644.魔神・幻影腕
「よし、三つ同時の共鳴精錬も上手くいった!」
神代文字を刻んだ状態でやると、こうもすんなりいくとは。
「コセ、攻略の再開はいつ頃にする?」
共鳴精錬していたジュリーに尋ねられる。
「できれば、他にも色々試したいからな。精錬できるようになった剣の性能も一通り確認したいし」
「実は私も、このSSランクの剣を使いこなせるようになりたいんだ」
明星の剣を見ながら、そう言うジュリー。
「だったら、もっと上のステージで集中したらどうだよ?」
見学していたレンから提案される。
「四十七ステージの“多様学区”は広大で、色々やることがあるから滞在日数も長くなるだろう。あそこは色々あっから、それなりにおもしれーし」
レンは四十三ステージが退屈らしい。
「滞在ペナルティーを考えると、確かにそろそろ先に進んだ方が良いかも」
メルシュがやって来た。
「そう言えば聞いてなかったな、ここの滞在ペナルティー」
「五日がたったのち、供物を求めるチョイスプレートが表示されるようになるの。納める供物の価値、アイテムのランクによってポイントが設定されてるんだけれど、Fが1で、ランクが上がる度に1ポイント増えていく」
「一日3ポイントを納めなきゃいけない決まりで、事前にBランクの武具を二つ納めれば10ポイントが入るから、供物を捧げなくても三日は問題なくなるって仕組み」
スライムのバルンバルンがメルシュの補足をする。
「もし納めなかったら?」
「一番ランクが高いアイテムが、強制的にランダム徴収されるよ」
「《カトリック》のプレーヤーにSランク武具持ちがあんまり居なかったのは、そのせいだったのか?」
ジュリーは、Aランク以上のアイテムはほぼ記憶しているらしいからな。
「あれ、明日で五日経っちゃうけれど?」
「丸五日経ったあと、供物を捧げるのに丸一日猶予があるから」
実質、猶予は六日か。
「なら余裕を持って、明日にはボス戦をした方が良さそうだな」
「じゃあ、明日の朝にボス戦でオッケー? マスター」
「ああ、皆に伝えてくれ」
ルーカスと戦ってからまだ数日……また待ち伏せされる可能性もある。
しかも、今度は問答無用で攻撃してきてもおかしくない。
「コセ、明日は私のパーティーがボス戦、最初で良いか?」
ジュリーからの提案。
「いや、ジュリーのパーティーにはモモカが!」
「だからこそだ。セリーヌの話しでは、ルーカスは仲間内でも、自分がペドフィリアであることを一部にしか明かしていない」
思想がバラバラな連中がレギオンに所属していたみたいだし、纏めるのに面子を気にする必要はあるか。
「モモカが居ることで、容赦の無い奇襲を避けると?」
「うん。それと、もう一つ試したい事もあって――」
ジュリーの試したい事は、確かに俺としても検証してみたい内容だけれど。
「けれど、さすがにモモカを最初には……」
「――大丈夫!!」
ここ数日、ろくに言葉を交わしていなかったモモカが仁王立ちをしていた。
「大丈夫って……」
「ごめん、コセ! ……私、もう恐がらないから」
モモカの強い眼差し。
「…………判ったよ。ただし、俺から一つ条件がある」
●●●
「四十三ステージのボスは、魔神・幻影腕。弱点は古代属性、有効武器は槍。危険攻撃は、幻影を生み出して仕掛けてくる幻影拳。ステージギミックは魔神の幻影を生み出すシステムそのもので、追い詰めるほど幻影の数が増えてしまうから気を付けて」
メルシュの講義が終わる。
「よし、行くぞ!」
私、サキ、エリーシャ、クレーレ、モモカ、バニラ、タマの七人で、最初にボス戦に挑む。
コセから出された条件は、SSランク持ちをパーティーに入れること。
タマが選ばれたのは、SSランク持ちの中で私が一番勝手知ったるのが彼女だったから。
「全員、私の近くで姿勢を低くしていて」
部屋の奥で赤灰色のラインが走り、魔神・幻影腕が動き出す。
和甲冑っぽいデザインの、魔神・四本腕によく似た、浮遊する足なしの二本腕。
「速攻で終わらせる!!」
“雄偉なる明星は救済を願いて”を掲げ、“随伴の天雷”を魔神に浴びせ続ける!
「マスター!」
部屋を覆い尽くす勢いで、魔神・幻影腕の“幻影”が増加していく。
しかも、魔法陣を展開する個体や幻影拳のモーションに入った奴等も居る!
「まとめて蹴散らす! 全員、私の近くで頭を伏せて!」
昨日、必死に編み出した必殺技を見よ!!
「――[万雷花]!!」
三文字刻んだ状態で頭上に翳した大剣から、全方位に天の轟雷をばら撒く!!
雷の放出の仕方を工夫し、幻影腕に有効な攻撃法として編み出した私の必殺技!
全ての幻影諸共に本体を砕き壊し、ボス戦を終わらせた。
○おめでとうございます。魔神・幻影腕の討伐に成功しました。
○ボス撃破特典。以下から一つをお選びください。
★幻影腕の手甲 ★幻影肩腕のスキルカード
★幻影のスキルカード ★サブ職業:幻影拳使い
「欲しいのが無ければ、“幻影のスキルカード”を選べば良いんだよね、ジュリー姉? ……ジュリー姉?」
「クレーレ、万雷花って名前、どう思う? 全然良い名前が思い浮かばなくて、コセが付けてくれた仮名なんだけれど」
端から見ると、降り注ぐ雷が彼岸花のように見えるとかで、彼岸花の別名が雷花だからって、私が決める前にあんな安易な名前を付けられてしまった。
「やっぱり、サンダービガーンとかの方が良くない?」
「……私、ジュリー姉には自分の子供の名前決めさせない。絶対」
「なんでそこで子供の名前?」
○これより、第四十四ステージの“火山諸島”に転移します。
★
祭壇上への転移が終わると同時に、広範囲に雷を展開。“磁力”で金属を反発させやすい環境を整える。
「……来ないな」
「バニラが、アイツらの匂いしないって」
モモカからの情報を加味するに、待ち伏せは無さそうだ。
「そうか」
慌てたように四十四ステージに進んだことといい、私達が奴等に与えた損害とクエスト終了時のコセの脅しは、無駄じゃなかったのかもしれない。
「安心と言えば安心だけれど、できればここでさっさとケリを着けたかったな」
でなければ、いつまでも奴等を警戒し続けなければならない。
いや、明確な敵が居るって思っている方が、皆も気を引き締めやすいか。
「全員が合流するまで警戒を続ける。頼むよ、タマ、モモカとバニラも」
「はい、ジュリー様」
「うん!」
「ガウ!」
その後、何事もなく全員が合流した。




