631.襲来する悪魔達
「“侵略雷”!」
敵レギオンの波状攻撃を、“侵略の雷帝剣”でことごとく消し去る!
敵は六人。先にポイントが尽きるのは、間違いなく私。
「おい、どうする? 攻撃が全然通じねぇぞ」
「あれだけの能力、SSランクでもない限り有限のはず。このまま畳み掛けなさい!」
眼鏡の魔道士風の男が指示を出す。
ルーカスとかいう白人レギオンリーダーを無視して戦端を開いたうつけ。
「“劇毒弾”!」
「“一矢十矢”!!」
「ハイパワースラッシャー!!」
「“煉獄魔法”、インフェルノバレット!!」
数による広範囲攻撃――剣だけじゃ全ては防ぎきれない!
「――“明星の翼”!!」
即座に三文字刻み、“高次元”の能力もあって十二枚の翼で耐えきった。
「クソ、この女もチート能力を!」
神代文字の事か。
「卑怯者め。自分達だけ妙な力を……黒衣の男と白面の男が率いるレギオンといい、何故お前達だけが!」
眼鏡魔道士を筆頭に、神代文字の力が相当に気に入らないらしい。
「どうすんだ? 前に、チート女集団に痛い目に合わされたが……」
「……まあ良いでしょう。このクエストで勝てば、彼女も我々の戦力になるわけですし――武器交換、“ザ・ストップ・ベーション”」
私が知らない杖に持ち替えた?
「“重力魔法”、ヘビープレッシャー!」
「無駄!!」
頭上からの重圧を、わざと傲岸不遜に振る舞いながら“侵略雷”で打ち消す!
「“停止視眼”」
奴の杖上部の眼球が輝き、半透明な球体に閉じ込められた!?
「身体が……動かない」
「安心してください。この杖の眼に見詰められている間、貴女は身動きが取れない分、どんな攻撃からも安全ですので」
私を厄介と考え、クエスト終了までここに釘付けにするつもりか!
「下から覗けばパンツ見えっかな?」
「ガキか、お前は」
「後で愉しませてもらえば良いだろうが」
「言うけどよ、ルーカスの奴はヨーロッパ系の白人には優しいじゃん。コイツ、ロシア人だったりしねーかな?」
よく見ると、中東の人間らしい特徴がある者が何人か居る。
「早くコセとかいうレギオンリーダーを捜しますよ。奴さえ始末してしまえば――」
『クエスト開始より一時間が経過~。これより、数多の生け贄によってこの都市に施された呪法が発動。それに引き寄せられた悪魔達が、この都市の生きとし生ける物全てに襲い掛かっちゃう!!』
地割れが起きたように赤い光が吹き出し、どこまでも駆け抜けていく!?
そのまま光は残るも、直撃した男達が痛がっている様子は無い。
「おい、上だ!」
星も見えない夜空から、数え切れない程の悪魔系モンスターが襲来してきた!?
「チ! 逃げますよ!」
眼鏡魔道士が仲間を率いて逃げていって暫く、私の周囲に百を超える悪魔が現れ、取り囲まれる。
「なんてタイミングで!」
杖が離れたからなのかドームが消え、完成した悪魔達の包囲網真っ只中に一人取り残される事に。
「SSランク持ちに当たるまで、神代文字は温存するつもりだったのに」
悪魔は、グレーターデーモン数体以外は大したこと無い……ただ、無事に切り抜けるには包囲している数が多すぎる。
「伏せてろ!! ――――“万悪穿ち”!!」
黒槍の雨が背後から降り注ぎ、悪魔達の大半が光へと変わっていく。
「“三重詠唱”、“雷雲魔法”――サンダークラウズレイン!!」
槍が命中していなかった悪魔、命中しても生き残っていた悪魔の多くが致命傷を負う。
「……ザッカルにウララさん」
珍しい組み合わせだな。
「無事か、ジュリー?」
「助かったよ、ザッカル。ウララさんも」
「ジュリーちゃんが無事で良かった~。囲まれてるのが見えた時はどうなるかと」
ウララさん。やっぱり、この前から憑き物が落ちたように明るくなった気がする。
「なに、ジュリーちゃん?」
「いえ。それより、おそらくこの悪魔は無限湧き。クエストが終わるまでは襲われ続けるでしょう」
「このペースで増え続けるとか、さすがに勘弁だぜ」
SSランク持ちはコセに任せたかったけれど、そうも言っていられなくなってきた。
「いったん、コセの居る巨岩の方へ――」
「――ガルルルルルルル!!」
私達の横を、獰猛な気配と共に駆け抜けながら――悪魔を二振りの大刀でぶった切っていくバニラ!?
「アイツ、俺達を無視してどこへ行く気だ?」
「もしかして、向こうにモモカちゃんが居るんじゃ!」
互いに頷き合った私達は、モモカの元に駆けつけるべく、三人で一斉に駆け出す!
●●●
「うわ、コイツらって!」
虫の脚が生えたような黒い大蛇が大量に……確か……。
「“アバター”です、クレーレ様」
クオリア姉のメイド、レミーシャが教えてくれる。
「それにアレって、バットアバターだよね?」
見覚えのあるデカいコウモリが三……四は居るし。
「この数から考えるに、母体であるアンラは複数……最低でも三体は近場に居るかと」
「うわー。私、アイツら嫌いなのに」
アイツらのせいで、役立とうとして役立てなかった時のトラウマがあるから。
「ていうか、私と相性悪いし!」
斬っても潰しても再生するから、まるごと消滅させなきゃいけない!
「はい、私もです」
「レミっち、冷静過ぎだよ」
とか言っているうちに、アバター達が私達に気付いて襲ってきた!
「“光線魔法”――アトミックレイ!!」
光の光芒で、アバターを四体消し去る!
未だに、これくらいしかアバターに通用する能力ないよ、私!
「他の方々と合流しましょう。幸い、この状況なら敵レギオンも襲って来る可能性は低いでしょう」
獣の脚でアバターを蹴り飛ばすレミーシャ。
「私が先陣を切ります!」
“電撃の鞭”でアバターの動きを止めながら、道をこじ開けてくれる。
「他の悪魔なら、もっと活躍でき――ッ!!」
肩に激痛が走り、身体が空中に持ち上げられた!?
『キシシ』
背後から、“バットアバター”が私に噛み付いているッ!
「“神代の剣”――“三連瞬足”!」
空を瞬発的に跳び駆け――バットアバターの首を斬って、私を抱えて助けてくれるリューナ姉!!
「無事か、クレーレ!」
路地に着地するなり、リューナ姉が心配してくれる。
「リューナ姉、男前すぎ♡」
「余裕そうだな、お前……」
「無事ですかクレーレさ――」
レミーシャが路地に入ってきた瞬間、アバターが大量にいた通りを青白い極線が走り抜け……アバター達が綺麗に消滅……した?
「相変わらずの火力ばかだな、クオリアの奴」
「さ、さすがクオリア姉」
さっきの、地底湖の時に白いワームを消し去ったアレかな?
「……アレ?」
アバターが消失した際の光が、こっちに向かって来て――――
「――――ぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああッッッッ!!!!」
アバターの光で、心臓が締め付けられるように縮んでい――――ッッッッ!!!!
「クレーレ!!」
「クレーレ様!!」
また……レミッち達に……迷惑……かけ――――




