667.緊急避難用転送装置と異変
『“二重魔法”、“煉獄魔法”――インフェルノバレット!!』
大樹の枝より、魔族の女の攻撃!
「“鞭化”――“魔斬り”!!」
“背負いし十字架はこの手の中に”上部を金属の鋭い鞭と成し、紫炎の群れをことごとく霧散させる!
「“時空加速”」
「“邪獣化”」
フミノさんとレンさんが突っ込んで、二人の連続攻撃によってようやく、魔族の女を倒せた。
『ハァー、ようやく仕留められたぜ」
「駆け引きが凄かったわね。まるでプレーヤーと戦っているみたいだった」
こんなに手強いプレーヤー、私は戦った覚えないですけど。
「私達同様に戦術を組み立ててくる敵。身体能力はともかく、アルファ・ドラコニアンと戦っているような気分でした」
「あの蜥蜴はモンスターじゃないから、行動パターンとか無かったしね」
ウンザリしてそうなフミノさん。
「そういやお前ら、直接戦ってたんだよな。私は遠くから見てただけだけれど、アレがヤバいのは解るぜ」
「そういえば、レンちゃんは牢屋の中だったわね」
「せめて檻って言えよ! 私が犯罪者みたいだろ!」
「「そのなりで気にするの?」」
どっからどう見ても不良なのに。
「うっせーよ、お前ら!」
「それより、そろそろ野宿の準備を始めましょう」
既に、夕陽が森を赤く照らしていた。
●●●
「マスター、あと十五分で朝の六時だよ」
メルシュに起こして貰う。
「ファーぁ……こういうとき、二人の存在は本当にありがたいな。ありがとう」
夜通し、見張りをしてくれていたメルシュとナターシャに礼を言う。
一日目に依頼を受けた道場の二階たたみ部屋を、勝手に使わせて貰っていた俺達。
まさか、押し入れに布団が入っているとは思わなかった。
この前、“忍者屋敷”で布団で寝ていなかったら、なかなか寝付けなかったかもしれない。
「討伐数、昨夜に比べてあまり動いていないようです」
ナターシャがチョイスプレートを見せてくれる。
「討伐数、79。寝る前と3しか違わないか」
1位のパーティーは相変わらずなものの、数字は27と伸び悩んでいる。
2位は、昨夜まで3位だった《メモリアル》のリーダーパーティー。討伐数は24。3位は昨夜から俺のパーティーで、討伐数は12。
昨日は、3位の入れ替わりが激しかったな。
「ご主人様、どうぞ」
「ありがとう」
トゥスカが用意してくれた軽めの食事を、よく噛んで食べる。
メシュと過ごした時を思い出すな。
「みんな、あと十秒でクエスト開始から丸二日が経つよ」
メルシュの言葉に食事を終わらせ、装備を整える。
何か起きるとすれば、討伐数か時間の経過のどちらか。
ならばと、残り二十四時間となった時点で何か起きるのではないかと警戒していた。
――――突然の爆発音と巨大な揺れ!!!?
地震にしては不自然ないきなりの大きな揺れに、さっきの爆発音……何が起きた?
外を覗くと……昨日までとは景色が一変していた。
辺りの建物が広範囲に、倒壊、半壊しているのが目に入る。
爆発音も揺れもかなり長かった……たぶん、武芸区画以外にも被害が出ているはず。
「メルシュ、解るか?」
「……学区外周縁部がほぼ全て、爆発で崩れちゃったみたい」
とんでもない事が起きたのは分かる物の、これからいったい何が起きるのかはまったく想像ができない……なにが狙いだ?
『学区外周縁部が破壊された事により、学区へのモンスターの侵入が予想されます。よって、緊急避難用転送装置が作動。学区内の皆さんを強制転移させます』
学区中に響き渡っているであろう機械の声音!!
「メルシュ、これから何が起きる?」
「……ああ、これはちょっとマズいかも」
『緊急避難用転送装置に異常発生。正常な転移は不可能。繰り返す、正常な転移は不可能。転送装置の緊急停止失敗。強制転移開始、五秒前』
これって、全員がバラバラな場所に転移させられるってことか!?
『4、3、2』
「――全員、仲間と合流することを優先しろ!」
『1、0――転移が開始されます』
●●●
「……ここは……ご主人様は?」
薬品の匂いがする、眩しいくらいに白い建物の中。
それにしても、なんて巨大な建物の中。ちょっとした巨人用?
『転移による大量の電力消費に伴い、学区への電力供給を一時的に停止します』
いきなり灯りが消え、一気に暗くなる。
「……まずは、外に出て居場所を確認しますか」
微かに見える日の光に向かって歩くこと暫く――急速に、複数の気配が背後から近付いてくる!?
「ギャーーーッ!!」
ピンク髪の黒い肌のエルフ? が必死に走って逃げてくる!?
「誰か、私を助けてぇぇ!!」
「あれ?」
近付いてくればくるほど、もの凄い違和感。
「あのエルフ、妙に大きい?」
いや、エルフを追い掛けている“ゾンビ”も大きい!!
「な!?」
あのエルフ、私に気付いて睨みつけてきた!
「“瞬足”!!」
一息に接近され――抱え上げられたぁぁ!?
「しっかり掴まってなさい、獣人のお嬢ちゃん!」
「お嬢ちゃん……へ?」
そこで、ようやく転移後からの違和感の正体に気付く。
「私……小さくなってる」
●●●
……見える範囲には、誰も居ないか。
それにしても、なんか歩きづらい。やたら前に転びそうになる。
「トゥスカ……皆は」
あれ、今の声って……――気配がした方へ剣を構える。
「おお、すげー美人がいるじゃんかよ」
赤い髪のエルフ? エルフにしては、かなりがたいが良い。
「……美人?」
「いや、マジで俺のタイプかも……ユウスケも居ねーし、ちょっとくらい楽しんでも良いよなぁ! “影鰐・四重”!!」
これは、カナと同じスキル!? 影を攻撃されたら終わりだ!
「“瞬足”――」
こんな時に、バカみたいに転倒してしまう!!
「グッ!!」
身体に強い痺れ――影への攻撃を許してしまった!
「ハハ、随分ドジなんだなぁ。まあ、そういう所も可愛いぜぇ」
やめろ! 俺にそっちの気はねぇよ!!
「鎧が邪魔だな。おい、死にたくなきゃチョイスプレート開け」
コイツ、ふざけやがって!!
「反抗的な目だな。まあ良い――スティール!」
俺の鎧を奪う気か!
「スティール! チ、運の良い奴だぜ。
スティール!」
「が……ぐ」
クソ、痺れのせいで声すら出せない!
「スティール! スティール!! ……おいおい、どうなってんだよ。全然盗めねーじゃねぇか。仕方ねーな」
チョイスプレートを開いて、端に刃の付いたハンマーを装備した!?
「オラよ!!」
――振り下ろされた一撃で、俺の“偉大なる英雄の天竜王鎧”を砕かれたッッ!?
「おお!! 鎧の下に服を着ていないパターンだったか!」
鎧の破損が一定値を超えた事で……装備が強制排除されてしまう。
「クククク! 鎧の下に、そんなデケー、ボインを隠してたのかよ!」
コイツ、何を言って――俺の胸に、おっぱいがある? ……おっぱいが……ある?
「…………へ?」
「たっぷり可愛がってやるからな。クエストが終わったあと、俺を求めずにはいられないくらい気持ちよくして――ブゲッ!!」
変態エルフが、風を纏う蹴りで吹き飛ばされた!?
「まったく、これだから男は!」
「……なんで」
俺を助けてくれたのは、四十ステージで別れたはずの女……十手使いのミキコだった。




