622.魔女裁判跡地
「これが……魔女裁判跡地」
不気味な気配の暗い廃村へと足を踏み入れた私達の目の前に広がっていたのは、村娘達の様々な死体。
「悪趣味な演出だよねぇ」
「どういう事ですか?」
ケルベロスの背に乗るクオリアが、サンヤの言葉の意味を問う。
「そこら中、女性の死体だらけなのです。クオリア様」
クオリアの従者、レミーシャが最低限の情報だけを明かした。
首を吊った女性、首の無い子供、焼死体、刺殺、撲殺死体の山……目の見えないクオリアに、わざわざ伝える必要は無いだろう。
「こちらも酷い有様ですね」
「ヒビキは、以前は“捨てられた教会”だったか」
「ええ。向こうも、リアルに考えれば惨劇が起きたのが容易に想像できる有様で……残されていた書物に、多くの子供が悪魔崇拝の生贄のために、生きたまま臓器を摘出されたと……神父の部屋にあった日記に」
「胸糞悪いな」
実際にそういう事件が起きた事実はあるが、日本に住んでいると作り話のような気分になりやすかった。
下手に創作物の元ネタにするから、その手の常軌を逸した出来事が想像上のみの話だと思い込みやすい面はあるのかもしれない。
その手の思想の強い作品なんて、海外じゃ規制の嵐だろうしな。
「私とサンヤで一軒一軒探っていく。サカ……ネレイスは上空から、他三人は広場で周囲の警戒を頼む」
サンヤと共に、ボロボロの家を回っていく。
「五件目だけど、ここまで罠も何も無いね」
家の奥から金貨を回収するサンヤ。
私も、ここまでにルビーなどの宝石を回収している。
「あのさ~……魔女裁判ってなに?」
この世界で生まれた獣人であるサンヤには、何のことか解らなくて当然か。
「幾つもの国で起きた宗教裁判。魔女のレッテルを貼って異教徒を弾圧するのが最大の目的とされ、無実の罪で犠牲となった者は数十万から数百万人とされており、人によっては九百万人という者も居る。最低最悪の宗教事件の一つだよ」
自分達に都合の悪い物全てを魔女や悪魔のせいにするやり口は、宗教家の常套手段。
だが、世界のほとんどの人間がなんらかの宗教に属しているのが当たり前。
だからこそ、無神論者は神を敬えぬ野蛮な存在だと思われやすかった。
それが、何も知らない外国人から見て、日本が極東の野蛮な国だと思われる理由の一つでもある。
「宗教ね……面倒くさ」
「その魔女狩りをしまくった宗教が世界で最大規模の宗教の一つだと言うのだから、本当に救いようが無いよ」
「……リューナの世界の人達って、もしかして全員バカなの?」
「――ハハハハハハハハハ!! まさか、サンヤに言われるとはな!」
まあ、知識はともかく、自分で物を考えられない、無意識レベルで不誠実な人間ばかりなのは間違いないか。
「もう、笑わなくたって良いじゃん!」
「すまん。別にサンヤを笑ったわけじゃないよ……そういう世界だから、コセみたいな人間は……生きづらかったろうな」
巨大で面倒な権力構造に押しつけられた、社会常識。
疑えばきりが無いくらいにおかしな点ばっかりなのに、疑う事すらバカのする事だと断じる権力の犬……いや、ハイエナからネコババする、見た目だけ獅子のような奴等ばっかりだったからな。
「リューナは、コセに本気なんだね。まあ、私も良い男だとは思ってるけどぉ」
「今度、二人きりにしてやろうか?」
「遠慮しとくっす。ほら、次行こうっす!」
「おう」
次々回っていくも、襲撃も何も無く、クオリア達と一度合流する。
「残るは、あの一番大きな建物だけだ」
「村長の家ですね」
レミーシャが言う村長の家へ五人で向かうと――周囲の女たちの死体が動き出した!!
「情報を確認。彼女達は“アースバウンドウィッチ”。死して、負の感情により魔女へと魅入られてしまった物達です」
「それって、魔女裁判で死んだせいで、本物の魔女になっちゃったってことですか?」
クオリアの疑問。
「それ、本末転倒じゃないっすか!」
「魔女裁判などという物を実行する物達の精神性など、悪魔に相違ないというものです」
ヒビキがとんでもない事を言い出す。
なぜならヒビキの主張は、キリスト教の上層部は全員が悪魔だと断じたも同然なのだから。
まあ、私も同意見だがな!
『『『“紅蓮魔法”』』』
『『『“氷塊魔法”』』』
「ブリザードトルネード!!」
お気に入りの魔法で、包囲の一角を崩す!
『『『クリムゾンブラスター』』』
「――“幻影肩腕”」
ヒビキの両肩から、和甲冑の籠手のような大きな腕が出現――紅蓮の炎砲を防ぎきる。
「少し暴れます――“鳳凰翼”!!」
朱色の火翼で羽ばたき、“アースバウンドウィッチ”が密集する一角を襲撃するヒビキ。
「サカナ、援護してくれ!」
「サカナって呼ぶな! “水流弾”! “海水鉄砲”!!」
無数の水を器用に時間差で撃つと同時に、指輪から強力な海水の噴射――展開された魔法陣をキャンセルさせていくサカナ。
「このまま村長の家へ向かうぞ!」
数が多すぎる。このまま黄金の宝箱の中身を
回収して脱出した方が良い!
「“音階”――ドシラソファミレド!!」
タマがアルファ・ドラコニアンから手に入れたSランク棍棒をレミーシャが使用――八つの角の平たい部分から衝撃波が発生させ、手を伸ばして近付いてきた死体の魔女共を吹き飛ばした。
「チ!」
村長の家の前に、魔女共が密集。
「邪魔です!」
鞭のように伸縮し振るわれたレミーシャの腕の先、“音階の黒角打楽器”が叩き付けられ、衝撃波と共に吹き飛ばされていった。
「ナイス、レミーシャ!」
私とサンヤで近付く物達を始末し、なんとか村長宅へと到達した。
●●●
「“紅蓮脚”!!」
『ギャアぁぁぁァァ!!』
髪のない魔女の一体を蹴り飛ばし、六文字刻んだ“馬上で振るうは十字の煌めき”でまとめて数体を薙ぎ払う!
魔女狩り……犠牲になったのは女だけではありませんが、女性が狙い撃ちにされたのは明白。
古来、世界中で女の方が男よりも権力が上だった。
子を宿し、産み落とす事が出来る女が特別視されていたために。
だが、ある時を境に男根信仰が盛んになって女を蔑み、男の方が上だとする風潮が強まったという見方がある。
つまり、DSにとって、女が男より上に見られる傾向は都合が悪かったということ。
「本当に、ふざけた世界です――天翔の戦国馬!」
呼び出した和甲冑纏う黒馬に跨がり、十文字槍を振るいながら走破――魔法の発動を封じるのを優先に、次々と仕留めていく!
馬上系統の武具は、馬上で使用する事でその性能が上昇する。
――“幻影肩腕”を振るい、取り付こうとした魔女達を殴り飛ばす。
「このまま、纏めて吹き飛ばして差し上げます――“粉砕の十文……身体が」
魔女達の動きが止まり、私の身体が半透明になって消えていく?
「そうか、リューナさん達が黄金の宝箱を」
少し、頭に血が上り過ぎていたようです。
「コセさんは……違いますよね」
自分の安いプライドを守るために嘘をつき、誰かを蔑んで……欲望のために女達を苦しめたりしない。
「……確かめたいなぁ」
○宝箱の中身、“サクリファイスストーン”を回収しました。




