665.深夜偵察
「ハーレム王は人使いが荒い……」
前に私が情事を覗いていた罰として、真夜中に偵察に行くように命令するなんて。
「さて……」
同じレギオンなのか、複数パーティーでテントを囲んでいる集団が居る。宿泊施設と思われる窓からも明かり。
思っていたよりも、参加しているパーティーは多そう。
「半日頑張って一匹だけか」
男二人とすれ違うも、気付かれない。
さすがユニークスキルの“透明化”と“隠形”の合わせ技。情事に夢中だったとはいえ、コセさんが気付かなかっただけの事はある。
「つうか、結構強かったぞ、あの紫野郎」
紫野郎。話の流れから、魔族の事かな? 付いてってみよう。
「1位のパーティーは《悠々自適が良いじゃない》の元レギオンリーダーの所か」
「あれだろ。SSランク持ちの女パーティーに抜けられた後、レギオンが荒れて自然消滅したっていう」
「よせよせ。人が変わったように暴力的になったって話だぞ」
「実際見たことあるから知ってるよ。俺も、ユニークスキル持ちは敵に回したくねぇ」
へー、ユニークスキル持ってるんだ。
商業区画を離れて、一際灯りが見える工業区画へと足を運ぶ。
「もう、リーダーも参加すれば良かったのに~」
「一日目は動かなくて良いとか、いったいなにを考えてるのかしらね~」
野太いカマ喋り……。
「私達がSSランクを手に入れれば、最強に決まっているのに!」
「もう、あのクソ生意気な塩女と逝かれ仮面共に、デカい顔させずに済むわ!」
「彼女達、もう居ないけれどね。なんだっけ、なんとかケンシ? とかいうレギオンに入ったっぽいわよ」
ケンシ? てことは、アテルかキクルのレギオンにSSランク持ちが増えたってこと?
「ちょっと、アンタたち! さっきからうるさいわよ!!」
奥の建物から出て来た人、3位のパーティーリーダー。
「そういえば2位のパーティー、全然見掛けなかったわね」
「1位のユウスケちゃんのパーティーも、午後からは見なかったわ~。私、タイプなのに~」
「えー、趣味が悪いわよ~。私は、噂のコセキュンの方が、気になる~!」
まずい……ハーレム王のケツが狙われてる。
――遠くで爆発音、それも二カ所!
「“跳躍”」
高い場所に登って周囲を確認。
爆発は北と西の森で起きたみたい……西はまだ爆発が続いてる。
「もしかして、森にプレーヤーが居るの?」
じゃないと、爆発が起きた理由を説明できない。
「おい、誰だ! そこに居るのは!」
しまった! 気付かれ……あれ、周囲を見回してこっちは全然みてない。
「チクショー!! どこだー!!」
随分、野太い声で叫んでるな。さっきまでお姉言葉だったのに。
「――ぁああッ!!」
一人殺された?
「クソ、また!」
何かにどんどん殺されている。
チョイスプレートを確認。残っているのはもう、魔族を二人殺しているパーティーリーダーだけ。
「おのれ――“四重魔法”、“魔法円陣”!!」
自分の周囲、四方に魔法陣を向けた。
見えない敵を、周囲への攻撃であぶり出そうとしているんだ。
「“爆雷魔――」
『――遅い』
喉を、下方から一突きで……。
『やはり、モンスターより人間の方が殺しがいがある』
血が滲んだような黒いローブの隙間から、銀の装甲に包まれたサイボーグ? みたいなのが見えた。
姿も気配も消える。
「……久し振りに、武者震いした。あれ?」
パーティーが全滅したのに、3位に知らないパーティーが表示されてる。しかも、討伐数は3。
「討伐数があったオカマは全員、あのサイボーグに殺されたのに」
あれが魔族だった? でも、魔族の目撃者が、肌が紫だって言ってた。アイツが例外だった可能性もあるけれど……。
「取り敢えず、森の方に行ってみよう」
西の武芸区画へ。
爆発があった辺りを目指している最中、武芸区画の入り口付近から戦闘の気配。
「魔族だ、絶対に逃がすな!」
黒いローブの男が、プレーヤーと戦っている。
紫の肌……あれが本物の魔族。
なら、やっぱりさっきのはプレーヤー?
「奥には絶対に行かせるな!」
「俺達のワイフを守れ!」
ワイフ?
奴等が言う奥へ、気付かれないように近付く。
魔法の家が使えないからか、勝手に倉庫を使って寝泊まりしてるのか。
「魔族一匹に、なに手こずってやがる、アイツら」
コイツ、新しい3位のパーティーリーダー。
討伐数は……コイツ一人で3か。
「たく、これじゃ愉しんでられねぇだろうがよ!」
開いたドアから中の様子を覗う……魔族の女が倒れてい――……。
「……アイツで試すか」
アイツなら、心置きなく試せる。
「……へ?」
“透明化”状態で近付いて――“切毒の紫花により縁切られ”で、喉を下から突き刺して静かに葬った。
「わざわざこんなことするために、殺さずに
捕らえたの?」
答えを期待したわけでもなく、囚われていた魔族女の元へ。
身体を縛っていたロープを切り、すぐにその場を離れる。
「……目、合っちゃった」
作り物のはずなのに、情が湧いてしまう。
「やっぱり、愛のあるセックスの方が好きだ……好きだ」
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「つまり、魔族を殺した人間を殺しただけなら、チョイスプレートに表示されないと」
「うん、たぶん……」
朝方、戻ってきたユイから話を聞いていた。
「ズズズ、徹夜明けの甘酒……美味」
「お前、それで魔法の家に入れなくなってたらどうするつもりだったんだ?」
「たぶん大丈夫かなって。その時は、入り口で待ってれば良いだけだし」
「まあ、貴重な情報をありがとな」
深夜に動きがあるとは思ってたけれど、ユイの話を聞く限り、予想以上の事が起きていたらしい。
「魔族討伐数は54。1位のユウスケのパーティーが討伐数21。2位が新しいパーティーで討伐数13。3位も新しいパーティーで数は6」
「元2位だったパーティーは、森で魔族かプレーヤーにやられたんだと思う」
「森か……失念してたな」
勝手に区画内だけだと思い込んでいた。
「この分だと、今は森の方が魔族が多いかもな」
気になるのは、サイボーグ男くらいか。
「というわけだから、私も同行する」
偵察に行って貰うため、ユイは討伐組に組み込んでいなかったのに。
「仕方ない。ただし、一回寝ろ。討伐は午後からだ。シレイア、ユイを頼む」
「あいよ、旦那様」
さて、昼までに戦況はどう動くか。




