620.根獄の暗路
安全エリアの向こう、空間が歪んだ先に広がっていたのは……暗雲漂う夜闇にそびえ立つ……大きな建物。
「木造の大きな建築物。見たところ綺麗やし……十中八九、屍魔道学園やろね」
タマモの断定。
「で、あの学園の中にある黄金の宝箱を見つければ良いんだっけ?」
コトリが尋ねる。
「場所は理事長室やけど、その扉を開くために必要な四つの鍵は、ランダムに配置された黒い宝箱の中やね」
「宝箱は、全部校内に?」
マリナの質問。
「校庭に現れる場合もあるそうや」
「じゃあ、先に外から見て回った方が良さそうだね。よし、いっくよー!」
コトリが歩きだし、校門を潜ろうとした時――学園の校舎の方から多数の気配!
現れたのは、黒い同一のローブを着た骸骨の集団――全員が杖を掲げて、十を超える魔法陣を展開した!?
「「――“法喰い”」」
放たれた魔法のうち直撃する分のみを、タマモの尻尾の一つが握る銀の棍棒、“法喰いのメタルクラブ”と、コトリの“魔術師殺しの棍棒”が呑み込んでいく!
「ソーサラースケルトンや!」
「ケルフェ、私と二人で盾になるよ!」
「はい!」
「うちはええの、コトリはん?」
「タマモは穴を埋めるようにサポートして! その方が良いんでしょ?」
どういうこと?
「フフ、了解」
私の隠れNPCなのに、なんかコトリの方が通じ合ってる――面白くない!
「――“早駆け”!!」
魔法を放った骸骨集団、その陣形の横を突く!
刃の付いた盾、“貫けぬは剛直なる魂のごとく”に三文字刻み――第二大規模突発クエスト後に手に入れたトゲのある丸い大盾、“ウジャトの黒銀盾”に力を流し込んで強化!
「“連盾障壁”」
掲げた一つ目の盾の前面に六角形の障壁を連ねて展開――“瞬足”で一気に前へ!!
「“砂鉄盾術”、アイアンサンドチャージ!!」
速度と面を増強した砂鉄纏う突撃により、十以上の骸骨集団を一撃で全滅粉砕!!
「フー……さあ、行きましょうか!」
「「「ああ……うん」」」
うん、スッキリしました!
●●●
「“根獄の暗路”って……こういうこと」
転移した先に広がる、暗い土と岩の通路を進んだ先にあったのは……網のように根をはっている不気味な大樹。
その大樹の根には……私達以前にここへ来たと思われるプレーヤー達の白骨。ここから見えるだけでも六体はある。
「生きたまま樹の養分にされたのでしょう」
ヨシノの言葉。
「死んだら光になって消えるはずなのに、なんで白骨が残ってんの?」
「それも装備付きでな」
レリーフェの指摘通り、白骨体には装備がそのまま。
「あの大樹、“デーモン・エント”が私兵として使うためですよ」
ヨシノがそう言ったからではないのだろうけれど――“デーモン・エント”が蠢きだし、根が白骨体の頭蓋を貫いた!?
『『『カカカカカ!!』』』
まるでスケルトンみたいに、白骨体が息を吹き返す!
「皆さん、大樹の身体の中に黄金の部分が見えます!」
さすが猫獣人のタマ。この暗闇でも見えるんだ。
「どういうこと、ヨシノ?」
「根獄の暗路で黄金の宝箱を手に入れるためには、“デーモン・エント”を倒すしかありません!」
「良いじゃないか、分かりやすい! “風光弓術”――シーニックブレイズ!!
“スターズ・スプレッド”によって五つになった風と光の矢が放たれるも、緑黒の大樹の枝が壁となって本体には届かない。
しかも、案の定、あっという間に再生していくし!
「奴は火と光の耐性が低いです!」
「なら――武器交換、“大天使の黄金天弓”!」
レリーフェの手に、“ガブリエル”から手に入れたっていう豪奢な黄金の弓が顕現。
「“情熱の黄金矢”!!」
「“煉獄鳥”!!」
レリーフェの黄金炎の矢と私の紫炎の大鳥が迫るも、枝と根が壁となって相殺される。
「来るぞ、ユリカ!」
鋭い根数本が、槍のように高速で迫ってきた!!
「――“植物操作”!!」
ドライアドのヨシノの固有スキルにより、槍が跳ね返って自傷。
「相手がモンスターである以上、私でもこれが限界です」
「骸骨が来ます!」
ヨシノの能力に対抗するためなのか、死んだプレーヤーのスケルトンが武器を手に迫っていた。
「まずはコイツらから排除しないと!」
じゃなきゃ、大樹への攻撃に集中できない!
「ヨシノは大樹の攻撃を防いで! 急いでスケルトンを片付ける!
「「「「了解!!」です!」」」
『“紅蓮剣術”――クリムゾンスラッシュ』
「シールドカウンター!!」
ヨシノに迫っていたスケルトンの燃える剣を、タマが“アジュアバックラー”で弾き返した。
『“万雷矢”』
弓持ちが私を狙って!
「“塵壊”!!」
“煉獄と塵壊の鉤爪”で、雷ごと矢を塵へ。
「“飛剣・靈光”!!」
私を狙った弓兵を、レリーフェが腰から抜いた剣より放つ斬撃で……両断してくれた。
いや、弓で対抗しないんかい!
『“氾濫魔法”――リバーバレット』
「く!!」
「おのれ!」
奥にいた魔法使いによる攻撃により、私とレリーフェが負傷!!
「“蒼穹投槍術”――アジュアジャベリン!!」
タマが魔法使いを仕留めてくれた!
『“超竜撃”』
「“魔法障壁”」
ヨシノを狙った斧使いの攻撃を、障壁を破壊されながらも間一髪で防いでくれるスライムのバルンバルン。
「“激流砲”!!」
バルンバルンにより、危険な斧使いが倒される。
『“鋼鉄盾術”――スチールチャージ』
「――“神代の炎爪”」
大盾を正面に迫るスケルトンを、盾と鎧ごと――六文字刻んだ爪杖で焼き斬った。
『“吹雪魔法”――ブリザードトルネード』
「上から!?」
「させない! “法喰い”!」
スゥーシャが前に出て、“随行のグリップ”で浮かぶ“魔術師殺しの銛”を盾にし、魔法を消し去ってくれる!
「“聖水銛術”――セイントハープン!!」
「“煉獄の業火炎”!!」
「ハイパワーアロー!!」
「“蒼穹魔法”――アジュアトルネード!!」
「“氷炎魔法”――アイスフレイムバーン!!」
五人の攻撃が決まり、なんとかスケルトン共の大半を始末。
「マスター、このままでは私のMPが五分で底をついてしまいます!」
“植物操作”を発動しているあいだ、ヨシノはMPを大量に消費し続けてしまう。
「――速攻で決める! 全員、私に力を貸して!」
黒き五爪の大杖――“煉獄は罪過を兆滅せしめん”に十二文字刻む!!
「頼んだぞ、ユリカ!」
「お願いします、ユリカさん!」
「受け取ってください!」
レリーフェ、タマ、スゥーシャの文字と共鳴し――力が効率的に流れ込んでくる!!
「――――“神代の兆滅煉獄”!!」
全員の力を結集した神代の煉獄砲を“デーモン・エント”へと浴びせ――幹の中心部を完全に吹き飛ばしてみせた。
中部が消失した“デーモン・エント”の上部が落下……光に変わっていく。
「やりましたね、マスター。これで、養分にされた方々の装備は、全て私達の物です」
「ああ……そうな……んだ」
みんなと共鳴したからなのか、私の杖には、限界を超えた十五文字が刻まれていた。
「もう……無理……」
限界を超えた私の意識は……深く落ちて…………。
○宝箱の中身、“サクリファイスアンバー”を回収しました。




