635.情熱の黄金炎
「“抜剣”――“情熱の黄金剣”!!」
“聖剣万象”を纏わせた“大天使の黄金聖剣”を振るい、巨大な黄金の炎を横に薙ぎ――目の前の悪魔共を一蹴する!
「ハアハア、ハアハア」
黄金聖剣が悪魔系モンスターに特攻の能力を持つからといって、少し張り切り過ぎたか。
「無茶し過ぎです、ルイーサ」
銀のクロスボウで雑魚悪魔を狩ってくれる、狸獣人のカプア。
「すまん。私が一匹でも多く狩れば、他が楽になるかと思ったんだが……焼け石に水だったか」
むしろ、減らした傍から即補充されている気がして来た。
「ルイーサさん、アバターとアンラです!」
デカい虫蛇が、無数の虫蛇を引き連れて現れたか!
「“影鰐・八重”」
声が聞こえてきた瞬間、私達に迫っていたアバター共の動きが止まった?
「これは、カナさんが手に入れたスキル!」
「――“情熱の黄金拳”!!」
黄金の炎がアンラとアバターを呑み込み、一瞬で消し炭にしてしまった。
大天使ウリエルからドロップするという黄金のガントレットの能力……《エクリプス》から没収したあの防具を受け取っていたのは、確か……。
「無事? ルイーサ、カプア!」
ナオとカナが駆け付けてくれる!
「ハハ、そっちもボロボロだな」
「本当ね」
「《カトリック》の奴等が、かなり陰湿でさ!」
カナはともかく、ナオもそこまで余裕はないか。
「どうする? 私らは、取り敢えずコセと合流しようと思ってたんだけれ――」
ナオの言葉を遮るように、カプアが……吹き飛んでいった?
「コイツ、いったいどこから!?」
熊のような大男の化け物が、赤い光から上半身を顕わに!!
「――“大地竜剣術”、グランドドラゴンブレイク!!」
熊大男を一撃で消し飛ばしながら、黄金の燐光振り撒く翼と共にコセが降り立った!
コセ……お前、格好良すぎだよ。
「コセ……アンタ、ルーカスって奴はどうしたのよ?」
ナオが、カプアの治療をしながら尋ねた。
「悪魔が出て来てからしばらく粘ったけれど、一向に姿を現さないから、戦闘場所を巡って捜してたんだ」
クエスト終了まで、まだ二十分から三十分はある……マズいな。カプアが暫く動けそうにないっていうのに!
「カナ以外は疲労困憊か……よし」
コセが、SSランクの大剣を解いた?
「カナ」
「な、何よ……」
「一か八か、俺達で共鳴精錬を試そう」
「「へ?」」
コセは、カナとはまだ肉体関係も無いのに……。
「る、ルイーサとやれば良いでしょ」
「ボロボロのルイーサじゃ、共鳴精錬できてもSSランクの力を操って戦えるか分からない」
「で、でも……」
「ダメならダメで良い! 迷ってる暇なんて無いんだよ!」
コセが、珍しくカナに厳しい。
「わ、判ったわよ! で、どうするの?」
「――“超同調”」
コセと意識が繋がったのか、カナが目を閉じ、“名も無き英霊の劍”に手を翳す。
「狂い殺せ――――“雄偉なる宵闇から戦慄は消えて”」
青黒い石の剣が、美しくも血生臭い黒き大剣へと変わっていく!?
「へ、本当に成功したのか?」
「そう……みたい」
ボーッとしているカナの手に、コセがSSランクの死の剣を預ける。
「こ、コセくんが使うんじゃないの?」
「これで、三人を守ってくれ」
それだけ言い、黄金の翼で飛んでいってしまうコセ。
「この剣……あっつい♡」
今のカナ、スッゴい卑猥だった。
●●●
「――ガルルルルルルルルッッッ!!!」
先行していたバニラが、何者かに大刀を思いっ切り叩き付けた!!
「コイツは!?」
ザッカルが、目の前の惨状に慌てている。
「く、クソッ!!」
バニラが攻撃したのは、ルーカスだったのか!
完全な不意打ちだったように見えたが無傷。アイテムかスキルなのかは判然としないけれど、“不意打ち無効”を持っていたのは間違いない。
「ガァァァッ!!」
バニラが、モモカを庇うように攻勢を掛ける!
「今のうちに、重傷者の治療を!」
「ザッカル、近付く悪魔の相手を頼む!」
「おう、任せろ!」
ヒビキ、ユイ、フミノ。三人とも、素の戦闘技術に優れていたのに……こんなにもボロボロに。
一番重傷のヒビキの治療を、私が担当する。
「じゅ、ジュリーさ……」
「喋らないで、絶対に治すから! “六重詠唱”」
脚を拾ってくっつけてから、ハイヒールを使用。
「よし、再生が始まった」
手遅れなら、回復効果は作用しないはずだから。
脚をくっつけずに再生を始めていたら、ヒビキは片足になってしまうところだった。
「……暫く時間が掛かりそうだな」
ウララはフミノの治療を優先して……ユイの治療をしている? え、フミノは?
○○○
「フミノさん、すぐに治療を!」
「私は大丈夫――“時空遡行”」
“時の賢者”のサブ職業に備わったもう一つのスキルで、自分の身体が傷付く前に戻していく!
「……くッ!!」
この能力、回復魔法と違って痛みも逆再生する感じだから、あんまり使いたくなかったんだけれど。
「凄い……」
六秒程で、大量のTPと引き換えに完治。
「ユイさんをお願いします」
バニラちゃん……苛烈なまでの近接戦に持ち込む事で、SSランクの強みである物量による攻めを半ば封じている。
偶然か、野生の勘がそうさせるのか。
「なんて馬鹿力――調子に乗るなッ!!」
大振りで隙を晒したと見せ掛け、視覚から斧と槍を飛ばしてバニラちゃんに距離を取らせた!?
「距離さえあれば!」
私達を手こずらせた無数の武器による乱舞が――両腕の“愚劣な無我の境爪”のマニピュレータに大剣を持たせ、自由になった手で四つ足歩行となったバニラちゃんが――全て避けてる!?
文字もスキルも使わず、強化された身体能力だけであんな動きを……凄すぎる。
「な!?」
四つ足歩行のまま、大剣を逆手持ちで握るように操って、擦れ違い様に首を飛ばそうとするバニラちゃん!
あのルーカスという男も男で、バニラちゃんの動きをすんでで見切っている。
あの二人の戦い、下手に加勢できない。
「気味の悪い獣が! 装備セット2」
左手に鞭を装備した?
「“絡め取り”!」
「ガウ!?」
足に鞭を巻き付けて、バニラちゃんを宙に投げ飛ばした!!
「串刺しになれ!!」
「――“六連瞬足”!!」
“只ひたすら打ち込むのみ”に九文字刻み、注意を引くためにも大声で突っ込んだ!
「またお前か! ――“拒絶領域”!!」
私だけでなく、バニラちゃんまで円柱状の衝撃波に吹き飛ばされるッ!!
「貴重な回数制限のあるスキルを……黄色い猿共め!!」
「ハァー、ハァー」
バニラちゃん……落ちてから動かない――まさか!
「アイツだけは――絶対に殺してやるッ!!」
小児性愛者だけは、絶対に存在しちゃいけないんだ!!
「――“鏡多面の聖霊女”!!」
神代文字の力をありったけ込めた、鏡面美女の上半身を召喚!! 白人のクズ男を襲わせる!!
「次から次へと!! ――“神鉄砲”!!」
聖霊女が砲撃によって止められ、武具の乱舞に刻々と削られていく!!
「ハァー、ハァーぎbg」
ヤバい……文字の力に引っ張られる。
「“竜技”――ドラゴンブレスッ!!」
竜の息吹が、白人男に直撃?
「モモカ……ちゃん?」
一人の女の子が、恐怖で震えながら……立ち向かっていた。
「皆を――皆を虐めないで!!」




