671.捨てられたメモリアル
「来なさい――ケルちゃん! パズーちゃん! ジャイアンちゃん! キュンちゃん!」
オカマ女が、新たに四体のモンスターを呼び出す。
「やはりテイマーの能力か」
「天使系Aランクのケルビム、悪魔系Aランクのパズズ、スネーク系Aランクのジャイアントフレイムサーペント、妖怪系Sランクの九尾狐狸ですの」
サカナからの情報。
「あのピンクカバは?」
「アレもAランク。総合能力はSランク一歩手前ですけれど」
強力なモンスターで固めてるか。
どうりで、クエスト中にパーティー全滅なんて自殺行為を犯すわけだ。
「リューナ、あのオカマ女をよろしくっす!」
「取り巻きは、できる限り私達で引き付けますので」
「仕方ないですのね」
アレが契約モンスターである以上、あのオカマ女を殺せば消えるか。
「頼んだ、三人とも!」
「“三重魔法”――“霙竜魔法”、スリートドラゴバイパー!!」
三体の氷河の龍が踊り暴れ、オカマ女のモンスターを良い具合に分断してくれる。
「頑張れ頑張れアタシのモ・ン・ス・タ! キャーー!!」
「何してんの、アレ?」
「テイマーの固有スキル、“応援”ですの。早く止めないと、モンスターがどんどん強化されてしまいます!」
サキがアレやってるの、模擬レギオン戦の時すら見たことないが? NPCですら恥ずかしいと思ってるんじゃないのか、アレ。
「“空遊滑脱”――“瞬足”空衝”!!」
連続高速移動で、大樹の枝の上に居るヒトシに接近!
「ハイパワーフリング――“散弾化”!!」
テニスボールサイズの鈍色の玉を高速投擲、パチンコ玉サイズになった玉がオカマ女に迫る!!
「“四重幻影”ぇ!」
当たった――ように見えて躱された!!
ならば広範囲攻撃だ!!
「“吹雪魔法”――ブリザードダウンバースト!!」
凍てつく重風圧で、圧死しろ!!
「オールセット2!!」
紅の大斧を装備して、私の魔法を切り裂――吸い尽くした!?
「魔術師殺しか!」
しかも、あの女が装備した機械じみた鎧は!
「凄いのよ~、この鎧が生み出すパワーは。“油圧式ユニット”を始め、数多の素材と大金を注ぎ込んで作った“ハイドロリック・パワーアーマー”の性能――たっぷりと味わいなさーい!!」
“揮発液”を手脚に肩、両胸の計八本も装着している……時間稼ぎを狙っても意味は無さそうだな。
「まったく、面倒なオカマだ」
「アタシを――オカマ扱いしてんじゃねぇーッ!!」
●●●
巨大黒蛇の突撃を、“汚泥斬首の三日月”に三文字刻みながら跳躍で回避。
直後、頭上から赤い翼の天使、“ケルビム”の襲撃!
「“泥土斧術”――ベリアルスラッシュ!!」
剣で受けられちゃったけれど、反動で上手い具合に着地できた!
しかも、サカナが生み出した氷河の龍がケルビムに襲い掛かる!
「今のうちに」
確実に数を減らす!
「“腐食土葬”!!」
巨体を持つ蛇を、下から盛り上がる泥で覆わせる!
『シャーー!!』
炎を吐いてきやがった!!
“腐食土葬”使用中は、手を地面から離せない!
「“倍斧光刃”!!」
“汚泥斬首の三日月”の刃に、倍は大きい光の刃を形成して盾にする!
さすがの巨体のせいで、泥に覆われる速度が予想より遅い。
「“獣化”――“泥玉発射”!!』
神代文字を消して、MPと引き換えに急速な再生能力を得られる人獣となって度重なる炎を耐えながら、泥玉でダメージを与え続ける。
ああ、キツいっ! でも――
『リューナのために――負けるかッ!!』
再生に優れたスキルと装備に加え、“痛覚耐性”まであるんだぞ、私には!!
『シャ、シャーー!!』
よし、“ジャイアントフレイムサーペント”を仕留めきった!
「危ない、サンヤさん!!」
ヒビキの声? ――背後で、ケルビムが剣を振り上げている!
「“堕天化”――」
黒い極太の光が、ケルビムの上半身を吹き飛ばした?
『今のは?』
●●●
誰かが、サンヤさんを助けた?
――“カニバリゼ・ヒッポポタマス”の突進噛み付きを、“跳躍”で避ける!
「“邪光線”」
右目を焼き、死角側から接近。
“馬上で振るうは十字の煌めき”改め、“馬上で振るうは∞の幸輝”に十二文字刻む。
「“神代の十文字槍”――“紅蓮槍術”、クリムゾンストライク!!」
横っ腹に深々と突き刺し、素早く引き抜く。
「“鬼道”――鬼火!!」
神代文字の力を練り込んだ青い大火球を傷口に叩き込み、仕留めきる。
「……」
未だに不思議に思う。
コセさんに、私の未来の幸福を預けたあの一夜ののち、私が“馬上で振るうは十字の煌めき”を装備した瞬間に、奇跡は起きた。
この十文字槍に込められた想いは、私が得るべきではない、捨てさったはずの幸福そのもの。
私の願いが揺らぎ、幸福の道を目指したいという強い気持ちが生まれてしまった証。
自分が、こんなにも男を求めている女だなんて思いもしなかった。
「“究極生命体”!!」
ネレイスさんが、ヘラーシャさんから借りた切り札を行使。
「“終末の柱”!!」
スリートドラゴバイパーでボロボロになっていたパズズと九尾狐狸が、青白い炎によって蒸発した。
「これで残るは」
●●●
「死になさぁーい!!」
とてつもないパワーで振り下ろされた斧により、私がいた枝が折れ落ちる!
「なんて圧力」
“揮発液”は大して減ってないどころか、どうやら全ての瓶から平等に、少しずつ減っていく仕様らしい。
武器の打ちあいになったら間違いなく終わる上に、魔法がまったくと言って良いほど効かない相手とは。
「まあ、やりようは幾らでもある――“神代の剣影”!!」
“終わらぬ苦悩を噛み締めて”から剣の鞭をお見舞いしながら空中を駆け、上から責め立てる!
「く、クソォー!!」
なんとか、“魔術師殺しの大斧”で防いでいるな。
「粘るじゃないか、オカマ女」
あの重武装。枝から落ちれば、死なないにしろ無事ではすまない。
「オカマと――呼ぶんじゃなぁぁい!!」
「いいや、お前はオカマさ。お前は自分が、女の心を持った男だと思っていたんだろうが、その女体化した姿から感じる風格は、只のなんちゃって女。断じて女じゃない」
神代文字を刻めば刻むほど、それが理解できる。
「お前は、女になりたいだけの男。女の心を持っているというのは只の幻想だよ」
「――黙りなさいよぉぉ!!」
私の剣影を大振りで弾いた瞬間――一息に距離を詰める。
「“超噴射”――“業王脚”!!」
神代文字を六文字刻んだ“終わらぬ苦悩を踏み締めて”で黒の暴威を食らわせ――オカマ女は、割れた枝の破片ごと落下していく。
「……が、ハァー、ハァー!」
「まだ生きてるのか」
鎧の機能なのか、随分と頑丈な事だ。
「アンタなんかに、アンタなんかに判るもんですか……――この俺の気持ちはよぉぉッ!!」
――なんて瞬発力!!
神代文字を限界の十五文字まで刻み、渾身の一撃を受け止めるッ!!
「“逢魔剣術”――オミナスブレイクッ!!」
奴の斧を砕き壊した!
今度こそ仕留める。
「――――ダーリン!!」
赤い魔方陣から、半裸の男が出て来た!?
――腹に蹴りが入り、剣を手放してしまう……。
「が……ぁ……」
呼吸が……まだ契約モンスターを隠して……。
「あぁ~ん! やっぱりダーリンは最高~♡ 私達、二十一ステージからの長い付き合いだものねぇー!!」
その気持ち悪い媚び諂い方が、女じゃない言うんだ。
「ちょっとばかし綺麗だからって、調子に乗らないでよ、白人女――アンタだけは、絶対に許さないんだからねぇ~~ッ!!」
あのパワーで殴られたら、首がへし折れる程度じゃすまないだろうな。
「死になさぁぁ~いッ!!」
――オカマ女が拳を振り上げた瞬間……黒い光に頭が呑み込まれて……吹き飛んだ?
「……うそ。殺すつもりじゃなかったのに」
殺伐とした戦場に、似つかわしくない気の抜ける声。
「……ノゾミ?」
十二ステージで攻略から外れたはずのアイツが、どうしてここに……。




