641.極輪の大いなる誓い
「本当に、俺達は行かなくて良いのか?」
メルシュに尋ねる。
「マスターは昨日の仮説、剣の精錬成功には十二文字以上刻めないと出来ないってのが本当か確かめててよ。十二文字刻めない組は気合い入っているみたいだし」
神代文字を十二文字以上刻めるのは居残り組で、それ以外は四十三ステージの攻略に赴くことになっていた。
「じゃあ、行ってくる!」
人一倍気合いが入っているメグミが、皆を先導するように魔法の家の領域を出ていく。
「メグミ、大丈夫かな?」
「剣を作れなかったこと、結構気にしてたみたいですしね」
トゥスカも気付いてか。
「それにしても……十二文字刻める面子って結構居るんだな」
その中でまだ剣の精錬を試して居ないのは、ユイ、セリーヌ、チトセ、リューナ、タマ、ザッカル、クオリアか。
「俺達も始めよう。誰からにする?」
「――私」
昨日は嫌がったユイが、真っ先に名乗り出た!?
「良いのか?」
「……うん。昨日、吹っ切れたから」
確かに、昨日と打って変わって良い顔をしている。
「なら――“超同調”!!」
俺とユイの想いが――
「お前……昨日、寝室に忍び込んでたのか……」
「メルシュさんから“透明人間”と“隠形のスキルカード”……貰って」
なんでそっち方向へは積極的なんだ!
「カナさんもイチカさんも受けだったけれど、どっちも凄い乱れようだった。グヘヘ」
ダメだコイツ。もうダメだ。
「シレイアさんと同じこと言ってる?」
「ユイ、エッチなこと考えるの控えて」
ユイとの共鳴精錬は、お互いの雑念が多すぎて上手く行きませんでした。
●●●
「町の中央に、こんな祭壇みたいなのがあるとは」
「クエストの時あったっけ?」
ケルフェとコトリの会話。
「クエストの時は消えていたみたいだよ。それにしても、やっぱりアークデーモンの隠れNPCも取られちゃってるね」
悪魔竜の渓谷に隠された宝物の中にあるはずだった“大悪魔の紋章”があれば、この祭壇に安置されていた石像からアークデーモンを手に入れる事が出来たんだけれど、回収出来なかった時点でやっぱ無くなってたか。
「それで参謀殿、どうするのだ?」
コトリ達から参謀呼びが移ったエトラに尋ねられる。
「捨てられた教会の“サクリファイスブラッド”、根獄の暗路の“サクリファイスアンバー”、屍魔道学園の“サクリファイスジュエル”、悪魔憑きの迷園の“サクリファイスバルブ”、暗部養成所の“サクリファイスタクティカル”、魔女裁判跡地の“サクリファイスストーン”、悪魔竜の渓谷の“サクリファイスドラゴハート”を、供物として祭壇に捧げる」
ダブっている分は、高値で売るしか使い道が無いのが勿体ない。
祭壇中央の窪みに、多くの犠牲者の成れの果てである血の結晶、琥珀、魔法の宝石、鱗茎、書物、魔石、竜の心臓を捧げる。
するとすぐに、このステージ全体を震わせる程の巨大な地響きが発生。
「捧げた供物の種類に応じ、召喚される悪魔達の力は強大になる」
「その分の見返りは、大きいけれどね~」
ニヤつくシレイアの言葉に応えるように赤光の地割れが駆け巡り――無数の悪魔が魔界から顔を覗かせる。
「アタシらの役目は雑魚がりだね」
捧げた供物の種類が多いから、Aランクの悪魔モンスター、黒鬼クラスが多数出て来るけれど。
「ぅう、悪魔モンスターの相手はうんざり」
「数日経ってるのに、見飽きた感が半端ない」
ナオやリンピョンを始め、NPC以外のメンバーは悪魔モンスターに飽き飽きらしい。
「来たよ、本命が」
祭壇の窪みから赤い光が直上に放たれ、ボス部屋への扉に直撃――扉から、十メートルを超える巨軀の悪魔が姿を現す。
蛇の下半身に人の上半身とコウモリの翼を背から生やす――SSランクモンスター。
組織的悪魔崇拝者達が呼び覚まそうとしていたという設定の悪神。
「アレが……SSランクモンスターのアンラ・マンユ」
クマムの言葉の直後――悪神の咆哮が大気を轟かす!!
「手はず通り、雑魚悪魔の相手は私達NPC組が務めるから、神代文字を使える面子は出来るだけアンラ・マンユに集中して!」
最大まで強化されたアンラ・マンユに、SSランク武器どころか、十二文字も刻めない面子のみで挑む……良い訓練にはなるだろうけれど、実は結構な博打でもあるんだよね。
「皆さん、私が道を切り開きます!」
誰かが叫んだと思ったら、青白いレーザーが無数に枝分かれし――この場所を包囲し始めていた悪魔の大半が……消滅した。
「リエリアが“マキシマム・ガンマレイレーザ”持ってるの、すっかり忘れてた……」
そう言えばメグミも。
●●●
「――“飛龍雲河”!!」
「“情熱の黄金拳”!!」
“熾天使化”した私とナオさんで放った、神代文字の力をありったけ込めた攻撃がアンラ・マンユに炸裂する。
『『グォォーーッ!!』』
目からビームが放たれ、地を這う悪魔ごと、直撃した地表が蒸発する。
『『“四重魔法”、“悪魔法術”――デビルランサー!!』』
ただでさえ手数の多いランサー系の魔法を、四つの魔法陣から――しかも、一つ一つが巨大過ぎる!!
「――“調伏”!!」
広範囲に放たれた赤黒い槍のほとんどが、一瞬で消えた?
今の、前にユイさんが使った能力じゃ……。
「マスターから借りてきて良かったね~」
シレイアさんのおかげで助かったんだ。
「魔法を防げるのはあと二回! 長引かせるだけ死が近付くと思いな!!」
「クマムちゃん、神代文字の共鳴を!」
ナオさんからの申し出。
「解りました!」
限界の九文字を超えるべく、ナオさんの文字に意識して共振させる!
「――ク!!」
十から十一を行ったり来たり……“大輪の花華への誓い”に刻む文字が安定しない。
ナオさんの、私に憧れるような……夢見るような気持ちが流れ込んでくる。
私は、ナオさんが想うような華やかで淑やかな人間なんかじゃないのに。
――私が求めるのは、もっと大きく花開くように、そのための強い誓いを――――!!
誰にも左右されず、私が私の道を私の意思で歩けるように――この前の夜のクエストの時のように――自分の威をこの世に示す!!
「ハアアアアああああッ!!」
“大輪の花華への誓い”の覚悟は極まれり――“極輪の花華への大いなる誓い”へと至る!!
「“念動力”――“神代の細剣”!!」
私に随伴する四本の細剣と誓いの剣全てに、神代の刃を纏わせる。
『『グァァ!!』』
悪神の両腕が、無数の巨蛇となって迫って来た。
「“竜光砲”――“連射”!!」
私とナオさんを狙った蛇の群れを、綺麗に吹き飛ばしてくれるメグミさん。
「今なら――“伸縮”!」
操る細剣と伸ばした極輪の刃を、悪神の胸に全て突き刺す!
「“共振破壊”!!」
送り込んだ十二文字分の神代の力と共に、アンラ・マンユの胸部を爆ぜさせた。




