626.ペドフィリア
「ペドフィリアって……」
前にクリスに言われた、ペドファイルと同じような意味か?
「小児性愛者。つまりアイツは、コセが幼児に欲情する変態だと思っているんだ」
今まで応対していたであろうジュリーが教えてくれる。
「初対面でなんでそんなこと言われなきゃいけないんだ?」
「判らない。奴等は、お告げがあったとかなんとか言っていたけれど」
「最初にボス戦をしたのはサトミだったよな」
「私にも解らないわよー。転移直後に浮遊武器が出現して、私達を取り囲んだの。ジュリーちゃんのパーティーが来るまで、向こうはだんまりだったし」
「私達のパーティーが来たらいきなり話し掛けてきて、子供を解放しろとか意味の判らない罵詈雑言を浴びせられたんだ――特にコセの」
実際に耳にしたであろう者達から冷たい殺気が!?
「まずは俺が話してみる。さいあく、魔法の家に逃げ込むつもりでいてくれ。ここでも空間は繋げられるよな、メルシュ?」
「うん、それは問題ないけれど……場所がバレバレだと待ち伏せされちゃうかも」
「そこは仕方ない」
モモカに視線を向けた事で、ジュリー達が俺の意図を察してくれる。
敵対し、戦争に発展するのは構わない。
ただ、人殺しの現場をモモカには見せたくない。できればバニラにも。
「俺達になんの用だ!」
白人の男に尋ねる。
「お告げにより、少女を救う使命を我々は持っている! 大人しくモモカという少女を差し出せ! 私達が安全な場所に避難させる!」
「……モモカの名前を出したのか?」
「誰も言っていない。奴等は何故か、モモカとコセの名前、それに私達が《龍意のケンシ》である事を知っていたんだ」
レギオンリーダーである俺が現れない限り、向こうにNPCが居ても、どのレギオンか断定する方法は無いはず。
「お告げ……もしやチャネリングか?」
メグミの言葉。
「チャネリングって?」
「ああ……霊的な存在からアドバイスを貰う、みたいな感じか。預言者とかが予言を授かる方法とでも思えば良い」
「それがなんで、俺をペドフィリア扱いする話に?」
「チャネリング相手が善の存在とは限らない。純粋な気持ちの人間にお告げを与え、もてあそぶやり方は低周波存在のやり口の一つだ」
つまり、アイツらは騙されているだけの可能性もあるのか。一番面倒なパターンだな。
「おい、貴様! 聞いているのか!!」
上手い交渉の糸口が見つからない。
「お前らは騙されている可能性が高い! 大人しく帰ってくれ!」
「ふざけないで! 私達をこれまで導いてくださったアンネ様を愚弄するなんて!!」
白人男の隣に居た眼鏡の女が、遠目からでも判るくらい身体を震わせながら叫んだ。
「アンネ様のお告げによって、俺らのレギオン、《カトリック》はここまでたどり着けたんだ!」
「そうだ、そうだ!」
「クソ性犯罪者共が、とっととくたばれ!!」
向こうのプレーヤー達が騒ぎ出す。
獣人、エルフ、人魚、フェアリーまでもが一緒になって……種族に対する差別意識は無いみたいだけれど。
「まるで狂信者だな」
「まあ、レギオン名に《カトリック》なんて付ける連中だしね」
メルシュの、含みのある言い方。
「どうする、コセ? このままじゃ全面衝突する事になるぞ」
ルイーサの懸念。
「仕方ない。力を見せつけて黙らせる――武器交換、“名も無き英霊の劍”」
青石の剣を、左手に持ち替える。
「あの男!!」
「おい、待て! まだ早い!!」
白人男の制止を振り切り、一人の男が浮遊武器を動かしたらしく、周りもつられるように武器をこちらへと飛ばしてきた。
「舞い踊れ――“雄偉なる精霊と剣は千代に”」
白い精霊の剣を顕現――“技能剣支配”により、スキルによって形成された剣に分類される浮遊武器の――支配権を奪う。
「な!?」
「へ!?」
奪った剣、転剣、輪剣で迫る槍や斧などの浮遊武器を排除。
精霊の踊剣には浮遊武器の能力を強化する力もあるため、浮遊武器同士で打ち負ける可能性はほぼない。
「ク! 魔法だ! 魔法を放て!!」
「よせ、ヨシヒコ!」
さっきの勇み足の男がリーダーらしい白人男を無視して指示を出すと、空に数十を超える魔法陣が展開される。
「モモカを保護するんじゃなかったのかよ」
「マスター、出番だよ!」
シレイアの声が響くと、ユイが龍紋の太刀を別の太刀に持ち替えた?
「――“調伏”」
多方向から向かってきていた魔法が、一定範囲内に入ってきた途端に消失する。
「“調伏の太刀”、Sランク。魔術師殺しの武器の方が対魔法使いに優れているけれど、これだけの数の魔法に対抗するならこっちの方が有効かな」
「ヨシノ、今のうちにモモカとバニラを!」
「武器交換――――“アルティメット・ハフト”」
――白人男の方から、嫌な感覚が肌を撫でた!!
虚空に、無数の鈍色の武具が次々と出現していく!
「マリナ!」
“雄偉なる精霊と剣は千代に”を解き、“超同調”無しで――“雄偉なる硝子鏡は世界を映し出す”を精錬顕現!!
「贖え!!」
柄の無い鈍色の武具群が俺達に襲い掛かってきたため、硝子鏡を形成して対抗――クソ!!
「ああぁぁぁ!!」
「ヨシノッ!!」
モモカの手を引いていたヨシノの腕が、斧によって切断され――――
「――――あの野郎ッッ!!」
硝子鏡で鈍色の武器を包み込み、操作能力を奪う!
“雄偉なる硝子鏡は世界を映し出す”に十二文字を刻み、全力で横に振りかぶる。
「――――“飛王剣”!!」
長大な斬撃を放ち、白人男を狙う!!
「きゃああ!!」
「うわあぁぁ!!」
俺の一撃と共にユリカ達が周囲を攻撃。敵集団は大いに慌てだす。
「撤退しよう、マスター!」
「お前らだけで行け!!」
あの武器群を操る白人、アイツだけはここで!!
「相手はSSランク使い! 他にも居る可能性だって!」
「クッ!!」
メルシュに諫められる――クソ、頭に血が上り過ぎてるな!
「タマ、ユイ、俺達で撤退の時間を稼ぐ!」
同じくSSランクが使えるタマ、広範囲に魔法を防げるユイに残って貰い、敵の散発的な攻撃に対処。
俺達三人以外の撤退が完了したのち、俺達も撤退する。
「――グッ!!」
魔法の家への空間が閉じかけた瞬間、飛んできた鈍色の細剣により、ユイの肩を刺し貫かれてしまった!?
「ユイ!」
「気配……読み違えちった」
「クソ!」
ヨシノだけじゃなく、ユイにまでこんな!!
「……《カトリック》……絶対に許さない」




