669.情愛の魔女ツグミ
「ハイパワーフリング――“散弾化”!!」
投げつけた“自在玉”が分裂。硬い昆虫型モンスターの身体を穿ち抜いて、集団を殲滅し終える。
「ハァー……ようやく、爆発後に寄って来たモンスターを始末し終えたな」
「転送装置がどうのとか言ってたけど、どうなったんすかね?」
サンヤの疑問。
「どうやら、森にいた私達は対象外だったらしいな」
結局、イチカ達とは合流できずに一夜を明かしてしまった。
「それにしても、とんでもない爆発でしたの。学区から離れた場所で野宿して正解でしたね」
「まったくだ」
下手をすると、あの爆発に巻き込まれて死んでいた可能性まであっただろう。
「――来るぞ」
煙の上がる学区の方から、魔族が駆けてくる!
「あの爆発、コイツらの破壊工作が原因か?」
どっちにしろ、討伐数を稼ぐチャン――カバが横合いから飛び出してきて、魔族を食い殺した?
――“警鐘”のスキルに反応!!
「あら、他のプレーヤーが居たの」
どぎつい色のワンピースに、派手な金髪ロング靡かせる鞭使いの女。
「今まで、モンスターが魔族を襲う事はなかった」
あのカバモンスターは、あの女の命令で動いていたと思った方が良い。
「カニバリゼ・ヒッポポタマス。非常に強力、凶悪なモンスターですの。ただ、あのモンスターは指輪モンスターではないはずですの」
サカナからの情報と、目の前の光景。
私の知識から、この目の前の矛盾を取り払う方法は……。
「もしや、テイマーのサブ職業持ち?」
「ざーんねん、ちょっと惜しいわぁ~。サブ職業はとっくに分解済みで、これは私のスキルの“魔物契約”よぅ~ん♪」
なんだ、この不自然なキモい喋り方は!
「貴女、3位のパーティーのエリューナちゃんね。三人合わせても魔族討伐数は3。まあ、ちょっとした足しにはなるかしらぁ~」
「気持ちの悪い女だな」
「――グフ! フフフフハハハハハハハハハ!!」
突然の馬鹿笑いに、薄ら寒い物が込み上げる。
「そぉーお~? 私、そんなに女に見えるかしらぁ~♡」
クネクネして気持ち悪い!
「リューナ、コイツさっさと殺そう」
「こんなにも存在そのものが不愉快な女、なかなか見ないわね」
サカナですら、口調を取り繕えないくらい不気味だったらしい。
「他のモンスターを召喚される前に、一気に仕留め――」
枝の上の奴に対し、更に上から誰かが襲撃した!?
「幻影拳!!」
「――“絡め取り”」
鞭が一瞬で絡みつき、襲撃者を……オカマを縛り上げた。
「あら、コウジ。仲間を見捨てて逃げたと思ってたら、引き返して追ってきたの」
「そ、そっちの名前は呼ばないって約束……でしょうが、ヒトシッ!」
捕まったオカマ、現れる前からボロボロだったのか。
「コウジとヒトシって、《メモリアル》のパーティーと同じ名前じゃね?」
サンヤの言葉に急いで確認。
「……本当だ」
でも、この表示顔と名前からして、ヒトシはオカマのはず。
「アンタこそ、私の事はユーナって呼ぶ約束でしょう~」
「自分だけ……自分だけ、本物の女になれたくせに――アンタが男だって知ってるってだけで、なんで殺されなきゃならないのよぉぉぉ!!」
よく分からないけれど、色々見苦しいな。
「“吹雪魔法”――ブリザードトルネード!!」
コウジとかいうのは始末できたけれど、オカマ女には避けられた。
「ちょっと、私のパーティー討伐数が4も減っちゃったじゃない――返しなさいよ」
「知るか。これはこういうゲームだろう? ――キモいオカマ野郎」
逃げられないように挑発しておく。
「――――ぶっ殺してやる」
性転換の理由は判らないが、元男という事実は、奴にとって耐えがたい物らしい。
「サンヤ、ヒビキ、サカナ。コイツは、ここで絶対に仕留めるぞ!」
「「了解!」」
「私をサカナって呼ぶな!!」
こんな状況でも文句を言うのか、お前。どれだけ嫌なんだよ。
●●●
「ハーッ! ハーッ! ハーッ!」
「大丈夫ですか、お婆ちゃん?」
フェアリーっぽい特徴の銀髪お婆ちゃんに尋ねる。
「こ、これくらいで、俺様が弱音を吐くとおおお思ったらぁぁ、大間違いだからなぁぁ……!」
こんな皺くちゃで足腰プルプルさせているお婆ちゃん、放ってはおけない!
「お婆ちゃん、お名前は?」
「まま、まずは、じ自分からなな名乗るのがぁぁ、マナーぁぁ!!」
典型的な頑固お婆ちゃん。槍を杖代わりに無理して。
「私はツグミ。佐藤 亜望です! お婆ちゃん♪」
「俺様をババア呼ばわりするんじゃないよぉぉぉ!! ゼハー、ゼハー、ゼハー、ゼハー」
うん、あまりにも放っておけなさすぎる。
この人、結構質が高いし。
「じゃあ、お名前を教えて」
「……セリーヌ」
「クエストが終わるまで、セリーヌお婆ちゃんの事は私が守ってあげるからね!」
このクエストではSSランクが使えないのは痛いけれど。
「それで、私達はこれからどうすれば良いと思います?」
「どっこいしょ……ぁー、仲間との合流だな。とはいえぇ、どこに行けば良い物か……」
「じゃあ、捜しましょう!」
工房だった物の瓦礫に座り込んじゃったお婆ちゃんを背負う。
「お、下ろせー! こんな姿、万が一あの人に見られたらぁぁ!」
「暴れないで、セリーヌお婆ちゃん。ほら、ドードー」
「バカにしとるのか!」
「じゃあ、行くよー!」
「話を聞けぇぇい!」
取り敢えず、祭壇を目指してみようかな。一緒に来た皆も、あそこに集まって来るかもしれないし。
「――ツグミ、魔族がぁ!」
黒いローブを纏った、紫色の肌の女性が接近してくる。
――突然、魔族の女性が横に吹っ飛んでいった?
「これで29!! もうすぐ、ようやくこの俺にもSSランクが手に入る!!」
魔族の女性が、光になって消える。
「……ツグミぃ、俺様を下ろして逃げろぉぉ」
「嫌だよ。セリーヌお婆ちゃんを、置いてなんていけない」
セリーヌお婆ちゃんは私に、クエストの詳細について教えてくれた。あらかじめ聞いていたのとだいぶ状況は違っちゃってるけれど、貰った恩は返す主義だもの。
「セリーヌ? ……なるほどね」
男がチョイスプレートで何かを確認している? と思ってたら、なんらかの能力であっという間に近付いてきた。
あれ? あの人の武器、さっきは棒だと思ったのに槍だ。
「おい、そこの女。その背負ってるババアをこっちに渡しな。そうすりゃ、お前は助けてやるよ。なんならこの俺、ユウスケの新しいレギオンに加えてやっても良い!」
私の胸を見て発情しないで欲しい。
「嫌です。ご老人を見捨てるなんてできません」
「はぁ? お前、バカか? このダンジョン・ザ・チョイスに、NPC以外でババアなんて居るわけねぇだろ!」
セリーヌお婆ちゃんはNPCじゃないって判るはずなのに、何を言っているんだろう、この人?
「マジでふざけてんなら、ババアごとテメーも殺すぞ?」
「……無理だと思いますよ? 貴方、そんなに強そうに見えませんし」
この人は質が低い感じ。
「――あの仮面野郎といい、ミカゲといい、どいつもこいつも俺をバカにしてんじゃねぇぞ!!」
「私が尊敬している男子は、貴方みたいにバカにされたからって――幼稚じみた態度はとりませんでしたよ」
「あ? 知らねーよ、そんなもん!! ――“発射”!!」
槍の穂先が飛んできた!?
――左手のSFっぽいピンクの機械甲手、“紡ぎ噤む春の鳴”に九文字刻んで回避。
「おおお前、神代文字をぉぉ……」
お婆ちゃんが驚いている。
「あんまり喋ると、舌かんじゃうよ」
あの時は痛かった。
「……テメーもか――テメーも、ミカゲ達と同じでずるしてんのかよ!! ぶっ殺してやるッ!!」
なんで怒ってるんだろう、あの人?
「しっかり掴まっててね、セリーヌお婆ちゃん」
SSランク無しで戦うのは随分久しぶりだけれど、まあ、きっとなんとかなるよね♪




