636.醜悪よりも邪悪な悪魔
「……なにをしているんだ、お前?」
怖くて気持ち悪い人が、煙の中から無傷で出て来る。
ローゼも、マリアも、お姉ちゃん達まで傷付けて――バニラにまで!!
バニラの、痛い痛いって気持ちが首輪から伝わってくる――赦せない!!
「なぁにしてるんだって聞いてるんだよ――俺はぁあ!!」
手に持ってたのが棍棒になって、襲ってきた!!
「装備セット2――“竜化”!!」
金色の鱗に覆われたつよつよな姿になって、重たい攻撃を左腕の黄金の爪、“ドラゴンキラー”で受け止める!
「その姿は……」
『本当は、嫌だったのに……』
コセ達と仲良くないときに使ってた姿……皆と一緒に居るようになって、この姿になるのが段々嫌になってたのに!!
『本当は――嫌だったのに!!』
右手の金の爪、“光輝なる者の運命”から感じた力任せに――右腕を突き出す!!
「なぜ貴様がその力を!?」
金属の盾に邪魔されて、ちゃんと当てられなかった――次は殺してやる!
『“後輪光輝宮”!!』
背中に現れた大っきいのから、光の玉をたくさんいっぱい出す!!
「同族だからって、調子に乗るな!!」
金属の筒がたくさんぶつかってきて、吹き飛ばされる!!
『“金色の竜翼”――ぁぁあああッッ!!』
力いっぱい飛んで、頭突きする!!
『ぅああああああッッ!!』
“光輝なる者の運命”で胸を攻撃――鎧がちょっと壊れた!!
『やっ――ッッッ!!?』
顔、思いっ切り蹴られて……首、痛い。
「こっちが手加減してやっていれば――調子に乗りやがってッ!!」
痛……い。痛い……何度も……踏まないで――コセ。
「――――モモカッ!!」
コセの声……聞こえた瞬間、身体が軽くなった……?
●●●
「離せ!! 離せ離せ離せ!!」
モモカを踏みつけていたクソヤローに“神代の天竜”で激突し、皆から引き離す!!
「――ぁぁあああ!!」
何故か悪魔が入り込まない一画に移動。急停止すると同時に、無様に地べたを転がっていく白人のレギオンリーダー、ルーカス。
「子供に――子供に何をしているんだ、お前はッ!!」
「ハアハア……はあ? 安い倫理観振りかざしてんじゃねぇよ、ジャップ!!」
侮蔑的な感情……やっぱりコイツも、只のクズか。
“サムシンググレートソード”に、十二文字を刻む。
「お前ら日本人は世界のATMなんだ!! 白人様に逆らってんじゃねぇよ――“竜化”!!」
モモカに似た、金色の体表を持つ化け物に!
「レプティリアンだったのか」
『よく知ってるな、クソジャップのくせに!!』
「ジャップ……お前、アメリカ人か?」
確か、アメリカで広まった日本人の蔑称だったはず。
『は? あんな罪人共と一緒にするな。これでもな、俺には高貴な血が流れてるんだ――イギリス王家の末席の血がな!!』
突撃――してきたと見せ掛けて、視覚から槍が四本。
「“神代の鎧”」
槍を弾き飛ばし、これ見よがしに左手の平を突き出す!
横に避けると同時に尻尾の薙ぎ払いを仕掛けてきたため――尻尾を片腕で叩っ切る!!
『グァァぁ!!』
痛みに距離を取る蜥蜴野郎。
「“飛王剣”!!」
『それは!?』
鈍色の武具を必死に並べ、なんとか左の翼の犠牲だけで済ませるルーカス。
『く、くたばれ!!』
怯えに任せるように、武具の群れを飛ばしてきたか。
「“六腕”――装備セット3」
右の義腕に“ケラウノスの神剣”と“ヴェノムキャリバー”、左の義腕に“魔術師殺しの剣”と“ザ・ディープシー・カリバーン”、左手には“偉大なる英雄竜の猛撃剣”を装備――全ての武具を力尽くで弾き飛ばす!
『ど、どうした? ご自慢のSSランクは使わないのか?』
さすがに気付いていたか。
「悪いな、今は使えないんだ」
この局面を乗り越えるためにカナとマリナにSSランクを預けたため、今の俺が新たにSSランクの剣を生成するのは不可能。
けれど、目の前に居るような頭クズには、他者に貴重なSSランクを貸し与えたなんて想像も出来ないだろうな。
『クソジャップ如きが――舐めてんじゃねぇぞ!!』
感情的になったからか、今度こそ正面からぶつかってきた!
『が……押されて』
“アルティメット・ハフト”の能力は、鈍色の武具を無数に生み出して操るというもの。“ブラッディーコレクション”のような変幻自在な扱いは出来ないため、まだ相手しやすい。
「“神代の剣”」
『――ぁぁああああッッ!!?』
“サムシンググレートソード”に青白い刀身を纏わせて目を引き、“偉大なる英雄竜の猛撃剣”で壊れた鎧の隙間――胸部分を貫いて見せる。
「小賢しいフェイントを仕掛けてくる割に、自分はフェイントに弱いんだな」
『黙れよ――黄色い猿がぁぁああ!!』
「お前が黙れよ、蜥蜴野郎!!」
全ての剣に鎧から十二文字分の神代の力を流し込み――鈍色の武具の群れを砕き斬る。
『バカ……な』
「――“雷霆剣術”、ケラウノスプリック」
“アルティメット・ハフト”から生成されていた剣の腹を貫き折り、鎧の上から腹を深々と突き刺す。
『が……ぁ』
「“二重武術”――クロススラッシュ!!」
両腕と下側の義腕で二つの斜め十字を見舞い、鎧ごと身体を大きく切り裂いた。
「ハアハア、ハアハア」
さすがに……キツくなってきたな。
けれど、ようやくあの蜥蜴野郎の姿が人間に戻った。
「……に、逃げ」
「ビビってんのか? 高貴な白人様が」
「――黙れぇ!!」
思えばコイツ、俺が現れてからずっと怯えているように見える。
「野蛮な黄色人種が――お前ら薄汚いジャップさえ居なければ、この世はとっくに白人の――イギリスの物だったんだ!!」
「アメリカの間違いだろう」
奴が逃げ出さないよう、ゆっくりと近付いていく。
「ハッ!! 何も分かっていないな、黄色い猿が! アメリカは、イギリスから流れた罪人共が原住民を殺しまくって作った国。今も昔も――罪人奴隷どもはイギリスの言いなりなんだよ!!」
「そうか――“超噴射”!!」
能書き垂れている間に間合いまで入り、男の身体に六振りの剣を突き刺す!!
「――み、“身代わり”ぃぃッッ!!」
致命傷を負わせ、剣が抜けて転がっていった次の瞬間――奴の傷が塞がっていく!?
「“身代わり”……まさか、始まりの村で手に入るスキル!?」
コイツ、自分の奴隷に致命傷を押しつけやがった!!
「――死ねッ!!」
「ぁぁああああああッッッッ!!!」
一刀で頭をかち割って――後ろに跳ばれたせいで、左眼しか切り裂けなかっただと!?
「クソ!」
なら追撃して、今度こそ終わらせるだけ――
『――ハイ、時間切れー! 両者レギオンリーダーが時間まで生き残ったため、今回の突発クエストは勝者無し! ざーんねん!』
身体が動かなくなり、光になって消え出す!
「は……ハハ! やはり、運命の神は俺様を愛しているらしい」
左目を押さえながら、狂気が滲んだ笑顔を向けてくるルーカス。
「絶対に許さんぞ、ユウダイ・コセ。お前もお前の仲間も、必ずこの俺が――惨たらしく皆殺しにしてやるッッ!!」
絶対に仕留めなきゃいけない相手だったのに――俺は!!
「そして、モモカは絶対に俺の物にしてやる――お前への憎しみを思い出す度にモモカをファックしまくって、顔をグチャグチャに殴って、手脚を切断して――飽きたら血肉を貪り喰ってやるぅぅぅぅぅッッッ!!!!」
「――――なら、クエスト後にすぐにこの場所に来いッッッ!!!」
「ヒッ!!」
「そんなに俺を殺したいなら、すぐに決着を着けてやるッ!!」
その言葉を最後に、俺はクエスト直前にいた場所……“神秘の館”のリビングへと転送された。
◇◇◇
『……あっぶなー』
もうちょっとで、コセに“アルティメット・ハフト”を奪われちゃうとこだった。
『残り二十四秒だけだったけれど……バレたらペナルティー食らっちゃうかなー、これ』
まあ、前例もあるし、アイツらにSSランクが渡るよりはマシだって判断して貰えるはず……たぶん。
『つうかアイツ、まじ弱すぎ。SSランク持ちがSSランク無しに負けるってどういう事よ!』
やっぱり、神代文字って狡くね? 私らが潰さなきゃいけないアイツらしか使えないチート能力とか、ゲームバランスクソすぎっしょ!
『誰かどうにかしてよ、ここんとこさー』
私、もう知ーらない。
●●●
「……」
“退廃と快楽の都”で、最後に戦いを繰り広げた場所で待つこと一時間以上。
「やっぱり来ないか」
「コセ」
現れたのは、ヴァンパイアロードの隠れNPC、エルザ。
「ルーカス率いる《カトリック》の生き残りが、ボス扉の中へと逃げた」
街の祭壇とは逆方向に、ボス部屋の扉はある。
「……そうか」
結局、あの蜥蜴野郎は逃げたのか。
悪魔の領域からボス戦。ろくに休む暇も無く今回のクエスト……みんな、もう限界だったため、向こうに戦力を回す余裕は無かった。
「むしろラッキーだったかもな。あの人数とSSランク持ち相手じゃ、疲弊したお前では万が一もありえた」
「……だな」
クソ! 感情的に喋ってないで、クエスト中にとっとと仕留めていれば!
「なるようにしかなりませんよ、コセ様」
ドライアドの隠れNPC、ヨシノが迎えに来てくれる。
「帰りましょう。皆さん、貴方を待っていま」す」
「……うん」
今日は……ずいぶん長い一日だったな。
第16章 醜悪よりも邪悪な悪魔達 完結です!




