617.レギオン戦の波紋
「で、どうだった、SSランクの使い心地は?」
リビングにいたジュリーとルイーサに尋ねる。
「ああ……元が“メタモルコピーウェポン”、Sランクだからか、オリジナルの“マキシマム・ガンマレイレーザ”には当たり負けしている感があったかな」
「向こうが大砲? でこちらが剣だったからかな? 向こうの方が単純に出力が上だったってだけだろうが」
利便性で言えば剣の方が圧倒的に上だから、その分向こうの方が威力が上で当然だと思ってるんだろうね、ルイーサは。
「だが、アレは破格だな。敢えて神代文字は刻まなかったが、それでも凄い殲滅力だった」
だから、本当はあまりSSランクを使わせたくないんだよね。
「それで、今回手に入れたSSランクは誰に? クリス辺りか?」
ルイーサの質問。
「クリスは隠れNPC扱いだから、SSランクは装備出来ないよ」
「ああ、そう言えばそうか」
「光線系統の武器だから、威力補正重視ならアヤナ。銃器の扱いだとチトセが良さそうなんだけれど」
「なら、リエリアで良いんじゃないか? メイン武器が銃だし」
私の迷いに一石を投じたのは、メグミ。
「……確かに」
武具の相性で言えば、あの子が一番かもしれない。
「手に入れた新装備が大量にあるし……一通り全員に試させても良いんじゃないかな」
ジュリーからの提案。
「どうしたんだ、ジュリー? 具合でも悪いのか?」
メグミが、ソファーの肘掛けにもたれ掛かりながら明後日の方向を見ているジュリーに尋ねる。
「……本当に辛い決断だけ、コセに押しつけてしまっているなって」
「まあ……な」
ルイーサもメグミも、マスターの裁定に思うところがあったらしい。
「コセさん、だいぶ辛そうでしたけれど……大丈夫ですかね?」
心配そうなリエリア……居たんだ。
「まったく、あんな奴等に“超同調”を使うなんて」
一度腐り始めた物は、周りも巻き込んでグジュグジュに腐っていくだけ。
醜悪に腐るか発酵して昇華するか。それが、低次元存在と高次元存在の精神関係そのものだっていうのに。
「……なのにどうして、コセは……」
彼がそれを望んだのならきっと、そこには意味があるはずだけれど……。
でも今回の件は……あまりにも危険すぎる。
●●●
「フンフンフーン♪」
教会の帰り、上機嫌のウララ様。
彼女の笑顔の先にあるのは、自身の左手薬指に嵌められた“最高級の婚姻の指輪”。
さっき教会で指輪の更新をし、ウララ様の指輪は低級から一気に最高級へとランクアップした。
「コセさんと、何か良いことでもあったんですか?」
「……うん。私のこと……心から受け入れてくれたの。最初は、あんな脅迫みたいに迫ったのに」
「脅迫?」
「な、なんでもないよ!」
あの日、二人はいったいどんなやり取りをしたのか。
「……ウララ様は昨日のこと……どう思われているのですか?」
「コセさんが決めたことを言ってるの、カプア?」
「はい。私は……やり過ぎだったのではないかと」
「……“超同調”でコセさんが何を見たのかは分からないけれど、私はあの時、彼の言動に心が離れる事はなかった。だから、受け入れているんだと思う。心の底から」
「そう……ですか」
私は、当初の予定通り、高ランクのアイテムだけを手に入れれば良かったのではないかと……思ってしまっている。
あの時、コセさんは何を垣間見たのだろう。
「あ、あの! 《龍意のケンシ》の方々ですよね?」
十メートル以上離れた所から声を掛けられ、駆け寄ってきた男が五メートル辺りで足を止めた?
この男の人、私達をかなり警戒している。
「何か用でしょうか?」
マントでウララ様を奴の視線から遮り、ウララ様が本をスタンバイする隙をつくっておく。
「せ、せめてお礼を……お陰で助かりました。本当に――ありがとうございます!!」
深々と頭を下げたのち、逃げるように走り去っていった。
「……今の、なんだったのでしょうか?」
「昨日の、生き残った二人のうちの一人じゃないかな?」
コセさんは、一時間以内に生き残った最後の一人だけを助けると言いながら、実際には一時間、誰も殺さずに生き残った者だけを助けた。
「でも、なぜお礼を言っていたのでしょうか?」
わざわざ礼を言われるような真似を、こちらがした覚えが無い。
「大半が幹部メンバーの奴隷だったらしいから、奴隷から解放された奴だったのかもな」
向かいからレリーフェさんとユリカさん、タマちゃんとスゥーシャちゃんがやってきた。
「皆さんはなぜここへ?」
「今日は一日自由になったから、一通り街を見て回ろうと思ってね。レギオン戦のお陰で、この街の危険人物はほとんど一掃されたはずだし」
そっか。他レギオンを無理矢理、吸収合併してきた《エクリプス》がほぼ全滅したから、私達は今、安全に外を出歩けているんだ。
「ていうか、あんたたち二人だけで出歩くのは危ないでしょう! 突発クエストに二人だけで挑まなきゃいけなくなったらどうすんのよ」
ユリカさんに叱られてしまう。
「「ご、ごめんなさい」」
確かに、迂闊だったかもしれない。
「ウララさんとカプアさんも、一緒に見て回りませんか?」
「私、お二人ともっと仲良くなりたいです!」
タマちゃんとスゥーシャちゃんからのお誘い。
「ウララ様、どうします?」
「うん、行きましょう!」
ラキ様が亡くなられてからずっと、ウララ様に張り付いていた自暴自棄な雰囲気が、今はもうすっかりなくなっている。
ホイップがラキ様だと判明したのち、ウララ様の自暴自棄はなりを潜めたものの、双子の弟との距離感を掴めずに苦しんでいたようだったけれど……コセさんのお陰で、そちらも問題なくなったようだ。
六人で街を回りながら、ふと考えてしまう。
私も……あの人に受け止めて貰っても良いのかと。




