615.マキシマム・ガンマレイレーザ
「ヨウナ、全員配置に付いたぞ」
《エクリプス》幹部のカヨコからの伝令。
「準備万端だねー」
真ん中の城の最上階で、私の愛おしいSSランク、大型機械砲――“マキシマム・ガンマレイレーザ”を構える。
「予定通り、開幕と同時に一発ぶっぱなすから」
それで何人か仕留められれば御の字。
一昨日、祭壇から下りてきた《龍意のケンシ》の人数は五、六十人。こっちの総数は百二十七人。
「私の一発でビビらせて守勢に回った所に特攻隊をぶつけて、数押しでエンブレムを破壊。うちの必勝パターン」
SSランクを手に入れてからというもの、なんでもありの奪い合いで敵レギオンを全員奴隷にし、ここまで勢力を拡大させてきた。
「《日高見のケンシ》と《白面のケンシ》はレギオン戦に持ち込む前に逃したけれど、今度こそ新しい男を手に入れてやるわ!」
「まだ男の奴隷が欲しいのか?」
「カヨコだって、今居る男とのセックスは飽きたって言ってたじゃん。レイラとナナ、スン、ユジュ、それと……バレリアとシャーロットもそんなこと言ってたでしょう」
もう一ヶ月以上、新しい男を仕入れていない。
「コセってやつ、なかなか私好みの顔してたし、あれだけ女侍らせてるんだから、性欲も人一倍でしょう」
五、六人で回して、一晩中イかせまくってやるわ!
『レギオン戦開始、十秒前。八、七、六……』
「ようやくか」
スコープを除き、遥か遠くの敵陣地へと狙いを付ける。
……櫓が幾つもあるのに、昇っているのは黒い鳥人の女? 一人だけか。
『一、零! レギオン戦、開始!!』
虚空から響く無機質な音声が途切れると同時に――SSランクの最大火力で敵陣地上空に向かってぶっ放す!!
「――行けやぁぁ!!」
極太のレーザーを上空で分散させ、奴等の陣地全域にレーザーの雨を降らせる!!
「ハーッハハハハハハハ!!」
さっきの黒い鳥人は櫓もろとも消滅したみたいだが、他に何人くたばったかな?
「……よしよし」
中立地帯に入るための三つの扉のうち、左右の扉を自分たちでぶっ壊して特攻隊、約百人が中立地帯に流れ込んでいる。
向こうに動きはないし、このままこっちの軍勢が敵陣地に到達するまで何度かレーザーをぶっ放して足止め。屋内での戦闘になればこっちの勝ちは決まったようなも――向こうの木造の屋敷エントランスから、二人の人間が飛び出して来た?
「速い……狙いを付けるのは無理か」
あっという間に壁の影に隠れて……ここから壁諸共にぶち抜いてやれば――
「な!?」
自らの陣地の左右の扉を、自分達でぶち抜いて来ただと!?
「ヨウナ?」
「仕事が速すぎる――いや、それよりも」
このままだと、たった一人で約五十人の軍勢とぶつかる事になるぞ!
●●●
「いつまで保てるか判らない」
《エクリプス》がSSランクを二つ以上所持している前提で考えられたコセの作戦は、私とルイーサにそれぞれSSランクの剣を持たせての特攻。
開始早々に撃ってこなければ、私かルイーサが犠牲覚悟で突っ込む予定だった。
囮のつもりで配置していた夜鷹の“鳥獣戯画”バージョン、ヨっちゃんだったけれど、まさかこっち陣地全域を攻撃して来るなんてね。
「こっちに来るぞ!」
「撃ち落としなさい!」
十を超える魔法陣が一斉展開。
――“雄偉なる明星は救済を願いて”を振るい、放たれた様々な遠距離攻撃諸共に天雷で吹き飛ばす!!
「うぅ……」
「まさか……今のって」
敵軍は壊滅状態。まだ戦えそうなのが何人か居るけれど。
「これだけの力を、ポイントの消費無しで自由に振るえるなんて」
自分で使ってみたからこそ、より実感する。
SSランクは、このダンジョン・ザ・チョイスのゲームバランスを破壊しすぎる。
野原を超え、敵が自分で破壊した扉から敵陣地へと向かう。
「……まさか、共鳴精錬した剣を自分が同時に使えないからって、私達に使わせるのを選ぶとは」
コセは、自分の手柄に固執しない。
効率的で大胆な方法を、躊躇なく実行する決断力と度胸がある。
「私の旦那は――世界一だな!」
●●●
『私の旦那は――世界一だな!』
「ジュリーの奴……」
レギオン戦専用のアイテム、“通信機”で連絡を取ろうとしたら、いきなり惚気セリフを聞かされることになるとは。
右側の扉を超えて、敵陣地へと突入――――レーザーが迫ってきた!!
「“守護武術”――ガーディアンランパートッ!!」
咄嗟に生み出したオーロラのカーテンで防ぎつつ、突破される前に守りに優れた城壁を生み出す!
「チ!」
城壁で弾かれたレーザーを操って、障壁を掻い潜ってくるか!
「“障壁支配”!!」
ユニークスキル、“障壁の支配者”の力で障壁扱いのガーディアンランパートを自在に変形――無数のレーザーを防ぎきる!
――レーザーが放たれていた真ん中の城のような屋敷上部に雷が直撃し、私を襲っていた青白い光線の奔流が途切れた。
「助かったぞ、ジュリー」
彼女が屋敷上部から侵入するのが見える。
私もすぐに追いかけ、屋敷に乗り込む。
●●●
『敵のSSランク使いと二人が戦闘を開始したのを確認――待機部隊、進軍せよ!』
“拡声器”を使用したレリーフェの凛々しい声が、俺の寝室にまで聞こえてくる。
「やはり、こういう役割はレリーフェさんにピッタリですね」
「だな」
「う~ん、いちご大福、美味しい~」
「ほんま、サトミは料理が上手やね~」
ドライアドのヨシノ、マクスウェルのフェルナンダ、スライムのバルンバルン、九尾のタマモなど、隠れNPC組が吞気にお茶してる……。
「コセ、アーン!」
「あ、アーン」
膝上のモモカが、手をベタベタにしながら千切ったごま大福を口に運んでくれる。
あのうどん屋の一件以来、俺に食べさせる事にはまってしまったらしい……恥ずかしいからもうやめて。
「本当に、クリスとレン以外の隠れNPCは参加しないつもりなんだな、今回は」
「プレーヤーの成長を妨げたくないからね~」
「本当は使用人NPCも不参加にしたかったんだけれど、今回は彼女達にとって初の本番だし、レミーシャにはクオリアのサポートっていう仕事があるしね」
シレイアとメルシュも、羊羹食ったりお茶を飲んでリラックス。
「随分落ち着いているな、お前ら」
「コセさんが落ち着いてますからね。バニラちゃん、アーン」
「ヤ!」
「ええー……」
バニラに拒まれて落ち込む、テイマーのサキ。
「はい、バニラ!」
「アウ♪」
モモカのごま大福は喜んで食べるバニラ。
「俺がって?」
「お前が大将だからと言うのもあるが、お前には、自分が顕現させたSSランクの消失が判るのだろう?」
「なら、コセが慌てない限り、ジュリーとルイーサは無事って事だ余! ――アッつ!?」
フェルナンダとナノカの意見に、一応納得する。
「それで、マスターは大丈夫? SSランクの同時顕現維持はキツいんでしょう?」
メルシュの心配げな顔。
「俺は維持だけに集中してるからな。思っていた程キツくはないよ」
距離が離れれば離れるほど、維持しづらくなる感覚はあるけれど。
「EXランク、“奴隷神の腕輪”……まさか、こんなにも早く使い道が見つかるなんてな」
この前の突発クエストでエレジーが手に入れたという、Sランクよりも珍しいEXランクアイテム。
装備したレギオンリーダーのレギオンメンバー全員を俺の奴隷扱いにし、たとえ俺のTP・MPが尽きても、発動した能力の消費に合わせて奴隷達から均等にTPやMPを削るという代物。
ジュリーとルイーサが奴隷扱いになったことで、今は“連携装備”が適用されている。
本来の意図とは違う使用方法なんだろうけれど、おかげで二人にSSランクを貸し与える事が出来た。
「デメリットは、“奴隷王の腕輪”とほぼ同じ。パーティーメンバーからレギオン全体に対象が拡大されただけ」
サキの言葉。
「……ああ」
俺が死ねば、奴隷扱いになっているレギオンメンバー全員が死ぬ。
観測者側が用意したアイテムであることを考えると、デメリットの方を期待して選んだ可能性が高そうだ。
「万が一の時は、我々も戦いますので。ですが、その必要はおそらく――」
『レギオン《エクリプス》の大将、ヨウナが敗れた事により、レギオン戦は終了! 《龍意のケンシ》の勝利!』
「え、もう?」
ヨシノの言うとおり、隠れNPCも俺も、全然出番が無かったな。




