666.参戦の龍意
正午時点での1位は、相変わらずユウスケという男のパーティー。討伐数は25。
2位も今朝と同じパーティーで、討伐数は14。
3位は入れ替わり、《メモリアル》のパーティーが入ってきた。
「《メモリアル》のレギオンリーダー、ヒトシか。討伐数は13」
ユイの情報では、初日は俺と同じ判断を下していたようだけれど、二日目は朝から動いたみたいだな。
「順位が入れ替わる直前、3位のパーティーが次々と殺されていました。おそらくは……」
ずっと確認していたらしいナターシャが教えてくれる。
「ヒトシのパーティーは、三位のパーティーを殺して討伐数を稼いだか」
ユイと違って、魔族も直接倒しているから表示されてるんだろうけれど。
昨夜ユイが遭遇したサイボーグみたいに、魔族を討伐したプレーヤーだけを狙っている輩も居るかもしれない。
「ご主人様、全員揃いました」
トゥスカ、メルシュ、ナターシャ、セリーヌに、イチカ、フミノ、レン、リューナ、サンヤ、サカナ、ヒビキ、クレーレ、ユイ、シレイア、討伐組の十四人が揃う。
「この十五人で魔族の討伐に行く。現在、討伐された魔族の数は68。俺率いるチームは多様学区の都市部を回り、リューナ率いるチームは森へ行って貰う」
俺の装備がパーティーの総数を増やす“カリスマリーダーの指輪”などで占められているため、森よりは安全だろう都市部が、俺のチームの担当という事になった。
「出発だ!」
「「「おう!!」」」
◇◇◇
『《龍意のケンシ》。まさか、目を離した深夜に、一人で学区に出ていたとは! ……まあ良い。一人だけでは、例の仕掛けを発動しても意味が無いからな』
今回の突発クエストの目玉である以上、初日に発動させるわけにもいかなかっただろう。
『それにしても奴等、いったいいつになったらクエストに参加するつもりだ?』
SSランクなんて餌まで用意してやったのに、このまま餌に食い付かなければ、わざわざクエストを仕組んだかいがないぞ!
『魔族の残りは、およそ三割……さすがにそろそろ出て来ても良いはずだ!』
こっちの目論見では、初日から率先して魔族狩りをし、疲労困憊の三日目に追い打ちを掛けてやる算段だったというのに!
『根性無しの黄禍人が!! ……ようやく出て来たか』
コセとかいう小僧は武芸区画……思いのほか人数が少ない。
『他の《龍意のケンシ》を探せ』
すぐにAIが、モニターを切り替える。
生態区画……で依頼を請けているだと?
『なるほど、森に出るためか』
依頼以外で森に出られるのは、武芸区画からだけだからな。
だからこそ、武芸区画側の森には魔族をほとんど配置しなかった。ユウスケは武芸区画周辺の森で数を稼ごうとしていたようだが。
『せいぜい頑張るが良い、ユウスケ、ヒトシ。お前達用に、わざわざ二種類のSSランクを用意してやったんだ』
万が一、コセ共の手に渡ったとき用の物も用意した。
『必要なくなった場合は、二つまでなら例の第三大規模突発クエストで再利用される手筈。アルバートの奴に貸しができると思えば、悪くない取引だ』
その前に、アルバートのお気に入りの戦力を削いでやるとしよう。
●●●
「“影魔法”、シャドーバインド!!」
「“爆雷槍術”――ファイアボルトストライク!!」
プレーヤーが二人、異世界人と獣人によるコンビネーションで魔族を仕留めた。
「おい」
「ああ」
俺達の姿を見て去って行く。
「先程の者達、現在2位のパーティーメンバーです」
ナターシャが教えてくれる。
「ランク外の俺達を、わざわざ敵に回す気はないって所か」
「他パーティーメンバーと別行動を取っているようですし、警戒して去っていった可能性が高いかと」
パーティーメンバーは八人。二日めでわざわざ危険な別行動を取っている辺り、SSランク狙いだろう。
だとしたら、奴等の目的は1位のユウスケパーティーだろうな。25と14じゃ、正攻法で巻き返せるとは思えない。にもかかわらず、まだ諦めてなさそうだったし。
「ご主人様。どうやら我々は、運が良いようです」
トゥスカに遅れて、二つの気配に気付く。
『“瘴気魔法”、ミアズマエクスパンシブ!!』
魔族の男が放ってきたのは、防御手段であるはずの黒雲。
「目眩ましのつもりか」
「サイクロン!!」
メルシュが“暴風魔法”を使用し、竜巻で瘴気の雲を霧散させてくれる。
「ハァー!!」
クレーレがもう一人の魔族と交戦。
「“抜刀術”――紫電一閃!!」
ユイのすれ違い様の居合いから、致命傷だけは避けた!?
『“暗黒投斧術”――ダークネストマホークッ!!』
「ハイパワースラッシュ!!」
頭を狙われたユイだけれど、シレイアが見事にカバー。
「“氷砕武術”――アイスクラッシュスラッシュ」
あの態勢からクレーレの攻撃を、腕を犠牲にガードした!?
「ハイパワーブーメラン!!」
トゥスカのガンブーメンから放たれた転剣に、ようやく魔族の首が刎ねられる。
「“聖騎士武術”――パラディンチャージ!!」
魔法使い風の魔族に盾で突撃し、地面を派手に転ばせるナターシャ。
「“蛮風脚”!!」
セリーヌの蹴りが炸裂するも、腕で致命傷を避ける。
『“暗黒弾”!』
「“二重幻影”」
魔神・幻影腕から得たスキルで二つの自分の幻影を生み出し、攻撃を避けるセリーヌ。
「“神秘武術”――ミスティックハンマー!!」
“倍打突きのザグナル”で、容赦なく顔面を陥没させて始末した……怖い。
あれが魔族の戦い方……普通に強いな。
「クレーレ、さっきの投げ斧、あげます」
「あ、この名前! 神代文字対応じゃん! あんがと、トゥスカ姉!」
魔族からの戦利品を、さっそく分配しているらしい。
「これで、俺達の討伐数は5……6になってる」
リューナ達も、既に魔族と交戦しているのか。
それにしても俺、出番無かったな。
●●●
「まさか、魔族がモンスターの大群をけしかけてくるとは」
赤紫色の煙を使って、モンスターを私達に誘導しているようだった。
「おかげで、森に入って早々にイチカ達とはぐれてしまった」
「どうする、リューナ?」
サンヤに尋ねられる。
「向こうはフミノとレンが付いているだろうし……ちょうど良い、私達は魔族かプレーヤーを狙うぞ」
「やっぱり、そう来ちゃうー♪」
「まあ、妥当ですの」
積極的にプレーヤーを狙うという話は出ていなかったが、今からSSランクを狙うならこれは必定。
散々、悪意を持って殺してきてるんだ。この役目は、私やサンヤに相応しい。
「ヒビキも構わないか?」
「そちらの覚悟は、とっくにできております」
さすが、元の世界に戻って死体の山を積み上げる気満々の女だ。心構えが違う。
「魔法使いが私しか居ないのは気になりますが……モンスターの気配ですの」
「せっかくだ、依頼の虫モンスターの捕獲もこなすぞ」
突発クエストと依頼の並行作業くらい、楽勝でこなせないとな!




