642.猛りと卒業
アンラ・マンユに、クマムちゃんが大ダメージを入れた。
「クマムちゃん……」
文字の共振が始まってから、クマムちゃんの複雑な気持ちが流れ込んで来てる。
自分を慕ってくれる私への感謝と、私のクマムちゃんに対する憧憬が見当外れである事に対する嫌気と申し訳無さも。
私はいつだってそうだ。相手の気持ちを汲むことより、自分の気持ちを押しつけることを優先してしまう。
コセが私を追い掛けて、受け入れてくれた時だって……。
「でも――私の羨望と憧れを、否定する気は無いよ、クマムちゃん」
クマムちゃんが行方不明なるまでの数年間、貴女が私の心の支えの一つになっていたのは確かだから。
なにより、こうして繋がってみて解った。やっぱりクマムちゃんは、私なんかより……ずっと純粋で、綺麗な心の持ち主だって。
私みたいに、もし芸能人になったら、有名になってもの凄く目立ちたいなんて願望も無い。
ただ、誰かに笑顔になって欲しいって、心の底から願えるような人だから――私はクマムちゃんに、今でも憧れていられるんだ。
でも、もう私は、クマムちゃんの後を追ったりしない。
自分の道を進む勇気を持った男の背を知っているから――私も、私の道を――――私なりの道を歩む!!
たとえ、その先になにが待っていようと。
「――来い!!」
掲げた赤と青の左腕、“氷炎の競演に魅せられよ”が――――私の覚悟を具現化したような猛々しい姿――“氷炎競いて猛り散る”へと進化する!!
「“氷炎の競演”――“神代の競猛氷炎撃”ッ!!」
火花と氷雪を焼べた、神代と氷炎の奔流を繰り出す!!
『『ギャアアアアッッ!!』』
下半身の尻尾を盾に、胴体への直撃は防いだか。
「けれど、手応えはあり」
アイツの下半身は、ほとんどが吹き飛んだ。
「あ、マズイ」
巨体だから判りづらかったけれど、コイツ、とんでもないスピードで再生していってる。
「だったら畳み掛ける!」
屋根の上を飛び回りながら再接近!
「“情熱の黄金拳”!!」
右手の“大天使の黄金甲手”から金色の炎を放ち、傷口を塗るように下半身の断面を焼き焦がす。
これで、下半身の再生を遅らせられれば良いけれど。
『グギャァァ!!』
「――“神代の拳”!!」
突然現れた他腕の悪魔を――殴り飛ばす!!
「ナオさん!!」
クマムちゃんの叫びの意味を共振から察した私は、即座に“跳躍”で別の屋根へ!
直後、赤黒い光線が、私がいた屋根を吹き飛ばした。
アンラ・マンユの口から放たれた攻撃、目ビームよりも強力かも。
「ていうか、この前のクエストと違って、オブジェクトは壊れんのね」
この辺の感覚、慣れるの地味に大変なのにコロコロと。
アンラ・マンユが出現位置から動き出そうとした瞬間――青白い光線が幾つも直撃し、悪神の身体を穴だらけに!?
「今の、リエリアのSSランクによる攻撃?」
神代の力が上乗せされていたみたいだけれど、それを差し引いてもとんでもない威力ね。
●●●
「……まだ倒せない」
エレジーさんと私、三人分の神代の力を込めた一撃だったのに。
「うそ……」
あんな、生物として生きていられないくらい身体を吹き飛ばしたのに、私目掛けて接近してきた!?
「“竜光砲”、“連射”!!」
メグミさんの猛攻にも怯まず、身体のほとんどが吹き飛んでいるにも関わらず――止まる気配が無い!!
『『“瞬間再生”』』
あの巨体が、一瞬で元通りに!!
――腕が迫って。
「“連盾障壁”!!」
メグミさんが左腕を掲げて――受け止めようと!?
●●●
「エネルギーを溜めておけ、リエリア!!」
迫る黒腕に対し――タイミングを図る!
「“竜武術”――ドラゴンカウンター!!」
腕の振り降ろしを、正面から弾き上げてやる!!
「“超噴射”!!」
鎧の各所に仕込まれた“クリムゾンバーニアスラスター”の推力で急上昇――土手っ腹に“拒絶領域”を食らわす!!
「リエリア!!」
「ハイ!!」
“マキシマム・ガンマレイレーザ”は、溜めることで威力を一定まで増大させられる機能がある!
「消えてください!!」
リエリアが放った一撃により、右肩より先が消し飛ぶ。
「外した!!」
アイツ、あの巨体でなんて機敏性だ!!
「“颶風魔法”――」
『『“悪魔法術”、デビルハック』』
サトミの魔法陣が、黒く染まっていく!?
「逃げろ、サトミ!!」
『『デビルランサー!!』』
魔法陣から、サトミに向かって奴の魔法が!!
「“不可侵条約”」
サトミを守ったのは、一冊の浮き上がった本。
「ありがとう、ウララちゃん」
「どういたしまして」
さすがはSランクの本か。
「それにしても」
SSランクが二つあっても倒せる気がしないんだが、どうなってるんだ、いったい?
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「“魔人武術”――サタニズムブレイク!!」
アバターを生み出す本体、アンラを“魔神の大石刀”で仕留めてやった余!
「メルシュ! アンラ・マンユ、ちょっと強すぎるんじゃないか余!」
「ええ。最大強化状態とはいえ、アレはちょっと強力すぎるわね」
口調が本来の物になっているってことは、メルシュも内心かなり焦ってるみたいだ余。
「“瞬間再生”まで追加されているし、本来は無いはずのスキルが他に幾つも。私達が手を出さないってルールを守っている場合じゃないかも」
「と言っても、人間組に雑魚を近付けさせないだけでも一苦労だ」
「誰か、手を貸してー!」
シンプルに強いヴァンパイアロードのエルザ、スライムのバルンバルンまで手一杯か余。
こうして追い詰められてみると、普段のコセの存在感の凄さが際立ってくるなぁ。
アイツが戦場に居るか居ないかで、他の面子の心持ちが一段違う
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「タマモ、私達をしっかり守れよ!」
「うちはエトラはんの隠れNPCやないんやけれど、仕方ないやね~」
本気になった九尾の猛撃に、パズズ含めた悪魔共が一蹴される。
「さすが――コトリ、ケルフェ!」
「持ってけ、ドロボー!!」
「外さないでくださいね!」
二人と私の分合わせ、十八文字分の力を“古代兵装/六門竜砲”に注ぎ込む!!
「今度こそ――“颶風魔法”」
『『デビルハック』』
「無駄よ!」
“魔武の指輪”で、今のサトミの魔法は武術扱いになっている。
「ストームダウンバースト!!」
「凍れ!!」
サトミの生み出した重圧でアンラ・マンユが地べたに叩き付けられた瞬間、リンピョンの氷が魔神の身体を一気に覆っていく!
「今だ行け、エトラ!!」
リンピョンの奴、生意気な!
「お前ら――最高だぜ!!」
六門竜砲から、三人の全力を込めた一斉放射をぶっ放す!!
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エトラの攻撃が決まり、頭から鎖骨辺りまで綺麗に吹き飛んだ魔神の身体。
でも、アンラ・マンユはこの程度じゃ死なない。
ラキと一緒にオリジナルを遊んだ私は、それを知っている。
「バルバザード!! カプア!!」
「“溶岩鎚術”――マグマブレイク!!」
『“溶解槍術”――アシッドプリック!!』
油断していたサトミさん達に踊るように襲いかかった右腕の紅爪を、“ダイナビックハンマー”と“父子龍三姿の巨銀戟”で退けてくれる二人。
「“六重詠唱”」
展開した魔法陣に、“目眩く禁断を読み耽り”に刻んだ九文字分の力を注ぐ。
「ラキ――」
貴方に固執していたにも拘わらず、貴方の秘密を受け止めてあげられなくごめんね。
だから私は――双子の弟である貴方とは決別し、別の道を歩む!!
“目眩く禁断を読み耽り”に十二文字が刻まれ――――“目眩く禁断からの卒業”へと変わっていく!!
「――“神代の魔法陣”」
六つ全ての魔法陣が、神代の力宿す青白い光を灯す。
「“雷雲魔法”――サンダークラウズスプランター!!」
神代の雷雲より繰り出された雷は青白い光を帯び、本来よりも巨大で凶暴な雷霆となって――アンラ・マンユの巨体を焼き焦がしていく。
「皆、今よ!!」
その場で攻撃を繰り出せる人全員で、息つく暇も無いほど畳み掛け――アンラ・マンユは完全に消滅した。




