645.火山諸島
「島なのか。なんとなく、建物とか植物が東南アジアっぽい?」
「インドネシアがモチーフのステージ、という噂があったな。辛いのが多いうえ、レシピにナシゴレンとかあったし」
ジュリーが教えてくれる。
「遠くに見える煙は、活火山か何か?」
「うん。ランダムに噴火して、町まで流れてくる事もあるよ。宿屋にまで被害は出ないけれど」
メルシュがにこやかに教えてくれるけれど……おっかな。
「お、武器屋だな」
○以下から自由に購入できます。
★悪運のクリス 80000G
★銀細工のクリス 60000G
★伸縮の蛇行剣 50000G
「これは?」
「全て短剣です、大旦那様」
ドワーフメイドのエリーシャが解説を始める。
「“伸縮の蛇行剣”は、大蛇系統のうねる刀身を持つ“伸縮”する剣。“銀細工のクリス”は“浄化”付きの非対称の剣。“悪運のクリス”は、自分に対する“即死”などの効果発動率を二分の一にする“悪運”の効果があります」
「なるほど」
「ちなみに、クリスの方は宝飾剣なので、その他欄にも装備可能です」
テイマーのサキの補足。
「“悪運のクリス”は装備して損は無いから、五十購入するね」
なにサラッととんでもない事を。
「メルシュさん、そんなに居る?」
「装備に空きがあるなら、間違いなく優先すべきってくらい必須のアイテムだけれど?」
「“猛毒”などの状態異常になる確率も減らせますからね」
まあ、メルシュとサキが乗り気なのを見るに、間違っているとは思えないけれど。
「メルシュ、パーティー人数分、貰っても良いか?」
ジュリーが有用性を認めている。
「うん。マスターにも上げるね」
「ああ、うん。ありがとう」
★
「四十四ステージの火山諸島は、その名の通り複数の島からなるステージ。祭壇があった島が一の島で、四の島まであるの」
昼食がてら、四十四ステージの攻略の話がメルシュから語られる。
「各島にボス扉があって、私達は好きな島からボス戦に挑める仕様だよ」
「でも、全ての島を回った方が色々手には入って得なんでしょ? ボス扉を複数用意する理由ってあるの?」
ナオからのまあまあ鋭い質問。
「島には船着き場で船に乗って行くんだけれど、島に入るにはそれぞれ条件があるんだよね」
「二の島はパーティー内の種族が三種類。三の島は四種類。四の島は五種類。六種類以上の場合は好きな島を選べます。ちなみに、他の島へ一度移動すれば、一の島以外に戻って来る事は出来ません」
俺の専属侍女、ナターシャの補足が入る。
「二種族以下だと一の島からって事か」
理解した事を示すルイーサ。
「種族数でどの島に行くか、半ば強制で決まるんですね。私達のパーティーだと四種族ですか?」
トゥスカからの質問。
「ううん、惜しいね。隠れNPCの種族は唯一無二だから、隠れNPCが二人居れば二種族扱い。ちなみに、獣人はひっくるめて一種族扱いだから」
「フェアリーの俺、獣人のトゥスカ、ワイズマンのメルシュ、只人のコセさん♡ とナターシャだろう? 四種類で間違いないだろ」
相変わらずの口の悪さなのに、俺の名前を呼ぶときだけ猫撫で声……ああ言うのを本当にあざといって言うんじゃないだろうか?
「残念。確かにナターシャは只人だけれど、マスターは異世界人ていう別種族扱いだから」
「あ、そう言えば!」
すっかり忘れてた。
「パーティーメンバーはまだ変えることが出来るから、ある程度調整は可能。出来る限り二から四の島の三つに、均等に戦力を割り振ろうと思ってるよ」
どこにルーカスやイズミのような、SSランク持ちの危険人物が居るか判らないからな。
メルシュとジュリーが中心となり、パーティーリーダーの意見を元に采配が進む。
「こんな感じにまとまったけれど、これで決定で構わないか、コセ?」
ジュリーに尋ねられる。
俺の剣以外のSSランク持ちであるメグミとリエリアは一緒で、タマは俺とは別に配置されている。
タマのランスと違って、利便性に欠けるSSランクであるメグミとリエリアが一緒なのは妥当。SSランクの剣を一時的に量産出来る俺と別々にするのは当然と言えば当然だけれど……。
「…………」
「コセ?」
「俺からの提案なんだけれど……」
●●●
四十四ステージに辿り着いた翌日の早朝、私達は大きめの木製ボートに乗って、至る所から炎が見える島に着いた。
「ここが二の島か……篝火多くない?」
ユリカの突っ込み。
海から見えていたのは、大小様々な松明やキャンプファイヤーで見るような大きな燃える木組み等々、こんな明るい時間には絶対に必要の無い物。
「ここは火に関する要素が多いから、ユリカやヒビキ向けのスキルが手に入るかもね」
私をパーティーリーダーとするサキ、コトリ、エトラ、マリナ。ユリカをパーティーリーダーとするヨシノ、メグミ、サトミ、クリス、フミノで島外周部にある土の道を進み、暗い木々の奥へと進んでいく。
「あんた達、来たよ!」
シレイアの声が響いて間もなく、私達を囲うように――口から血を滴らせた不気味な生首が姿を現す。
「“パラカン”。ゴースト系のモンスターだから、スキルか武具効果で攻撃するように! マリナは力を温存!」
「ま、仕方ないか」
肩の力を抜いたマリナの手に握られているのは、SSランクの青い霊剣、“雄偉なる硝子鏡は世界を映し出す”。
コセの案で私達に託された、守護の剣だ。
●●●
「大丈夫、コセ?」
モモカが心配してくれる。
「ああ。いっぱい頑張って訓練したから、これくらいへっちゃらだ」
昨日、俺から提案したのは、俺以外のSSランク持ちを均等に割り振った上で、各チームの誰か一人に、SSランクの剣を託すこと。
別ステージに転移しても共鳴精錬剣を維持可能なのは、昨日の時点でジュリーと確認済み。
つまり、誰が先に四十五ステージに転移しても、ルーカスのような奴等の奇襲に対抗可能。
とはいえ遠方に、しかも全然違う方向にある精錬剣を複数維持しながらの戦闘は厳しい。
だから俺は、戦闘する必要がほとんど無い一の島の森の奥、ボス扉前にとどまりながら、神代文字を六文字刻んだ状態で剣の維持に努めている。
島の位置的にも、一の島の周りを囲うように二、三と配置されているため、ここに留まるのが一番維持しやすい。
この距離で維持が可能かどうかは、メルシュが把握した地形情報を元に、昨日の午後の内に魔法の家の領域で検証済み。
俺の案は充分に可能であり有効だと認められたため、採用される事となった。
後は、ルーカスのような危険人物がこの一の島に居ないのを祈りつつ、皆がボス戦を終えるのを待つだけだ。




