648.食人リゾート
フェルナンダ達三人が戻ってきた。
「どうだった?」
「メルシュから聞いていた通り、上は動物系のモンスターしか出なかったな。宝箱からも、ランクの低いアイテムばかりだったが、面白いのが一つ手に入ったぞ――“炎上衛星”」
フェルナンダが出現させたのは、小さな人工衛星?
「炎上って、どういう事だ?」
「TPを消費し、火属性の“赤炎線”を長距離まで発射、燃え上がらせる。ただし、“赤炎線”の攻撃力そのものは低い」
「長距離攻撃が出来ても、威力が無いのではあまり意味が無いのでは?」
ノーザンの鋭い指摘。
「コイツの真価は燃やす所だ。金属や鉱石には無意味でも、布や植物なら確実に発火させる。まあ、使いどころは限られるだろうが」
上手く使えるとしたら、ヨシノが居るユリカ達のパーティーだろうか。
「そろそろ出発しよう。フェルナンダ、案内を頼む」
「フ、任せるが良い!」
頼られてるからなのか、いつもよりテンションが高い。
エントランスから一階奥へと進む。
「暗いですね」
通路に高さが無いからか、二足歩行になるスゥーシャ。
「上と同じで、ここも荒らされとるね~――マスター!!」
死角から現れた生首がスゥーシャを狙い、スライムのバルンバルンが庇って肩を食い千切られた!!
「バルンバルン!?」
「これくらい大丈夫、私は水だからね」
すぐに回復するも、少し体積が減ったような気がする。
「“パラカン”、ゴーストだ」
「おい、他にもいんぞ」
いきなり出現し、一気に囲まれてしまう。
「相手しててもきりが無さそうだね」
狭い場所で、直接攻撃がいまいちなゴーストの集団相手は厄介。
「フェルナンダ!」
「“精霊魔法”――ウンディーネ! シルフ!」
二体の精霊を呼び出し、ゴーストの相手をさせるフェルナンダ。
「ルイーサ!」
「全員、先に進むのを優先するぞ!」
倒すのは精霊に任せ、最低限の迎撃をしつつ奥へと進む。
「ここ、食堂?」
「止まるな、アヤナ。用があるのはこの奥、厨房だ」
フェルナンダが促した広い厨房に辿り着くも、生首共の猛攻はやまない。
「待て、アオイ。用があるのはこっちだ。フラッシュ」
奥の金属扉、おそらく冷凍室の方に進もうとしたアオイを止め、暗い厨房奥の棚を光源頼りでいじり出すフェルナンダ。
「急ぎな、フェルナンダ。どんどん数が増えてやがる!」
厨房入り口を死守している一人、シレイアからの催促。
「あった」
フェルナンダがスイッチでも押したのか、壁の一角が沈んで階段が現れる。
「ルイーサ、私が殿やる。先行って」
アオイの言葉。
「なら、私も残るわ。ここまであんまし戦ってないし」
アヤナまで。
「なら私も」
「お前はタンク役。一番危険な先頭を進まないでどうする」
フェルナンダに諫められる。
「スゥーシャ、バルンバルン、二人のサポートを」
「はい、任せてください!」
「すぐ片付けちゃうからねー」
私とフェルナンダを先頭に階段を降りる。
「三階分くらい下りたか?」
十メートル程下に別の扉。
「この先は地獄絵図らしいぞ」
「へ?」
フェルナンダの言葉を疑問に思いつつ、重そうな扉を開ける……真っ暗でほとんど見えない。
「“閃光魔法”、フラッシュボール」
部屋の中央上部に光源を飛ばすフェルナンダ。
「……これは」
煉瓦で覆われた部屋床には――床を覆い尽くすほど大量の骨が敷き詰められている!?
「さっきの生首共は、この骨の成れの果てっていう設定がある」
作り物だと解っていても、この惨状は――
「ルイーサさん、奥から来るよ」
ユイの言葉に正気を整え、警戒しながら部屋中央へと進む。
『エーサー~――ッッ!!』
扉を勢いよく開けて現れたのは、老婆のような顔をした猿!?
私達を見て、ニヤつきながら舌舐めずりをした!!
「“エブゴゴ”。生き物ならなんでも食べるモンスターだ」
「つまり……」
このおびたただしい数の白骨体は、コイツの仕業か。
「“太刀風”」
ユイが仕掛けた!
「速い!」
ユイの初撃を躱しただけでなく、拾った骨で反撃している!
「――ハッ!!」
“太刀風”の風に神代の力を乗せ、暴風のように炸裂させて動きを止めた!
「“飛剣・靈光”!!」
私が隙を突いて左腕と胸を大きく切り裂き、怯ませる。
「――介錯」
首を刎ね、とどめを刺すユイ。
一時期悩んでいるように見えたが、吹っ切れたみたいだな。
「奥、かなりの数の気配」
「なら、一気に決める」
“ヴリルの祈りの聖剣”を“ヴリルの聖骸盾”に収め、腰の“大天使の黄金聖剣”に手を掛ける。
「“抜剣”」
“聖剣光輝”を纏わせた状態で――突きを放つ!!
「“情熱の黄金聖剣”!!」
扉奥の“エブゴゴ”多数を、まとめて金色の炎で焼き尽くす。
焼き尽くされた部屋の奥から更に通路を歩き続け、そこから今度は石階段を下りると……波の音が聞こえて来た。
「……外か」
階段先は崖っぷちになっており、すぐ下では激しく波が打ち付けている。
「随分暗いと思ったら」
階段上部の崖は、上に行くほどに出っ張っていた。
「フー、ようやくボス扉まで来られたか」
すぐにアヤナ達が追いついてくる。
「ボス扉?」
「あっちだ、ルイーサ」
フェルナンダの指先に、壁に埋まるようにボス部屋の扉が。
あの崖の出っ張りは、上からボス扉が見えないようにするためだったのだろうか?
○○○
“エコーモンキー”や“レッサートロル”、“バーバリアン”などを撃退し、ようやくお目当ての遺跡に辿り着いた。
自然に吞まれて半壊しているけれど、目的の入り口らしき部分だけでもかなり巨大。
「結構掛かりましたね。遺跡で休みますか、レリーフェさん?」
イチカのそれは、気遣いからくるものだろうか。
「そうしたいところだが、その前に、厄介な集団の相手をしなければならないからな」
メルシュから聞いてはいたが、私の耳で捉えられただけでも相当数だぞ。
「ここから先へは通さないよぉ~。フェフェフェフェフェ!!」
遺跡の入り口前に、突然老婆が現れた!
「アレが魔女、“ランダ”ですの」
あの老婆が四の島、最大の障害。
「総員、戦闘体勢!!」
「やれ、お前達!!」
遺跡の影から現れるは、これまでに何度か戦った覚えがある複数種類の魔女共。
「現れよ、ロックゴーレム!!」
地面から岩が生えてきて、人型の石像に転じたか。
「もうやって良いわよね、レリーフェ?」
リンピョンの獰猛な気配。
「まずはイチカ! デカいのを頼む!」
「了解です!!」
イチカが操る剣、“雄偉なる十字架はこの手の先に”の力――“随伴の十字架”が大量に放たれる!
「――なんじゃと!?」
十字架がどこかに直撃すると同時に爆発――全てのロックゴーレムを破壊し、余波だけでも相当数の魔女を葬った。
「今だ、リンピョン!!」
「纏めて凍れ!!」
ユニークスキル、“嘆きの牢獄”で――足下から一気に魔女共を凍結。動きを封じる。
「掃討戦に入る! 一匹たりとも逃がすな!!」
魔女を逃がさないように戦う。これは、メルシュから出された私への課題だ。
「貴様ら……――よくもッッ!!』
安っぽい憎悪を滾らせた老婆の声が、戦場に響き渡る。




