613.光輝正教の主都
最後にルイーサ達がボス戦を終え、転移してきた。
「随分と綺麗な街ね……でも、なんか二十ステージに似ている気がするのは気のせいかしら?」
「あ、姉ちゃんも?」
そんな双子の会話が耳に届く。
街は白い六角柱状の建物ばかりで、神聖という印象を受けるも……妙に不気味というか。
「日も傾いて来ましたし、急いで下りましょう」
トゥスカに促されるまま、祭壇の麓へ。
「マスター。ここで数日、休養を取らない?」
メルシュからの提案。
「手に入れたアイテムやスキルの習熟もあるし、アイテムの制作依頼も出したいんだよねぇ」
「そうだな。久しぶりの攻略なのに、結構急ぎ足だったし」
ステージが四十代に入ったからか、地味に手強くなった印象もある……休めるときに休ませよう。
「この都市の滞在ペナルティーは?」
「一週間以内に毎週、正教教会にお布施をするだけです。確か、一人100000Gだったかと」
リューナとヒビキさんの会話。
「ようこそ、正教の総本山へ」
祭壇を下り終えると、聖職者らしき格好の白髪老人が和やかに声を掛けてきた。
「……へー」
メルシュの妙な反応。
「天使様の情熱を持っているのなら、私の方で買い取るがいかがかな?」
「それより、交換して欲しいんだけれど」
交換?
「ほう、何とかな?」
「“ミカエルの情熱”を“ウリエルの情熱”と交換で」
「うむ、構いませんよ」
メルシュとおじいさんが差し出したランタンの中身、赤味の白い炎と黄色味の白い炎が入れ替わる。
「そんな事が可能とは知らなかったな」
ジュリーが驚いている。
「オリジナルにあった仕組みかどうか判らないけれど、これで大天使の情熱が四種類揃ったね♪」
随分と機嫌が良さそうなメルシュ。
「アークエンジェルをレギオンに加えるつもりか?」
「大天使のサブ職業はもうクマムが持ってるから、無理に契約する必要も無いよ」
メルシュもジュリーも、当初からアークエンジェルは眼中に無さそうだったけれど。
「この四つのアイテム、どうやらオリジナルには無かった使い道があるみたいだよ」
★
「ウララさん?」
夜、“神秘の館”のエントランスに佇む彼女を見つけ、声を掛けた。
「コセさん……」
今朝も見た、申し訳なさそうな顔。
彼女の横に移動し、手すりに手を掛ける。
「ホイップと、何かあったんですか?」
どれだけ考えても、彼女達の関係性が俺には分からなかった。
「…………ホイップは――私の弟です」
「………………へ?」
予想外も予想外も予想外過ぎて、何を言われたのか数秒間理解できなかった。
「弟って……三十六ステージで亡くなった……」
「はい。突発クエストで亡くなった私の双子の弟……ラキです」
…………ぉぉーーん?
「そっか、レンと同じように……隠れNPCになっててもおかしくないのか」
なんで、わざわざ男を女の子の隠れNPCにしたのかは理解できないけれど。
「じゃあ、彼がレギオンを離れたのって……」
「カミングアウトされたのは四日前。本人も、明かそうかとても迷っていたみたいなんですけれど……アルファ・ドラコニアンとの戦いを見て、神代文字を刻める武器が必要だと思ったらしくて……」
遺言機能で、弟さんのアイテム一式をウララさんが持っていたのかな?
「でも私……受け止めきれなくて」
「弟さんが、女の子になってしまった事がですか?」
確かに、自分の弟が突然女になってたらな。
「違うんです……私が受け止めきれなかったのは……ラキに、元々女の子になりたいって願望があったって言われた方で……」
…………んんー?
「じゃあ弟さんは、女の身体になってしまったこと……」
「むしろ喜んでました」
……。
「でも私、ラキがそんな風に思ってたなんて知らなくて……双子だったのに」
二卵性だったのだろうか?
「……もしかして、ホイップが去って行ったのは自分のせいだと?」
だとすれば、ウララさんの申し訳なさそうな態度にも納得がいく。
「はい……ラキからしたら、自分の事を何も知らない人の所に行きたかったからとか、あの男の人を気に入ったからとかもあるんでしょうけれど……生きていてくれた事があんなに嬉しかったはずなのに、どうして私は……」
愛していたつもりだったのに、たった一つ前提条件が変わってしまった事により、その愛情を疑わざるおえなくなってしまった……か。
「……ウララの人生は、もう俺の物だから」
ウララさんが、ゆっくりと俺の顔を見詰めてくる。
「だから、ウララの愛は……誰にも渡さない」
背の低い彼女を抱え上げ、俺にだけ意識を向けさせる。
「コセ……さん?」
「誰よりも何よりも――俺を愛せ、ウララ」
キザっぽいとは思いつつ、できる限り飾らない言葉で、想いが正しく伝わるように……彼女に。
「――うん!」
涙を流す彼女に唇を奪われ、強く首に腕を回される。
身体を擦りつけながら何度もキスの逢瀬を繰り返され、彼女の離れたくないという感情を汲み取った俺は……そのままウララを、寝室に連れ込んだ。
★
「“超同調”」
翌日の早朝、軽く素振りを終えたあと、ルイーサとジュリーと一緒にある実験を開始。
「祈り灯せ――――“雄偉なる双聖女の極光聖剣”」
左手に、荘厳にして厳粛なる聖剣を顕現。
「聞き届けよ――――“雄偉なる明星は救済を願いて”」
右手に、橙色の翼を模した麗剣を顕現。
「せ、成功だな」
「他者の力を借りたSSランクの同時装備」
ジュリーとルイーサとの剣の精製がすんなり成功したため、思いつきで二本同時に挑戦してみたけれど……キツい。
右手と左手で全然違う作業を、同時にさせられているような感覚だ。
「まずは」
天雷の雷を無数に飛ばし、次に天井から降り注がせる!
今度はオーロラのカーテンを生成。カーテンを的に雷の槍を――ッ!!
「――ハアッハアッ、ハアッハアッ!!」
「大丈夫か、コセ!!」
二人が駆け寄ってきてくれる。
「うん、大丈夫。ハアハア、ハアハア」
「同時精製までは問題ないが、剣の能力を同時に振るおうとすると、一気に負担が増すって感じか?」
ジュリーの冷静な分析。
「ああ。剣の精製自体は一人でする時よりも負担が少ないけれど、剣を維持しながら戦いにまで思考を割くと、共同作業で生み出した剣の方が負担が大きい」
一人で生み出す大地竜の剣と精霊の剣は、生み出すまでの負担が重い分、使用時の負担はだいぶ軽い気がする。
自分だけの延長線上にある剣と、他者との道の先にある剣……か。




