673.雄大なりし悪魔神の夢
「……ここ、どこだろう」
見覚えがないというか、どこもかしこも見た目が似ててよく分かんない。
「こういう時って、下手に動かない方が良いっていうよね」
『独り言がデカい女だ』
「うん?」
なんか、異様に左腕が肥大化した魔族が居る?
『この都市の人間には、全員死んで貰う』
とんでもないスピードで接近されたうえ、腕の薙ぎ払いが――咄嗟に“雄大なる魔界の風”と“雄大なる大地の風”に九文字を刻んで盾にする!
『自分から跳んだか。少しは戦い慣れしているらしいな』
「よく喋る魔族だなー」
やば。腕、痺れてるんだけれど。
「“氷砕王斧”、“爆裂王斧”!」
『“邪悪爪術”――ウィケッドブレイズ!!』
飛ばした浮遊斧が、簡単に壊された!
「“氷砕魔法”――アイスクラッシュボール!!」
鉄片混じりの氷球を発射!
『“魔斬り”』
「“三連瞬足”」
アイツが魔法を切り裂いているうちに、横合いから攻める。
「“氷砕武術”――アイスクラッシュスラッシュ!!」
『“硬皮”』
硬化した右腕を切断されながらも軌道を変えて、狙った首から外されてしまう!!
「ハイパワースラッシュ!!」
だったら、左手の大地の斧を食らえ!
『ぬるいんだよ!!』
蹴りが、お腹にモロに入っちゃうッ!!
「グッ……」
やっば……キッつ。
――死の気配から逃れるために、込み上げた吐き気を無視して地面を転がり……爪の一撃を回避。
「ハアハア、ハアハア。今までの魔族と、全然違うんだけど? アンタ、本当に魔族?」
『なにが魔族だ。俺達を捕らえて散々弄くり回して――テメーらが勝手に、俺達を魔族とか言い出したんだろうが!!』
いや、知らんけど?
『俺は、特殊進化に成功した第一級被験体。理性を失った二級被験体とは物が違う』
よく分かんないけど、魔族の中でも超強いって事だよね?
「メルシュ姉にできれば使うなって言われてたけれど、まあ――仕方ないよね」
このまま死ぬくらいなら、観測者にバレちゃう方がマシでしょ!
「私のユニークスキル――――“雄大なりし悪魔神の夢”」
私の身体から黒い肉が躍り出て、生物的に躍動する肉の鎧へと変貌する!
「これが、私のユニークスキルにしてSSランク装備だよ!」
このクエスト中は装備できないはずのSSランクだけれど、発動するまではユニークスキル扱いだからか、クエスト制限の対象外になってるっぽい。
『それがどうした――殺すことになんの変わりもない!!』
背後への高速接近――からの爪か。
『なに!?』
鎧の肩パーツを肥大化させて、稼働する鋭利な爪甲の盾とした。
「私の鎧は、言わば変幻自在の黒い肉。だから、こういう事もできる!」
尻尾を生やして蛇に変え、腹に強烈な頭突きをかます!
『――この程度でぇッ!!』
お得意の超スピードか。
「なら――“悪魔支配”」
私の鎧から“アバター”を大量に生み出し、物量で死角をカバー!
“アバター”に対して防戦一方になる、なんちゃら魔族。
「そろそろ終わりにしちゃおっかな」
胸部分の黒肉を、“デーモンロード”の頭に変える。
「――“終末の柱”」
デーモンロードの口から放たれた青白い火柱が、私の敵を呑み込む。
『ふざけ――』
“アバター”によって動きを封じられた魔族に直撃させるのは、全然難しくなかった。
「楽勝楽勝♪」
これもうさ、私が最強じゃね?
●●●
「道が……」
竜亀バイクで中央の商業区画から武芸区画を目指していたところ、区間同士を繋ぐ高速道路みたいな橋が崩れているのを発見。
「どうします、引き返しますか?」
「まいった……まいりましたね」
女のフリするの、正直キツい。
トゥスカを意識してるんだけれど、よくこんな喋り方できるな。
「仕方ありません。どこかで休憩しつつ、状況を整理しましょう」
谷間の湿っぽさが地味に不快だし。
★
「これ、勝手に飲んで良いんですかね?」
身を隠せる場所として見付けたのは、コンビニみたいな場所。
「まあ、非常時ですし」
分かってたけれど、ミキコはなんだかんだで生真面目。
会計機能が停止してるし、店員も居ない。
飲み食いはできるみたいだから、別に良いと思うけれど。ここはゲームなんだし。
「魔族討伐数、97。残り三体か……あれ?」
「どうしました?
ハンバーガーみたいなのをモグモグ食べながら、尋ねてくるミキコ。
「ミキコさんのパーティー、今1位みたいですよ」
ツグミって娘がリーダーなんだ。
ミキコ達のパーティーが36で、俺達のパーティーが34。
いつの間にか、マークしていたユウスケとヒトシのパーティーは壊滅したらしい。3位は知らないパーティーで、討伐数たったの6。
六人パーティーなのに、半分は死んでいるようだ。
「これ……参加者はもう、ほとんど死んでるんじゃ……」
そう考えると、今朝来たばかりなのに誰も死んでないミキコのパーティーメンバーって凄いな。
「残り三体なら、じきに終わりそうですね」
「そうとも限らない。あの観測者の事だから、最後の一体は逃げに徹させて時間切れを狙うかも」
“多様学区”に加えて周囲の森も範囲と考えると、逃げに徹する相手を見付けるのはキツい。
SSランクとSランク装備を全て失う事態は、絶対に避けないと。
「すみません、ミキコさん。仲間探しより、魔族の捜索を優先しても構いませんか?」
「はい。早く終わらせた方が、結果的に皆の助けになるでしょうし」
なんだ、この殊勝な返し。本当にミキコか?
「メイさんのパーティーメンバーは無事ですか?」
「……」
「メイさん?」
「ああ、すみません!」
そうだ、メイって名乗ってたんだった。
「はい、私のレギオンメンバーは全員強いので、大丈夫です」
「レギオンに所属してたんですか!? 凄いですね。それだけの人数で、全員が女性だなんて」
情報を与えすぎた。急がないとぼろが出る。
「ハハ……ミキコさんも入ります?」
て、余計なこと言うなよ、俺! なんでたまに、意図しない事を口走る!
「……それも、良いかもしれませんね」
目に見えて気落ちするミキコ。
このツグミというプレーヤー含め、他の面子に見覚えが無い。
壊滅したはずの《ザ・フェミニスターズ》と違うメンバーでここまで来たっぽいし、いったいどういう心境の変化があったんだか。
「メイさんは少し……タマコ様に似ていますね」
「へ?」
似てる? アレと俺が?
「元所属レギオンのリーダーだった人なんですけれど……身内には凄く優しい人で、常に皆のことを考えてて……そういう時の雰囲気が、少しだけメイさんに似てました」
「……そのタマコさんとは……」
なにがあったのか聞きたいのに、正体がバレないように言葉を選ぼうとすると上手い言葉が思いつかない!
「亡くなりました――自殺です」
「…………へ?」
自殺? あのクエストの後、俺達と別れてから?
――またあの感覚。俺と関わらなければ、タマコ達はまだ――
「メイさん? 大丈夫ですか、顔色が悪いですよ?」
「だ、大丈夫で……近くに、誰か居る」
明らかに人の歩く気配。
そうだ――今は、自分達が生き残る事に全力を尽くさないと!!




