ、余計な事を言った奴は!
「確かに、“女体化”のスキルはあるけれど……」
使う気無いから、さっさと予備スキル欄に入れたし。
「メイさんとなら、キスしてあげても良いわ!」
「やめろ、バカ!」
コイツ、俺の事なんて全然見てなかった!
●●●
「セリーヌお婆ちゃん!」
長い会話ののち、ツグミが傍へと寄ってきた。
「お婆ちゃんはやめろ」
「すみません。あの時、お婆ちゃんじゃないって言葉を信じてあげられなくて」
「まあ……仕方ないさ」
立場が逆だったら、間違いなく私は信じなかっただろうし。
「なんだ、その……ありがとう、助けてくれて」
お婆ちゃんになった私を、あんなにも必死に助けようとしてくれる人が、コセさん♡ 以外で居るとは思わなかった。
フェアリー好きの奴らは、その小っちゃくて愛らしい外見に目が眩んでいるだけの奴等ばかりだったから。
「私、お婆ちゃん子だったので、むしろ楽しかったです。セリーヌさんほど口は悪くなかったですけれど」
「……ああ、そう」
そんなに口悪いの、私って?
●●●
ツグミ達との顔合わせの次の日、森での採取依頼をこなす私達。
「「「……」」」
「コトリ、ケルフェ、エトラ。全然集中できてないじゃない、あんたら! まだ引きずってんの、この前のこと?」
マリナに、イライラした様子で尋ねられる。
「だって……ね」
「刺激が強すぎて」
「わ、私は別に……あれくらい」
夕食後、“林檎樹の小屋”へ帰る途中、道場の裏手でギルマスとヒビキがヤッてるのを目撃してしまった私達のパーティーは、経験済みのマリナと隠れNPCのタマモ以外、悶々とした気持ちが込み上げて……この数日、色々と疎かになっていた。
「だから、さっさとコセとくっつけって言ったのに!」
「マリナ、敬愛するギルマスに対して、私達では難易度が高すぎます」
ケルフェの言うことに全面的に同意。
「私はだな、そもそもコセとそういう関係になりたいなんて……これっぽっちも思ってないし」
嘘つけ、エトラ! どんどん、ギルマスを男として意識して来てるくせに。
「イチカやレンにまで先を越されちゃったし、本気でどうしよう……」
せっかく同じステージまで追い付いたのに、あれからほとんどギルマスと交流を持ててないよ!




