表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/956

68.魔神・火喰い鳥

 早朝、安全エリアからボス部屋前に移動した俺達。


「……なんですか?」


「「いえ、なんでもないです」」


 盾使いのメグミさんとショートボブの人が、俺から目を背ける。


「説明を始めるよ。ここのボス、魔神・火喰い鳥の弱点属性は水で、火属性攻撃を吸収して回復してしまう。これは二属性の爆裂や煉獄でも同じだから」


 トゥスカのメイン攻撃の一つと、俺の少ない魔法攻撃手段が封じられてしまうってわけだ。


「有効武器は槍で、危険攻撃は炎を纏った蹴り。槍で素早く脚を破壊すれば戦闘は非常に楽になるけれど、火喰い鳥は素早く、無闇に接近戦は仕掛けない方が良いよ。説明は以上かな」


「じゃあ、私達から行かせて貰うよ」

「気を付けてな」


 ジュリー達のパーティーにユイ達二人が加わった状態で、ボス部屋扉の向こうへ。


「ごめんな」


 メルシュに取って代わられたボス部屋前の赤い妖精に、なんとはなしに謝罪してしまう。


「サトミさん達は大丈夫ですか?」


 昨日、彼女達にも“反骨戦士のスキルカード”を渡している。


 装備方面もジュリーが融通してあげたようだし、問題無いと思うけれど。


「心配ありがとうね、コセさん♪」


 ――凄い自然に手を握ってきた!?


「サトミ様から離れろ!」

「おわっ!!?」


 リンピョンが当たり前のように、短剣で俺の腕を切りに来やがった!!


「お前、危ないだろう!」

「腕が切れたって、回復魔法で繋げれば良いだけでしょうが!」


 なにをふざけた事を!


「――リンピョンちゃん」


 サトミさんが一瞬で、リンピョンの首を締め上げた!?


「が……ああ……」

「リンピョンちゃん、ダメでしょう? 本気じゃないのは分かってるけれど、今の発言はいただけないわね♪」


 目が……全然笑っていない。


「ご、ごめ……ごめ……なひゃ……」

「ダーメ。お姉さん分かるのよ。貴方、後悔はしていてもまだ反省はしていないでしょう?」


 ますます力が込められていく!


「も、申し訳……ございま……せ……カハッ!」

「うん、合格♡」


 ようやく、リンピョンが解放される。


「ゲホッ、ゲホッ!」

「あそこまで追い詰めたのに反撃してこないなんて、リンピョンちゃんの私への忠誠心は本物ね♪」

「も、もちろんです、ゲホッ、ゲホッ!」


 主が死ねば奴隷も死ぬとはいえ、あの状況で黙って絞められるなんて……余程冷静に考えを巡らせていた……とは思えないな。リンピョンだし。


 さすが魔性の女……リンピョンの心を完全に掌握してしまっている。


「サトミは時折怖いだろうが、根は良い奴なんだ。嫌わないでやってくれ」


 メグミさんがフォローしてきた。


「……嫌わないけれど……怖いです」


 うん、怖い。


 サトミさんは強固な世界観を常に振り撒いているから、俺の世界を浸食してくるような恐ろしさがある。


 それが堪らなく怖いし……不快だ。


「ヒール」


 リンピョンの傍に行って、喉を治す。


「な、なんで……」

「……あんまり、自分を他人に委ねるなよ」

「か、関係ないでしょ!」

「君みたいな生き方、俺は嫌いだから」


 なにを言っているのだろう、俺は。


「……消えて」

「ああ」


 ちょうど、ボス部屋の扉の光が消える。

 前のパーティーの戦闘が終わった証拠だ。


「行くか」


 俺を先頭に、三人でボス部屋に入る。



●●●



 ちょっとやり過ぎたと思ったけれど、リンピョンちゃんが単純な子で助かったわ。


 ……つい、カッとなっちゃった。


「私は……」


 コセさんの言葉に、随分戸惑っているリンピョンちゃん。


 私も、さっきの私は私らしくなかった。


「コセさんこそ、本物の魔性なんじゃないかしら?」



●●●



『キルォォーーーーーーーッ!!』


 赤い光を振り撒きながら、魔神・火喰い鳥が動き出す。


 上半身が細く、下半身が大きい。

 特に脚は、恐竜の竜脚に鋭く大きい爪が一つだけ生えたような危険なデザイン。


 確か、飛行はしないんだよな。


「じゃあ、マスター。やっちゃってください」

「お気を付けて」

「うん」


 放たれる紅蓮の炎を掻い潜り、思いっきり跳躍してから“終末の一撃”を放つ!



『キルォォォォォォオオオオオオオッッッ!!!』



 余波で吹き飛ばされて着地する頃には、魔神・火喰い鳥は光となって消滅していた。


 ……良いのかな、こんな勝ち方で。



○ボス撃破特典。以下から一つをお選びください。


★火喰い鳥の竜甲脚 ★紅蓮魔法のスキルカード

★サブ職業:紅蓮拳使い ★紅蓮炎輪のスキルカード



 今回のボス撃破特典、あんまり俺のパーティーに必要なのは無いんだよな。


 ジュリー達三人は、“紅蓮魔法のスキルカード”以外を一つずつ選んでいるはず。


 俺は“紅蓮拳使い”のサブ職業を選び、トゥスカは“火喰い鳥の竜甲脚”、メルシュは“紅蓮炎輪のスキルカード”を選択した。



○これより、第五ステージの怪魚の港に転移します。




●●●



「私達を、正式に同行させてくれるんですか!?」


 大人しいというより人形のように静かなユイが、感情を強く表に出す。


「ありがとうございます、ジュリーさん!」

「ユイって、ハーレムメンバーに入りたいわけじゃないんだよね?」


 出来れば……これ以上増えて欲しくない。


 わ、私はなにを!!


「私は観察したいだけなので、安心してください!」

「あ、安心て……」

「それより、今夜は誰がコセさんの相手をするんですか?」

「へ?」


 相手って……なに?


「き、昨日はトゥスカさんでしたよね。今日はジュリーさんですか?」

「…………うん」


 うん、て言っちゃったーーー!!


「コセ達が来たみたいよ」


 ユリカが教えてくれると、いつもの祭壇の上に青白い光が集まり、コセ達三人が現れる。


「全員無事だな……どうした、ジュリー?」

「へ?」

「顔が真っ赤だぞ?」


 ほ、本当に熱い!


「な、なななな、なんでもない!」

「本当に?」


 また、感情をコントロール出来なくなってる!


「は、早く行くよ!」


 いたたまれなくなった私は、“飛行魔法”を使って一人、怪魚の港へと向かって飛び降りた。



●●●



 紅蓮の炎が飛んでくる!


「マジックガイド!」


 メグミさんが”大盾術”を使って、炎を引きつけた。


「”深淵魔法”、アビスカノン!」


 サトミ様の魔法が、魔神・火喰い鳥の左手に直撃。


「くらいなさい! “隕石魔法”、コメット! ………………なんで発動しないのよーーーッ!!」


 アヤさんが、また魔法を不発させていた。


「アヤちゃん、”隕石魔法”は空が無いと使えないって、メルシュちゃんから聞いたでしょ!」


「そうだったーー!!」


 相変わらずアホだ、この人。


 ……サトミ様に買われて、不可思議な雰囲気を纏うサトミ様に惹かれて……でも、あの男に私の在り方を否定されて……。


「リンピョンちゃん!」


 サトミ様がぶつかってきた後、私が立っていた場所が弾けた。


「サトミ……様」

「さっきはやり過ぎたわ。ここを乗り切ったら幾らでも私に文句を言っても良いから、一緒に戦って、リンピョンちゃん!」

 

 違うんです、サトミ様。


 確かに、あの時サトミ様を怒らせてしまったことに大きなショックを受けました。


 でも、それ以上にあの男の言った事が!



「……あんまり、自分を他人に委ねるな」


「君みたいな生き方、俺は嫌いだから」



 たった、たったあれだけの言葉で――私は!


「う……ぁぁぁああああああああああああああああああああッ!!!」


 私は、ボスに向かって駆けた!


 魔神・火喰い鳥が跳躍、紅蓮の炎を纏わせた右脚による蹴りを放って来る!


「リンピョンちゃん!?」



「しゃらくせーーーーーーッ!! “水属性付与”ッ!!」



 右手に浮いている“ソーサーシールド”に水属性を加え、”回転”効果を発動!


 ”ソーサーシールド”で、魔神の危険攻撃を正面から受ける!!



「オリャアアアアアアあああああああああああッッ!!!」



 畳み掛ける重圧と熱風に耐えて、耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて――耐え抜いた!!


『キルォォーーーーッ!!』


 右脚が”回転”で削り壊れた状態で、魔神が倒れ伏した!


「――ハイパワーブーメランッ!!」


 ”回転”で強化された”ソーサーシールド”を撃ち出す!!


『キルオォォォォォォォーー…………』


 私を目で追ってきた魔神の胸に“ソーサーシールド”が接触――魔神・火喰い鳥の胸から頭を……両断した。


「リンピョンちゃん……だ、大丈夫?」


 なんか、吐き出したらスッキリした。


「サトミ様、私……コセに惚れちゃいました!!」

「そうなの! やったわね♪」

「ハイ!」


 もう絶対、アイツに責任取ってもらうんだから!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ