657.オイルルートの依頼
「……意外とキツいわね、この依頼」
巨大クレーン近くのNPCから、イチカのパーティーと共同で依頼を受けてから五分が経過。未だ何も起きず。
「気を抜くな、ユリカ。依頼は一時間の間、モンスターから作業員達の防衛。油断してると失敗するかもしれないぞ」
レリーフェに釘を刺される。
「分かってるわよ。ただ、何もせずに待つのが思いのほか苦痛なのよね。こんなことなら、イチカ達と逆にすれば良かったかしら?」
「空から来ます!」
クレーンの上部に浮きながら見張っていた、ヨシノからの情報。
「上か」
怪鳥のようなモンスターが、嘴でクレーンに激突する気満々な姿勢で突っ込んでくる。
「私がやる。ユリカは周囲を警戒」
レリーフェが弓を構え、武術一発で仕留めたっぽい。
「こっちも来たわよ」
森から出て来たマントヒヒみたいなモンスターが、金属の橋を通って石油を汲み上げる施設へと近付いてくる。
「げ」
空から、今度は“セメタリーコンドル”の群れ。
「“四重詠唱”――“煉獄魔法”、インフェルノバレット!!」
とにかく数で対抗。
「ダークランス」
左手に持っていた“トリニティーダークロッド”を媒介に、“暗黒魔法”を発動。
形成された三つの暗黒の槍で、煉獄の散弾から生き残った個体を始末。
「ユリカ、アレを頼む!」
レリーフェの視線を追うと、パイプを伝って迫ってくる蔓の集合体。
「なにあれ?」
「バインプラント。変幻自在だから、燃やす以外で始末するのは難しい!」
なんかレリーフェ、焦ってない?
「“煉――」
「“赤炎線”」
赤い直線状の光がうねる蔦に直撃――あっという間に燃え広がって仕留めた!?
「なるほど、ヨシノのアレか」
「聞いてはいたが、ここまで届くのか」
“炎上衛星”。ルイーサ達が三の島で手に入れたっていう、見た目が完全に人工衛星のやつ。
なぜリゾートハウスに人工衛星モチーフのアイテムがあったのか不思議だけれど、ゲームにそこまで整合性求めてもアレか。
「向こうでも戦闘が始まったみたいね」
私達とは反対側、海からの敵に警戒しているタマ達は大丈夫かしら。
●●●
「“蒼穹魔法”――アジュアダウンバースト!!」
蒼い風圧を叩き付けて、“ジャンピングアリゲーター”数体と“バイトシャーク”を、纏めて海の藻屑に。
「“深淵溝の大蛇神”」
自分の影から黒い水蛇を覗かせ、鉄パイプにしがみ付く“マリンイグアナ”を一蹴するスライムのバルンバルンさん。
「“万雷乱電槍”」
イグアナ以上に鉄パイプにしがみついていた、大人くらいの大きさの“アメーバ・イソギンチャク”を貫いて感電蒸発させる。
「ソイツ、しつこいから助かったよ、タマちゃん♪」
「は、はい……」
バルンバルンさんに感謝されるも、“アメーバ・イソギンチャク”と今のバルンバルンさん、鉄パイプにしがみついているのもあって……そっくりにしか見えないんですけれど。
「大丈夫かな、私のマスター」
「私達は、あまりここを離れるわけにはいきませんから」
今は、沖合で戦うスゥーシャを見守るしかない。
●●●
「“聖水防壁”」
巨大ウナギから放たれた雷撃を、聖水で作った壁で防ぐ。
“エレクトリックメガイール”。私とタマ以外のメンバーで一斉攻撃して倒したっていう、かなりタフなモンスター。
「“幻影の銛群”!!」
六つの白い銛を飛ばし、突き刺させ――流し込んだ神代の力を炸裂させる!!
『グギャーーッ!!』
ダメ。巨体過ぎて、致命傷にはほど遠い。
――高速で噛み付いてきた!!
「“幻影”!!」
魔神・幻影腕の討伐報酬で得たスキルを使用し、自分の“幻影”を囮になんとか避ける!
「“激流砲”!!」
首辺りの肉をごっそり削り抜くも、狙った頭は無傷!
「“二重魔法”、“聖水魔法”――セイントバイパー!!」
白水の大蛇を食らい付かせる――けれど、有効打になっているようには見えない。
「私、水に強い敵に対しての有効打が少ない」
今更ながら、パーティーメンバーに依存する戦闘スタイルになっている事に気付く。
『グギャーッ!!』
放電でセイントバイパーが消失……余波で身体が痺れるッ。
「……ムカつく」
戦うのも戦わされるのも好きじゃないのに、色んな敵と戦うパターンを想定しないといけないとか――ムカつく!!
キジナ姉さんに振り回されていた頃を思い出す!!
「有効打が無いなら――――圧倒的な力で捻じ伏せる!!」
“天の激流の白河”に十二文字が刻まれ――“天上の白河を氾濫せしめん”へと進化!!
「“神代の銛”――ハイパワーハープン!!」
十二文字分の力を宿したまま投げ放った白いトライデントが、“エレクトリックメガイール”の頭を貫いて――爆ぜさせた。
「……うん、ちょっとスッキリした」
●●●
「パワースラッシュ!」
作業員を襲おうとしたゴブリンを、黒銀色の“マルチギミックのカンダ”で切り裂く。
「数が多いわね」
「私は前回は地上だったから、こんなに数が多いとは思わなかったな」
フミノさんとレンさんの会話。
私のパーティーの担当は海底洞窟。
海上から海底を貫いて開けられた巨大空間には石油を汲み上げる金属筒が遥か下まで続いており、私達の役目は、ここで働く作業員をモンスターから守ること。
「二パーティーで請けて正解でしたね」
「うわぁー!!」
作業員の男性の声がする方を見ると、崩れた壁からモグラのモンスターが出現していた。
他の場所からもモンスターが出現した様子。
「向こうは私が! “伸縮”!!」
逆手持ちで“マルチギミックのカンダ”の鋭利な柄頭を伸ばし、“フラワー・モル”の手の平を貫いて壁に張り付かせ、動きを封じると同時に剣の縮む作用を利用し――一気に駆け付ける!
同時に腰の皮鞘から抜いたナイフを投擲――眉間に突き刺さると同時に爆殺。
この護衛依頼で求められるのは、モンスターの出現場所に素早く駆け付けられる機動力と、敵を素早く始末する手際なのでしょう。
近場の壁が崩れ、今度は“ディープシーソルジャー”が三体。
「“帯電”」
カンダの効果で、刀身に電流を流す。
「“瞬足”!」
直接攻撃に強い“ディープシーソルジャー”の身体に、容易く斬り込めた。
私の戦術に幅をくれると言われたけれど、この剣は確かに便利。
「“水蒸気剣術”――イヴァポレイションブレイク!!」
爆発に吹き飛ばされ、一体は壁に激突して死亡。もう一体は下へと落下。
「下のチトセさん達に当たらなければ良いのですが……」
●●●
「最下層が一番強いモンスターが出るって話しでしたけれど……」
『シュシュシュ』
まさか、巨大な海草のモンスターが出て来るなんて。
「“ワケワカメ”。火耐性が高い植物系のモンスターです!」
ヘラーシャが色々教えてくれるけれど……ワケワカメってなに?
「まあ、良っか」
“薬液倉庫の指輪”から“揮発液”を取り出し、“倍増薬液ランチャー”に組み込んで三発発射。
「フレイムバレット」
大量に付着した黒い粘性の液体に“火魔法”をぶつけ、大炎上させる。
『シュシューッ!?』
燃え上がった事に驚き、暴れ出す“ワケワカメ”。
「凄い。どんどん燃え落ちてく」
「火による持続ダメージを増大、延長するのが“揮発液”の特徴です――あ」
最後の抵抗か、“ワケワカメ”がワカメ攻撃を仕掛けてきた瞬間、そのワカメに何かが落下してきて失敗……そのまま力尽きて燃え消えた。
「なんだったんだろう……今の」
○依頼達成、おめでとうございます。
○以下の依頼達成報酬を山分けでお受け取りください。
★3000000G
★揮発液×60
★油圧式ユニット×12
★許可証×12




