628.突発クエスト・殲滅夜襲
18時になり、強制転移させられる俺達。
黒い建物が立ち並ぶ、土が剥き出しの地面……ここが、“退廃と快楽の都”か。
動けない身体で辺りを見回すも、仲間の姿は誰一人見当たらない。敵の姿も。
祭壇上からざっと見ただけでも、この街はかなり広そうだった。
『そいじゃあ、突発クエスト・殲滅夜襲――開始!!』
身体が動くようになる。
「俺の役目は――撒き実れ、“雄偉なる大地母竜の永劫回帰”」
巨大な岩を出現させ、居場所をアピール。
巨岩の上に立ち、周囲を観察する。
「さあ、来い。《カトリック》ども」
賢明な人間なら、俺の相手ができるのはSSランク持ちのみだと解る。
向こうのレギオンリーダー、ルーカスが仲間想いなら俺を狙うはず。そうでなくても、俺から逃げるような人間なら俺の存在をアピールするだけで幾分かの牽制になるはず。
「皆が……特にモモカは、すぐに気付いて合流してくれれば良いんだけれど」
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「派手にやってるわね、アイツ。まあ、予定通りなんだけれどさ」
「ハハハ、運が良いぜ!」
簡単に人をぶった切れそうな大斧を持った大男が、私に舌舐めずりしている。
「気になってたんだよ、良いパイパイ持ってんなぁーってよ、眼鏡のねーちゃん!」
コイツ、確かルーカスって奴の近くにいた大男。
「アンタみたいな安っぽい男、今まで腐るほど見てきたわよ――とっととぶっ殺してあげるわ」
“煉獄は罪過を兆滅せしめん”に六文字刻んで――背後からの気配に気付き、慌てて回避!!
「……バカでかい蜘蛛?」
「クソ、お前らも来たのかよ」
男の声に応えるように、暗がりから四人の男達。
「近場にいた女共をここから遠ざけてやったんだ、感謝しろっての」
近くに私の仲間が……違うか。コイツらの下卑た感じ、同じレギオンの女達にはバレないようにって事ね。
「つうか、押さえ付ける奴と見張りが居ないと愉しめねぇだろう?」
「久し振りにレイプ気分を味わえそうなんだ、協力しようぜ」
「チ! 仕方ねぇな! 絶対に殺すんじゃねぇぞ!」
――勝手なことばかり抜かしやがって。
「全員、ぶっ殺してやる」
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「爆裂脚!!」
女戦士の頭を爆散させ、仕留める。
「ああ……うそ、ケイコ……ユカ」
お告げがどうとか言っていた眼鏡の白フードローブ女が、尻餅を付きながら後ずさっていく。
「待ち伏せして襲ってきたような連中のくせに、随分臆病なのですね――殺される覚悟くらいしておけよ」
つい、口調が冷たくなってしまった。
「トゥスカ、こっちは片付いたわよ」
「弱いですね、彼等。装備のランクも大したことありません」
アヤナとドワーフメイドのエリーシャが、襲撃者を始末して来たみたい。
「い、いかれてる……人を殺して平然としているなんて」
「なに言ってんの、コイツ? こっちは二人、あんた達に殺され掛けてるっていうのに」
「あんな、小児性愛者と全員が肉体関係とか……不純にも程があるわ! 存在そのものが不潔なのよ、あんた達は!!」
「だから、殺されて当然だとでも?」
「そ、それは……」
「ハァー。随分、適当な情報を掴まされていたのだと判りますね」
エリーシャの呆れ声とは裏腹に――私は、腸が煮えくりかえっていた。
「――お前達のせいで、どれだけご主人様が苦しむ羽目になったのか!!」
腹を蹴り上げると数メートル先に落下し、転がっていく女。
「が……ぁ……ハァー、ハァー! ――“革命巨兵”ッ!!」
白い装甲全う、黒い悪魔のような形相のゴーレムが出現――全長六メートルくらいか。
「お二人とも、あれはユニークスキルです!」
「ハァー、ハァー……私が傷付けば傷付くほど、強くなるのが“革命巨兵”――死ね、異常者共ッ!!」
ユニークスキルによって生まれたゴーレム、さすがに厄介そう。
“荒野の黄昏は大いなる導”に九文字を刻んだ瞬間――背後から放たれた青白い閃光によって……“革命巨兵”の上半身が消し飛んでいた。
「皆さん、ご無事ですかー?」
建物上部から泳いで来たのは、“マキシマム・ガンマレイレーザ”を抱えたリエリア。
「助かりました、リエリア」
「逃げられちゃったわね、あの女」
アヤナの声に意識を周囲に向けるも、あちこちで戦闘の気配がするために女が逃げた方向を絞れない。
「仕方ない。他のメンバーとの合流を優先しましょう」
観測者側からの情報を受け取っていたであろう女……誰かが始末してくれれば良いのだけれど。
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「来るな! こっちくんな!!」
世紀末の不良みたいな男が、近未来の鎧みたいなのを着て、二丁の薬液銃を撃ってくる。
敵にすると、“溶解液”ってこんなにも厄介なんだねー。
「“氾濫魔法”――リバーバイパー!」
水の龍を呼び出して、溶解液の濃度を薄めつつ食らいつかせにいく!
「“噴射滑走”!!」
足下から噴射して少し浮いたと思ったら、地面をローラースケートのように移動した!?
「それ……面白そう」
鎧の能力っぽいから、今身に着けている“水銀妖精のワルツ軽鎧”と二択になっちゃいそうだけど。
「舐めてんじゃねぇぞ! “劇毒弾”!!」
銃身から放たれた紫弾によって、水の龍が消失。
「“溶解槍”、“猛毒槍”!!」
二種類の浮遊毒槍を飛ばして来た!
「“竜脚”」
変質強化した足に合わせて脚甲の形状も変化――つま先での空中歩行と併用しながら踊るように槍を回避。
「埒が明かないや――“鞭化”、“絡め取り”」
軌道が近付いた瞬間に、鞭にした“吉兆片翼の銀鳳凰”で二本の槍を拘束――そのまま奴の走行を封じるように振るい、打ちのめす!
「ガハ!! く、クソったれ。こうなったら、“水銀――」
“トリプル薬液スピアー”を口に突っ込んだら、喉らへんから“溶解液”によって溶けてくたばった。
「うわ、えげつな」
「アオイ、右に跳べ!!」
――わけも分からず言われた通りにすると、刃物が首筋を微かに薙いだ!?
「……あっぶなー」
すぐに距離を取って、警告の主と合流。
「サンキュー、リンピョン」
「相変わらず、こんな時でもテンション低いんだな、お前」
刀剣を構えているリンピョンが、私の前に出る。
「……なぜ、私の存在に気付けた?」
闇夜の中、姿がまったく見えない何者かからの質問。
「たぶん、コイツのおかげでしょうね」
リンピョンが自慢気に叩いて見せたのは、機械式の黒い籠手。
「透けてるけれど、ある程度は見えるわよ。ツインテールの獣人」
私には一切見えないのに、リンピョンには大体の特徴も解るくらい目視できているみたい。
「ユニークスキルって言っても、大したことないのね――」
派手な音と共に地面から煙幕が出現――あっという間に視界が悪く!!
「あいつ……逃げた?」
暗いから、余計に煙で見えない……アイツにも、私達の姿は捉えられないんじゃ?
「――“嘆きの牢獄”!!」
周囲の地面を即座に凍結させていくリンピョン!
「……捕まえた」
「く、クソッ!!」
不自然に二つの氷の筒が地面から生えていると思ったら、あっという間に女獣人の氷像になっていく!?
「はい、終わり」
“氷蛇の刀剣”で氷像を砕くリンピョン。
「アオイ、早くサトミ様を捜すわよ!」
「ああ……うん」
私が死ぬ前と全然変わんないな、リンピョンは。




