629.暴き奉れ
「ハアハア、クソ」
“倍打突きのザグナル”で、異世界人の男の頭を陥没させて始末。
これで四人目。けれど、《龍意のケンシ》の仲間はどこにも見当たらない。
「派手な戦闘は……巨岩のちょうど反対側か」
戦闘場所に敵も仲間も集まってそうだが、急いで合流するべきかどうか……。
「岩にはあまり近付くなってコセの野郎に言われてるし……少し休むか」
派手にライトが点いている建物の一つに入り、二階に上がって背を預ける。
「随分デカいベッドがある部屋だな」
壁もピンクで、毒々しい雰囲気……気色悪い。
他の建物と違って煌びやかだから、魔法を使ってもバレないだろう。
「ハイヒール」
思いっきり蹴られた腹部を癒やす。
「仲間……か」
私は、死ぬまで見目の麗しい妖精としてもてはやされていた。
そんな奴等に買われたのに安堵しつつ、まるで人形や何かのように見られている状態がたまらなく嫌だった。
そんなある日、私は、私をもてはやしていたパーティーによって囮にされ……モンスターに殺された。
正確には、モンスターに致命傷を負わされたのち、なんとかたどり着けた安全エリアで……ゆっくりと命を落としていった。
今のような回復手段も無く、古代兵装以外にはろくな装備も貰っていなかったから、あの時の私には抗う手段が無かったんだ。
「仲間に縋るような、あまい考えは捨てなきゃ」
誰にも舐められないように、傲岸不遜に、俺様はって言い続けるんだよ!
「――よし、誰もいねーな。お前ら、とっとと来い!」
男の声が聞こえてきたと思ったら、階段を上ってくる音……窓から逃げるか。
「痛い!!」
「チ! とっとと来い、羽虫女!」
――羽虫という言葉に、逃げるという選択肢を消される。
「クク! クエストが終わるまで、お前らで暇つぶしだ」
杖に持ち替えた瞬間に部屋に入ってきたのは……赤髪ロン毛のエルフと、三人のフェアリー族。
おおよそ、戦闘を想定した格好じゃない。
「あん? お前、誰だ? 見覚えのねぇフェアリーだな」
「り、リガリオ様、彼女は敵で――ブゲッ!!」
エルフの野郎が、仲間であるはずのフェアリーの男の顔面を……蹴った?
「おい、いつ喋って良いって言ったよ、俺は? ああ!! お前らは奴隷なんだからよぉぉ……――俺様に気安く話し掛けてんじゃねぇよッ!!」
何度も何度も、膝まずくフェアリーの男を蹴るエルフ野郎!!
「おい、やめろッ!!」
「……羽虫風情が、今俺に何か言ったか?」
――コイツに私の存在を認識されるのが、酷く気持ち悪い!!
「言ったよ、バーカ。その長い耳は飾りかよ、クソ間抜けエルフ」
「……テメー」
「キャ!!」
ツインテールの女フェアリーが髪を引っ張られ、喉にナイフを突き付けられる!!
「……お前、ソイツはお前の奴隷じゃないのかよ!」
「ちげーよ、コイツはルーカスの奴隷さ」
あの白男の!?
「コイツはルーカスのお気に入りだから、俺がわざわざ保護してやったんだ。ついでに、クエストが終わるまで愉しませて貰おうと思ってたってのに、邪魔しやがって!」
「他人の奴隷に手を出すつもりだったのか!」
「どうせヤる事は変わらねぇんだ。今日くらい俺の相手させたって構わねぇだろう?」
「あの白男――コセを小児性愛者呼ばわりしておきながら、自分は!!」
「おいおい、それをお前ら羽虫が言うのかよ! まあ、レギオンメンバーのほとんどには隠してるが、アイツは俺と違って根っからの小児性愛者だよ! だから、モモカってガキに相当熱を上げてるぜ、アイツ! この世界で幼女にありつけたのは大樹村以来らしいからよ。見た目は幼くても、年増のフェアリーじゃ満足できねぇらしい」
道理で、モモカを逃がそうとしたヨシノが狙われるわけだ。
観測者側がわざわざコセを小児性愛者って嘘の情報を流したのは、レギオンリーダーであるルーカスってクソ変態野郎を動かすため!
「おい。お前、コイツを助けてぇんなら脱げ」
「……はぁ?」
「お前が代わりになれって言ってんだよ。俺様は飽き性でな、この街のNPC娼婦にもヤり飽きてんだよ」
快楽の都……色街同様、そういう施設もあるって事か。
「おら、どうした! 脱がねーなら、この羽虫女をぶっ殺すぞ!」
クソ……どうしたら、この場を切り抜けられる!
「……ころ……して」
「おい、黙って――……は?」
人質にされていた女が、エルフの男のナイフに首を深々と埋めながら――しがみついた!!!?
「クソが、離せよ!!」
女の背に何度もナイフが突き立てられ……めった刺し……に。
「「――わああぁぁぁぁぁ!!」」
他の二人まで摑み掛かって!!
「お前ら――奴隷のくせにぃぃぃ!!」
ああいうクズ共に抗うために、覚悟を決めたはずなのに……目の前の光景に、身体が動かない。
「命令だッッ!! そっちのフェアリーを殺せッ!!」
フェアリーの男が、まだ無事だった子を押し倒して――何度も何度も殴り続けッッ……て。
「嫌だぁぁ!! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁぁぁぁッッッッ!!!!」
あれが……“隷属の印”の強制力。
コセがその気になれば――私もッ!!
気持ち……悪い。立ってられない。世界がグニャグニャして……私、なんでこんなとこで生きて――――
「殺……して」
未だに手を離していなかった、めった刺しにされたあの子が……か細い声で……死を願っていた。
自分の死という救済を。あのエルフ男への死の鉄槌を――
「――ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああッッッッ!!!!」
私を蝕んで犯し壊そうとする腐った世界を、怒りと憎悪の願いで――ねじ伏せるッッッッ!!
“神秘は曝かれぬからこその”に十二文字の紫の文字が刻まれ――“この世の神秘を暴き奉る”へと姿を変える!!
「この世から消えろ――クソエルフ!!」
「ま、“魔断障壁”ッ!!」
「――――“暴き奉れ”――“神秘魔法”、ミスティックブラストッッ!!」
「バカが! “魔断障壁”はどんな魔法も――――」
めった刺しにされたフェアリーも、死ぬまで殴られたフェアリーも、死ぬまで殴り続けたフェアリーも、あのクソエルフ野郎も……まとめて、あの世へと送ってやった。
「……絶対に、赦さない」
こんな世界を作ったデルタも、許容する奴等も――私達に、こんな残酷な仕打ちをする神もッッ!! 絶対に殺してやるッッッ!!!!




