646.三の島と四の島
「ルイーサさん、モンスターの気配が周囲から複数」
かつてリゾート地だったかのような建物やプールが並ぶ、廃虚じみた三の島に上陸した途端にこれか。
私がパーティーリーダーのフェルナンダ、アヤナ、アオイ、スゥーシャ、バルンバルンのパーティー。ユイがパーティーリーダーのシレイア、ザッカル、カナ、タマ、セリーヌで逆円陣を組む。
「タマは人間の気配を探ってくれ。ザッカルは、精錬剣の維持に集中」
「分かりました」
「ま、しゃーねーか」
そうこうしているうちに、陸上動物系のモンスターに囲まれる。
「あれって犬? 猫?」
アオイの質問。
「“ジャコウハクビシン”。ドロップ品が高く売れるが、飲んでも良い」
フェルナンダが答えるが……飲んでも良い? 食うじゃなく?
「なにがドロップするわけ?」
「レアドロップの“麝香糞”」
「へ? 今、糞って言った?」
「ああ、ウンコの事だ。中にコーヒー豆があって、それが高く売れる理由だ。肥料としても上質らしい」
もしかしてあのモンスター、ジャコウネコが元ネタなのか?
「おい、戦わないのか? 時間が掛かる程コセさん♡ の負担が増すんだぞ」
コセ関連だけ猫撫で声になるセリーヌ……慣れそうにない。
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「凄い植物だらけ。まるでジャングルですね、レリーフェさん」
エレジーが声を掛けてきた。
私がパーティーリーダーのリンピョン、チトセ、エルザ、イチカ、サカナ。クマムがパーティーリーダーのナノカ、ナオ、ウララ、バルバザード、エレジー、リエリアで道なきジャングルを進んでいく。
リエリアは今クマムに奴隷所有権が移っているが、ホーン・マーメイドという種族のせいか一人で二種族扱いらしい。
「サカナ、こっちで合ってるか?」
「サカナ呼びすな! ……どこかに化け物の像があるはずだから、ソイツの顔の向きを辿れば良いんですの」
イチカに契約者が変わっても、相変わらずか。
「像の位置も向きも、毎日ランダムに変わるんだったな」
そんな不思議な森が、エルフの森以外にもあろうとは。
「早く見付けて、サトミ様と合流せねば! なんで私がサトミ様から引き離されなければならないのか!」
パーティーを別々にされたリンピョンが張り切っている。
「そもそも、何故レリーフェさんがパーティーリーダーなんでしょう? これまでのパーティーとだいぶ面子を変えられましたけれど?」
「これを機に、メルシュは色々試したいらしい。いつもと違うメンバーで組ませ、普段と違う経験を積ませる狙いがあるようだ」
まあ、私の場合は、騎士団の団長という経験があるから試しにって感じだろうが。
「そう言えば、今回は使用人NPC抜きなんですね」
「アイツらは、私ら隠れNPCと違って攻略不参加でも置いてけぼりにならないから、人数調整にちょうど良いんだ余。まあ、今回はパーティー数を減らすために積極的に外したっぽいけれど余!」
ナノカがクマムに答える。
「……エルフってさ、他の種族に比べると弱いわよね?」
「――なにが言いたい、リンピョン」
種を侮蔑する言葉に、思わず声が低くなってしまう。
「……身体能力では獣人が上。パワーとタフネスならドワーフ、ホーンには“魔力増幅器官”ていう固有スキルがあるし、フェアリーや人魚は獣人みたいにカムイを降ろせるし……なのに、なんでやたら獣人がエルフに蔑まれなきゃいけないのか、意味分かんない」
「……もしかして、同胞と何かあったのか?」
リンピョンの目を真剣に見詰める。
「私のいた村にはエルフがたまに来て、高圧的な態度で物を譲るように迫られてたの! でも、村の大人は腰抜けばっかりだったから逆らわなくて……」
殺気まで滲み出す兎獣人。
「……同胞の傲慢を謝罪する。リンピョン」
獣人に対する横暴な態度は、団長時代に何度か耳にしていた。
「……私もごめん。レリーフェはアイツらとは違うって解ってたのに……」
「今は進もうか」
先頭をエルザに任せ、ジャングルを進みながらリンピョンの横に移動する。
「……何よ」
「エルフはな、リンピョンの言うとおり、他種族と比べると非力だ」
エルフは部族によって属性との相性が違い、私が属するフォルカスカナは風との親和性が高いという才はあるが。
「遥か昔、エルフにはハイエルフへと進化する術があったという」
「……それがどうかしたの?」
「ハイエルフは、大自然の力をその身に宿す事が可能だった。即ち、カムイの力をな」
「だからなんなのよ?」
「エルフの獣人を蔑む風潮は、元を辿れば嫉妬や劣等感なんだろう。獣人はフェアリーや人魚よりも様々なカムイを宿せるからな」
そんな先祖の思想が歪んで、今のエルフ族による理由無き獣人蔑視へと繋がっている。
「本当に、嘆かわしい事だ」
私の同胞への色眼鏡は、考えれば考えるほど酷かったんだなと実感させられる。ルフィルだって……。
「アンタって、エルフっぽくないわよね」
「私のように誇り高い者も大勢いたさ。まあ、そのうち何人が本物で、何人が張りぼてだったのかは判らないが」
「レリーフェ……」
「あったぞ、石像」
エルザからの報告。
「顔の向きは……北東か。よし、行くぞ」
島に安全エリアは無いらしいし、このまま一気にボス扉まで行くべきだろう。
「出ましたですの」
ジャングルに、無数の鳴き声が響き渡る。
「猿モンスターか」
やけに腕が長いタイプ。
「エコーモンキーだ余!」
「数は多くないみたいね」
リンピョンの言葉を訝しむ。
「さっきの鳴き声からして、相当な数が居そうだったが?」
「私の“略取者の狩猟の英知”には色んな機能があって、モンスターの熱源が表示されるらしいのよ」
リンピョンの左腕の機械に表示された、赤い点を見せられる。
「確かに少ないな」
百くらい居るかと思われる程の鳴き声だったが、表示されている赤い点は八つのみ。
「とっとと片付けましょう」
「イチカは無理は禁物だぞ」
その手には、コセとの精錬剣があるのだから。
「総員、敵の数は少ない! 落ち着いて迎撃せよ!」




