656.赤煉瓦の建造物
「テスラルートの町は、近未来って感じだな」
SFっぽいって言うか、銀の板がそこかしこに滑らかに使われていて、でもなぜか赤煉瓦の建物ばかりで、しかも六角形。
「こういう感じの建物、岩手で見たことあった気がする」
マリナの発言。
「私はネットで見たことあるな。北海道とか茨城。日本の至る所にあるらしいな、赤煉瓦造りの建物って」
今度はルイーサ。
「そうなの?」
「北海道のは有名だから知ってた。赤レンガ倉庫ってやつ」
アヤナとアオイの会話。
「というか、東京駅がまんまそれだからな」
観光名所とかにたまにあるイメージ。
「不思議だね。一カ所にたくさん建っているわけじゃなくて、どこかにポツンと建ってる。海外にもあったような……」
ジュリーも見掛けた事があるらしい。
「獣人の村には、必ずと言って良いほど一軒はありましたよ?」
トゥスカからの意外な情報。
「なんで一軒なんだ?」
「赤煉瓦造りの建物は発電所なのです」
「発電所?」
発電と赤煉瓦が、俺の中で結びつかない。
「詳しい事は分からないけれど、建物が六角柱なのにも意味があるそうですよ、コセさん♡」
フェアリーであるセリーヌにとっても、当たり前の存在らしい。
「俺が居た村のは壊れちまってたから、よくわかんねーな。壊れてから身体が弱る獣人が増えたとは聞いたが」
「病気になる獣人が増えたって事か?」
「病気? まあ、植物の毒とか怪我が原因で死ぬのは増えたんだっけか。病気云々はよく分からねー」
壊れる前は、毒や怪我で死んだりしなかったって事か? 毒や怪我の種類にもよるんだろうけれど。
「メルシュ、何か知ってます?」
「ううん、なにも」
なんか嘘っぽいな。自信満々に知らないってアピールしている感じが。
「ただ、このエリア周辺だと周波数系統の能力が強化されるみたいだね」
「周波数系統?」
確か、雷と古代の二属性だっけ。
うちのレギオンだと、プレベールメイドのレミーシャくらいしか使い手が居なかったような気が。
「そういえば、“地下鉄都市”の駅も赤煉瓦だったような……」
「ここ、寄っていこう」
メルシュに言われた店に入る。
○以下から購入できます。
★テスラコイルリング 30000000G
★雷極の指輪 18000000G
★雷帝の指輪 12000000G
★電磁加速の指輪 8000000G
「……高くない?」
一千万超えとか、魔法の家以外に無かった気がするんだけれど。
「全部強力だからね。雷極や雷帝の指輪は、属性変更機能でどの属性にもできるし」
「雷帝は、雷魔にランクアップジュエルを四つ使った上で“王族の妄執”まで必要になるからな」
必要になるランクアップジュエルの数を考えると、高いと判断すべきか微妙な所。
「“電磁速射の指輪”と“テスラコイルリング”はどういうアイテムなんだ?」
「“電磁速射”によって円状の雷を発生。その円を潜らせた雷属性の物が、超加速されるっていう危険な代物だよ」
メルシュが危険とまで言うとは。
「幾つ買うんだ?」
「使いたい人が居るか分からないけれど、サンプル用に取り敢えず一つ。ジュリーはどうする?」
「私は、全部一つずつ買うよ。そのためにお金を貯めてきたんだ!」
いつもより気合いの入っているジュリー。
「……それで、“テスラコイルリング”ってなんなんだ?」
「銀色の腕輪だね。単一の雷属性攻撃によって消費されたTP・MPを一瞬で全回復させるの」
「それ、雷属性限定の“マッスルハート”じゃん」
雷の単一属性使いにとってはSSランク並か、それ以上のアイテム。
「でも、ジュリーは二属性の天雷特化だよな?」
「雷を含む二属性の場合は、半分回復するんだよ。三属性の場合は回復しないけれどね」
半分でもぶっ壊れ性能過ぎる。
「道理で高いわけだ」
ジュリーのように、雷属性メインの人間は絶対に買っておいた方が良い奴だ。
「それじゃあ、無理してでも今、幾つか買っておくか?」
「その必要は無いよ。もっと上のステージにも買える場所はあるし、私くらい雷属性特化のビルドじゃないとあんまり意味ないし」
ジュリーに反対される。
「それに、この先のプレーヤーからドロップするかもしれないですしね!」
物騒な事を言い出したのは、コトリ。
「オリジナルプレーヤーなら、無理してでもここで購入している可能性は高いからね」
コトリの考えに説得力を持たせてしまうジュリーさん。
物騒だな、この面子。
●●●
「依頼をクリアしなきゃいけないの?」
ナオの言葉が食堂に響く。
「どっちのルートでも、依頼をこなすことでボス扉のある島に行くための“許可証”が出るんだ」
私の解説を、全員が食堂で聞いてくれる。
「依頼の内容はどちらも護衛。オイルルートの場合は、労働者をモンスターから守ること」
「テスラルートは違うの? ジュリーちゃん」
サトミからの質問。
「テスラルートの場合は、破壊工作の妨害。いわゆる拠点防衛だね。依頼はパーティー事にこなすけれど、二パーティーまでなら一緒に受けられる」
「報酬の金額は山分けだから、一パーティーでこなした方が儲かるのだけれど……もし失敗したら報酬と同じ額の賠償金を支払わされるから、絶対に二パーティーで受けた方が良いと思う」
オリジナル経験者のウララが補足。
「ヒビキさんやレンから、何かありますか?」
コセが尋ねる。
「いえ、問題無いかと」
「ていうか、私らは前回どっちもオイルルートだったから、テスラルートについては何も知らねぇぞ」
まあ、そこはメルシュからの情報がある。
「オリジナルとの差違はある、メルシュ?」
「ううん、大丈夫だと思うよ」
オリジナルプレーヤーだからといって、油断はできない。
むしろ、オリジナルの知識がある分、変更された部分に気付かずに命を落としかねない。
私とウララからの説明は、そのことを察して貰うための物でもある。
「午後は、さっそく依頼に参加してみるべきだと思う。そうすれば、明日にはボス戦を万全な状態でできるからね」
「そんなに急がなくても良いんじゃない? 今日くらいゆっくりしても」
エロカナからの指摘。
「このステージの滞在ペナルティーだけれど、依頼を受けない状態で日を跨ぐ度に、Lvが1下がるんだよ。島に転移した日はさすがに免除されるけれど」
「毎日Lvダウン……どおりでプレーヤーが居ないわけだ」
コセの独り言。
「す、すぐに行こう! 依頼を受けに!」
「ええ、行きましょう!!」
このレギオンで一番Lvが低いアオイとフミノが、過剰な反応を示した……。




