664.突発クエスト・魔族の陰謀を阻止せよ
『現在、多様学区には百人の魔族が破壊工作を目的に入り込んでいる。君達には、その百人の魔族の始末を依頼したい』
わざわざ依頼って言った?
『期限は七十二時間。その間、滞在ペナルティーは免除されるが、他の依頼を遂行するかは各々の自主性に任せよう』
妙に寛大な雰囲気を出してるな。
『魔族の首には100000Gの賞金が掛けられ、依頼達成と同時に支払われる。更に、もっとも多くの魔族を殺したパーティーにSSランクを進呈する』
「SSランクが手に入るクエスト……」
一筋縄じゃいかなそうだな。
『ただし、1位は1位でも、討伐数30以上という条件をクリアしたパーティーに限る。ちなみに、魔族を殺したプレーヤーを殺せば、その分の討伐数が加算されるからな』
つまり、魔族三人を殺したプレーヤーを殺せば、俺が三人魔族を殺した扱いになると……やっぱり、プレーヤー同士で争う要素を入れてきたか。
『一度魔族を殺したパーティーは魔法の家の領域に戻ることはできない。そして、依頼失敗の場合は――全てのSランクとSSランクアイテムの没収だ』
「おい!」
それは実質、強敵に勝てずに死ねと言っているのと同じだぞ!
『午前六時がクエストのタイムリミットだ。ああ、それと、魔族の残存数と討伐数上位の三パーティーはチョイスプレートで、いつでも誰でも確認できるようにしておく。クエスト中、SSランクの使用は不可。装備不能となる! 以上』
虚空からの声が聞こえなくなる。
「朝から厄介な事になったわね」
「どうしますか、ご主人様?」
両脇で寝てたユリカとトゥスカが上体を起こす。
「取り敢えず、全員を食堂に集合させよう」
★
「パーティーメンバーだけれど、魔族を倒さない限りはいつでも変更可能だよ」
メルシュからの情報。
「期限は三日。どう動きますか、コセ様?」
ノーザンに尋ねられる。
「取り敢えず、一日目は静観で良いかな」
「「「へ?」」」
おそらく、この場にいるほぼ全員がハモった。
「理由を伺っても?」
鹿獣人のエレジーからの問い。
「今回の突発クエスト、まず一番避けたいのがクエストの失敗。次が他者にSSランクが渡ることだ」
「ならば、積極的に魔族を始末しに動いた方が良いのでは?」
エレジーの物言い、まるで試しているみたいだな。
「魔族を一人でも手に掛ければ、安全圏である魔法の家の領域には戻ってこられなくなる。しかも、上位三パーティーの情報は筒抜けだ」
チョイスプレートを表示し、現在の上位パーティー三つ全員の顔と名前、各々の討伐数が個人ごとに表示されている。
「この一時間程で、既に六体が討伐済みですか」
一位が3、二位が2と、まだまだどう転ぶか解らない状況。
「ここに表示されているかどうかで、危険度は跳ね上がる。だから、俺は少なくとも、魔族が半分になるまでは動かなくて良いと思っている」
一日でどれくらい減るかは未知数だけれど。
「SSランクが景品になっている辺り、以前のようなアルファ・ドラコニアンの複数体投入も考えられますしね」
トゥスカのアシスト。
「さいあく、俺はSSランクを諦めても良いと思ってる。なにせ、一つのパーティーだけで全体の三割の討伐なんて、ほぼ不可能だろう」
このルールだと、手柄を他のパーティーに譲るのも不可能だし。少なくとも、まともな手段では。
「討伐の進捗次第だけれど、動くのは一パーティーのみ。俺がパーティー人数の上限を引き上げるアイテムをできるだけ装備する」
SSランクは運が良ければ手に入れるくらいの面持ちで良い。クエストが失敗したら元も子もないからな。
「じゃあ、討伐に参加するメンバーを決めた後は、一日自由で良い、マスター?」
「そうだな。ナターシャ、魔族が五十人以上倒されたら教えてくれ」
「畏まりました」
●●●
「コセの奴、本当に何もしないとはな」
吞気に皆で、夕食に舌鼓をうちやがって。
「なにイラついてんだよ、レン。お前は討伐組なんだから、しっかり食っとけよ」
黒豹獣人のザッカルに言われる。
「お前もよく落ち着いてるな。もう四十五人も魔族が倒されてるってのに」
「コセがまだ動かなくて良いって言ってんだ、問題ねーよ」
どんだけ信頼してんだよ、コイツ。
前のレギオンだったら、積極的に討伐に参加している所だぜ。
いや、むしろ逆かもな。
あのレギオン、ゲームをクリアするって目的はあったが、楽なルートばっか選んでたからな。
「つうか、暗くなってから数字がまったく動かなくなったな」
「……まあな」
今朝1位だったパーティーが、現在討伐数16で1位を死守。2位だったパーティーはランク外になり、3位だったパーティーが討伐数11で2位に繰り上がり。現在の3位は、討伐数たったの4。
その他のパーティー討伐数は合計で14だが、平均数はおそらく3以下。
表示されるのは上位三パーティーつってたから、同率3位のパーティーが居ても表示されるかは判らねぇ。
つまりこの時点で、討伐に参加しているパーティーは少なくとも七。多ければ十七は確定。
魔族の数が減った分、二日目に討伐される数は減る。
「コセみたいに、初日は動かないと決めた策士がどれだけ居るか判らねぇが……」
こういう、どう転ぶか判らない駆け引きはモヤモヤするぜ!
●●●
「……」
夜の八時。ベランダで一人、チョイスプレートを確認。
「夕食前から動き無し……か」
夜だからこそ、大きな動きがあるかもと思ってたけれど。
「まあ、本格的な動きがあるとすれば、深夜になってからか」
俺達を脅かす可能性のあるプレーヤーは、いったいどれだけ居るのか。
「SSランクの使用を禁じた所を見るに、やっぱりこのステージに居る物達で、SSランク所持者は俺達だけだろうな」
じゃなきゃSSランクの使用を禁止しないし、したとしても死んだ際のアイテム収奪に対策を講じないはずが無い。
「意外と気にしてんのな、お前」
背後のドアから現れたのは、レン。
「まあ、これでもレギオンリーダーだから」
彼女が隣までやって来る。
「SSランクは欲しくねぇのかよ?」
「欲しいと言えば欲しいけれど、この状況的に、あんまり俺達に有用なSSランクじゃなさそうなんだよな」
「あん?」
「おそらく、このステージに他のSSランク持ちは居ない。そんな状況なら、わざと俺達に合わないSSランクを選んで用意した可能性がある」
「だから、無理してまで手に入れる必要は無いってか? 色々考えてるんだね、お前」
レンが年上なのは頭では解ってるんだけれど、面と向かって下よばわりされると凄い違和感。
「……お前、今日は誰も抱かないらしいな」
「へ? まあ、状況が状況だし。いつでも動けるようにしておかないと」
だから今日は、もう寝るだけの予定だ。
「じゃあ……今夜は私に寄こせよ」
「は?」
思わず強い声音が。
「だから……私を抱けよ……」
急にしおらしく……。
「どうしたんだよ、急に」
「……聞いたんだよ。私は――ダンジョン・ザ・チョイスが消えたら、そのまま死ぬってよ」
……そうか、レンは隠れNPCだから……じゃあ、メルシュ達NPCは全員……。
「クリスは大丈夫らしいけど、私は死んでから隠れNPCになってるから……ダメなんだと」
「それで、なんで俺と?」
「……どうせ死ぬなら、そういうの経験したいと思うだろ。男はお前しかいねーし」
「俺は、レンを実質、二度殺した男だぞ?」
罪悪感とか、深く考えなきゃ特に感じないけれど。
「……それくらい強い奴の方が……好みだし♡」
初めて女の子っぽい所が見られた!
「……明日、朝早いんだけれど」
「それは私もだ」
「「…………」」
沈黙が痛い。
「……なんか悪かったな」
去ろうとしたレンを、後ろから抱え上げる。
「お、おい!?」
「責任、取れって言うんだろ?」
「……い、良いのか? 私、全然女らしくないし……前ほど美人じゃないし」
遠回しに、死ぬ前は美人だったって言ってやがる。
「大丈夫、ちゃんと可愛いから」
「そこは……綺麗とか言えよ♡」
「嘘は嫌いだ」
「……そっか」
予定より少し、寝むりにつくのが遅くなった。




