676.女体で迎える朝
クエスト終了の次の日の早朝、キッチンで水を飲む。
「……ハァー」
サトミの着せ替え人形にされたあと、夕食後は女の身体の悦びを教え込まれてしまった。なんとか処女は守ったけれど……なに言ってんだ、俺。
「あ、もう起きてたの、コセ」
「おはよう、ユリカ……トゥスカとセリーヌは?」
「モモカ達と一緒に、まだ寝てるわ」
サトミとリンピョンのせいで、トゥスカ達とほとんど接する時間がなかった……トゥスカがあんなに可愛いのに!
「もうすぐ時間だな」
白いワンピースから、“暗闘の胴着”、Bランクに着替えておく。
「着替えちゃうんだ」
「なんで残念そうなんだ。男の姿でワンピース着てたら気持ち悪いだろ」
「なまじ、アンタが美人なのが悪いのよ」
「――確かに」
背後から、俺の胸を誰かが揉んでいる!
「て、お前か、リューナ!」
「こらこら、朝から騒ぐんじゃない」
誰のせいだ、誰の!
「ハァー。やっぱり、昨夜は私も参加するべきだった。もうすぐ、こんな可愛い子がこの世から失われてしまうなんて……」
「頼むから、ガチな感じで落ち込むな」
妻を見る目が変わってしまう。リンピョンに対しては完全に変わったし。
「それにしても、あのオカマ女より、コセの方がよっぽど女らしいな」
「は? なにが?」
「にじみ出る品格というか、フェロモンというか」
なんだそりゃ?
「コセ、身体が!」
俺の身体が光り輝いて……身体がつくり変わっていくのが解る。
「よ、よし、戻った!」
身体をまさぐって、あるはずの物と無いはずの物の有無を確認。
「チ、もう一日くらい女だったら良かったのに」
黙れ、リューナ。
「それにしても……」
胸のスカスカ感が凄い。
たった一日だけなのに、女の身体で過ごすことに結構、慣れてしまっていたようだ。
○突発クエスト・魔族の陰謀を阻止せよ の報酬をお渡しします。
★魔族討伐数×100000G。計600000G
俺が倒した魔族は六体だから、これは予定通り。
「やったな、コセ」
「ああ」
○魔族を30以上討伐した1位のパーティーに、以下のSSランクを進呈します。
★レギオン・カウンターフィット
「それにしても……名前からじゃ、どんなSSランクなのかあんまり想像つかないな」
◇◇◇
『……ク! まさか、こんな事になろうとは』
今朝まで時間を稼いで、なんとか対策を講じようとした物の、どうにもならなかった。
できた事と言えば、あらかじめ用意しておいた相性の悪いSSランクを報酬に設定する事だけ。
『“レギオン・カウンターフィット”は、言わば“メタモルコピーウェポン”のSSランクバージョン』
レギオンメンバーが持つSSランク装備を、性能そのままにコピーする。
『下手に強力なSSランクを与えるより、よほどマシなはず』
あの精錬剣とかいうのも、ようはユウダイ・コセが近くに居なければ作り出せない代物。なら、他の使い勝手の悪いSSランクしか対象にせんだろう。
『ん?』
アルバートからの通信だと?
『……なんのようだ、アルバート・ジュニア』
『その呼ばれ方は、好きではありませんね。まあ、そんなことより――予定されていたSSランクのデータ提供、一つしか来ていないようですが?』
『ク!! ……想定外の事態だ。それ一つしかデータの提供はできない』
まさか、同率1位になるなど、誰が予想できようか!
『困りますね。こちらは、二つのSSランクを提供して貰えるという前提でプロジェクトを進めていたというのに』
『一つくらい、貴様でどうにかしろ!』
『そちらがギリギリまで待ってほしいというから、その分の枠を空けておいたのですが?』
若輩の分際で!!
『まあ良いでしょう。ここはオッペンハイマー様に事情を話し、助力を願いましょう』
『――待て! オッペンハイマー様に頼むだと!?』
そんな事になれば、俺のミスが露呈することに!
『判った! 俺がなんとかす――』
『いえ、結構です――それでは』
アルバートとの通信が……切れた。
『……終わった』
さいあく、俺は殺されて…………豚の餌か、挽肉料理行きか。
●●●
「改めまして、私がパーティーリーダーのツグミです」
ボロいマントを羽織った、カントリーテールの女の子。
「……《ザ・フェミニスターズ》所属だったミキコよ」
緑のタートルネックセーター? を着た黒髪ロングの美女……視線で射殺そうとしてるんじゃないかってくらい睨まれる。
「人魚のハユタタ。ツグミとは一番古い付き合いよ」
つまらなそうに自己紹介する、黄色い鱗とツーサイドアップの髪の人魚。
「ダークエルフのシューラだ。ツグミとは二十ステージからの付き合いで、得物は弓だ」
桃色のロング髪の褐色美女……二十ステージからってことは、エルフの奴隷として売られてたのか?
「ノゾミです。知っている人も居るかもしれませんが、元エリューナさんの奴隷です」
俺は見覚えないけれど、攻略に参加していないメンバーが居るとは聞いていた。
確か、“究極生命体”のユニークスキルの情報をくれた人だったはず。
「ツグミと契約しています、ピエロの隠れNPCのネロなのです」
赤い髪の派手な髪型をした、青と白の服を着た女……。
「メルシュ、ピエロの隠れNPCって初めて聞いた気がするんだけれど?」
「ピエロの隠れNPCは、第二大規模突発クエストの景品だからね」
ということは、ヘルシングのレンやバレンタインのホイップっと同じ――
「そうそう。私、元人間なの。圧倒的有利だったのに、油断した所を後ろからグサーッてされちゃった・間・抜・け」
凄く変な人だな。やたら俺とエレジーをチラ見するし。
「この六人が、《龍意のケンシ》への入団希望者だよ」
まさか、ミキコがうちに入ろうとするとは。
「で、なんで今まで黙ってたんだ、メルシュ?」
「私が入団するための条件として提示したのが、私達が居るステージに追い付くことだったんだよね」
「それで、私の方から、追い付くまで黙っておいて欲しいってお願いしたんです」
ツグミさんからのカミングアウト。
「道理で、定期的に攻略を先延ばしにしようとするわけだ」
「彼女達なら、間違いなく戦力になるって確信してたからね。一応いっておくけれど、レンとクリス以外の隠れNPCは知ってたからね」
だからなんなんだよ。
「いつ頃からコンタクトを?」
トゥスカからの質問。
「第二大規模突発クエスト後からだね。ツグミからコンソールに連絡してきて、それから情報を提供してたの。アイテムも、少しだけ融通したけれどね」
「待てよ、ツグミ達はどのステージから第二大クエに参加したんだ?」
ザッカルの顔が引き攣っている。
「二十ステージからです」
いや、待てよ?
「ということは、僅か二ヶ月足らずで二十七ステージ分も攻略してきたって事ですか?」
「はい、頑張りました♪」
ザッカルの顔が引き攣っている理由が解った。
彼女の言葉が本当なら、二日で一ステージペースで攻略してきた計算になる。
メルシュからの情報にオリジナル経験者であろうノゾミの存在を考えれば、不可能という程ではないけれど……とんでもないな。
「あ、あの、ユウダイさん……雰囲気、だいぶ変わりましたね」
態度が一転、緊張した様子で声を掛けてくるツグミさん。
「俺と知り合いだから、《龍意のケンシ》に入ろうと思ったんですか?」
「はい、思い出してくれました?」
「ええと……間違ってなければですけど――過呼吸の亜望さん?」
「正解です! 良かったぁー、忘れられてなくて!」
心底ホッとしたような笑顔を浮かべるツグミさんと、何故か睨んでくるハユタタ。
「ユウダイ、なんで私の時は分からなかったのに、ツグミの事はわかんのよ!」
ご立腹のマリナ。
「無茶言うな。お前とは何年も会ってなかったうえに、とんでもなく女らしくなってたんだぞ?」
ガキ大将が美少女になってたら判んねーよ!
「それに、ツグミさんと俺は同じ中学だったから、最後に顔を合わせてからまだ半年くらいしか経ってないんだよ」
まあ、マリナ程じゃないものの、ツグミさんもだいぶイメージ変わったけれどな。
「過呼吸は大丈夫なんですか?」
「うん♪ こっち来てからは、何故か一回も無いんだ」
こんな風に、無邪気な笑みを見せるような明るい人じゃなかった。
ツグミさんは俺と同じで、こっちの世界に来て良かったと思っている側なんだろうな。
「……ユウダイ、ちょっと食堂から出てって」
「え?」
マリナの言葉が合図だったかのように、メルシュとトゥスカに拘束されて……閉め出されてしまった。
「…………へ?」




