668.不可思議な出会い
「“威風魔法”――プレステージダウンバースト!!」
「ギャぁああああああッッ!!!!」
赤髪のエルフに、トドメを刺すミキコ。
「大丈夫ですか?」
「え?」
なんだ、今までと態度が全然違う。
「仲間は居ますか? 良ければ、クエスト終了まで一緒に行動しません?」
あり得ない。ミキコが、俺に対してこんな――そうか、今は身体が女だから、俺がコセだって気付いていないのか!
「は、はい、是非!」
うわ、俺の身体、声まで可憐になってる!
ていうか、おっぱいデカ! トゥスカと同じくらいありそう! 足元が見えない!
「あ、あの……服、着てください」
顔を真っ赤にして目を背けるミキコ……同姓に対してでも初心なんだ。なんか意外。
「む、向こうで着替えてきますね」
転送直前の爆発の影響なのか、廃虚のようにボロボロになってしまった多様学区。
瓦礫の影に隠れ、チョイスプレートを開く。
「上位パーティーの顔の表示は変わっていない……これなら、ミキコにバレずに済むか」
なんで彼女がここに居るのか判らないうちは、俺の正体を明かすのは危険過ぎる。
「鎧も壊れたし、武器も普段と違う物を使うか……それにしても」
男の身体の時と全然違う感覚。胸の前にあんな重いのがいきなり付いたら、そりゃバランスとれずに転ぶわ。
「本当、この身体のせいで酷い目にあった」
……女性が性的に狙われるって、ああいう感じなのか。
理解していたつもりだったけれど、思っていた以上の恐怖を感じたな。
「ユリカが、俺に処女を貰って欲しいって言ってきた気持ち、ちょっとだけ解ったかもしれない……さて、さっさと装備を整えないと!」
……身体、クエスト終われば戻るよな?
◇◇◇
『……ク――ハハハハハハハハハ!! 視聴者を楽しませるために仕組んだアレに、奴が選ばれるとはな、なんたる不運!』
転送装置の副作用によるという設定を口実に、幼体化、老化、性転換させる。転移させられたうちの一割の人間に、これらの症状がランダムに出るように細工していた。
『ほう。魔族も、ちょうど80体目が倒されたか。ここからが、今回のイベントの本当のスタートだ!』
●●●
準備を終え、ミキコの元へ戻る。
「お、お待たせしました。えと……」
「私はミキコです」
あ、名前を変えないと!
「め、メイです……」
妹の名前を使っちまった!
「素敵な名前ですね。私も、もっと女の子らしい名前が良かったです」
名前にコンプレックスあったんだ。
「先程はありがとうございました。ミキコさんは、いつからこのステージに?」
「何故ですか?」
和やかな雰囲気でも、それなりに警戒しているか。
「このステージは三日に一度は依頼をこなさないと滞在ペナルティーが発生するため、顔を合わせる機会は多いんですよ」
「なるほど……実は、私のパーティーは今朝早く着いたばかりで、到着早々に転移させられてしまって。突発クエストの真っ最中なのは知っていたのですが」
いや、突発クエスト真っ最中なのを知っていたってどういう事だ?
色々突っ込みたい所だけれど、立ち入り過ぎると拗れかねない。
「メイさんは、レギオンに所属で?」
「ええ、まあ……」
「女性の割合は?」
さすが元。真っ先にそこを尋ねるのか。
「私以外は……みんな女ですね。NPCも含めて」
「……驚きました。私の前のレギオン以外で、女だけのレギオンが存在するなんて」
いや、女だけのレギオンではないんだけれど。
「なら、メイさんのレギオンメンバーを探すのが、一番安全そうですね♪」
全員女だと思い込んだ瞬間、一気に警戒心が下がったような……。
「ミキコさんの仲間は良いのですか?」
「ああ……まあ」
なんだ、この微妙な反応。
「訳あって一緒に行動するようになっただけで、仲はあまり……」
ミキコは、《ザ・フェミニスターズ》の面々とここまで来たわけじゃないのか。
「――メイさん」
「はい、近付いてますね」
地面を砕き抜いて出て来たのは、巨大なムカデ。
「雑魚が――」
十手に神代文字を三つ刻んで、巨大ムカデの攻撃を避けつつ一撃を入れた!?
まさか、ミキコが神代文字を刻めたなんて。
「大地の剣」
指輪でブラウンの大剣を生成、ムカデの身体を切り付ける!
ミキコとは何度か模擬戦をしているから、アイツの前で使っていない武器で立ち回らないと。
ていうか、久しぶりに着た“大地の精の鎧”、やっぱり少し動きづらいな!
今まで気付かなかったけれど、鎧って性別で形が変わるんだな。俺の“土帝の戦士下着”もそうだし。
「“嵐の穿孔”!!」
“ストームブリンガー”の切っ先から放った風のスパイク弾で、ムカデの巨体に穴を空ける!
「“三連空衝”」
空中を、三連続で高速移動した?
「“威風棒術”、プレステージブレイク!!」
「“大地剣術”、グランドスラッシュ!!」
頭と胴体に同時に武術が炸裂。ムカデが倒れる。
「この震動……」
さっきのムカデが、複数体出てこようとしているのか!
「古代竜亀! “自動二輪化”」
バイク化した竜亀に跨がる。
「ミキコさん、乗って!」
即座に背部に座ってくれるミキコ。
「出してください!」
バイクを走らせた数秒後、地面を突き破って現れる……三体のムカデ。
「これからどうします?」
「ここはおそらく中央の区画なので、ひとまず武芸区画に向かいましょう」
他の区画はあまり土地勘が無いし、他に案が浮かばない。
もう、SSランク入手にこだわっている場合じゃなくなった。
誰でも良い。一刻も早く突発クエストを終わらせてくれ!
●●●
「“黄昏魔法”――トワイライトレイ!!」
通路いっぱいの“ゾンビ”を倒す。
「いやー! 本当に誰か、アレをなんとかしてぇぇ!」
「……倒しましたよ、ゾンビ」
「へ?」
ようやく気付いて、私を下ろしてくれる。
「アンタ、小っこいのに随分冷静だね。でも、おかげで助かったよ」
取り敢えず、今は小っこい事は否定せずに置こう。
「私はトゥスカです」
「アタシはシューラ、ダークエルフだよ」
「……ダークエルフって、随分前に滅んだんじゃ?」
「小っこいのによく知ってんねぇ~。まあ、アタシは一人で隠れ住んでたから、他に生き残りが居るのかは知らんけど」
軽い人だな。
「アンタ、仲間はいんの?」
「はい、レギオンに所属しています」
「じゃあ、アタシが他の仲間と合流できるまで守ってやるよ」
姉御気取りというか、なんというか。
「判りました。一緒に行きましょう。ちなみに、シューラさんのお仲間は?」
「このステージに一緒に来たパーティーメンバーは、私も入れて六人。ちなみに、全員が女だ」
「レギオン所属じゃないんですか?」
「ああ……実は、私らのリーダーが、どうしても入りたいレギオンがあるとかで、そのレギオンに追い付くのが取り敢えずの目標だったんだよ」
「なんていうレギオンですか?」
「さあ。興味無いから聞いてないね。場合によっては、ここで別れるつもりだったし」
随分とドライというか、仲間意識が低そう。
「よし! まずは、この不気味な建物から出るぞ!」
「……もしかして、本当はゾンビが怖いだけなんじゃ」
「そ、そんなわけあるかい! ダークエルフであるこのアタシが、あ、あんなグジュグジュの臭々野郎如きにビビるわけないだろう!」
この人、嘘が下手だ。




